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【日仏交流150周年記念行事】 デバ「サルコジ大統領の経済政策 ―フランス風サッチャリズム?」

日仏経済交流会(パリクラブ) 主催
在日フランス商工会議所(CCIFJ) 共催

日仏交流150周年 QRコードサルコジ大統領は、「過去との断絶」(Rupture)を標榜し、矢継ぎ早に革新的な政策を発表しています。その政治哲学は英国のサッチャーを思わせ、アン グロ・サクソンのメディアはサッチャリズムを連想しているようです。特にフランスの硬直的な労働市場の改革に有効な手を打てるかどうかが最大のチャレンジ の一つだと思われます。
また先日、同大統領は二人のノーベル賞経済学者(スティグリッツ、セン両氏)の協力を仰ぐ事を発表しました。

今回のデバでは、サルコジ大統領の経済政策について、フランスと日本の二つの視点から分析することにより、理解を深め、その行方についても考察しました。
またサッチャリズムとの比較についても議論致しました。

日時 2008年3月7日(金)18:45~21:15
スピーカー 中島厚志氏
みずほ総合研究所 専務執行役員チーフ・エコノミスト
ジャン・バルテレミー氏
ジャン・バルテレミー・コンサルタンシー代表取締役、元DATARアジア代表
コメンテーター ルイ・ミシェル・モリス氏
経済公使 在日フランス大使館
アニメーター 沢田義博氏
パリクラブ理事、帝国ピストンリング(株)常勤監査役 、富士銀行元パリ支店長
プログラム 講演会:18:45~20:15
懇親会:20:15~21:15(ビュッフェ形式)
使用言語 仏語
場所 メルシャンサロン
中央区京橋1-5-8メルシャン本社1階 明治屋並び
Tel:03-3231-5600
最寄り駅 東京メトロ銀座線京橋駅またはJR東京駅
 

■ご報告

(以下、パネル・メンバーの敬称略)

沢田:サルコジ大統領は、「過去との断絶」(Rupture)を標榜し、矢継ぎ早に革新的な政策を発表しています。その考え方は英国のサッチャーを思わせ、アングロ・サクソンのメディアはサッチャリズムを連想しているようです。
今回のデバでは、サルコジ大統領の経済政策について、フランスと日本の二つの視点から分析することにより、理解を深め、その行方についても考えてみたいと思います。

先ず初めにサルコジ大統領について、私の個人的な思い出を二つお話したいと思います。

  1. 2000年に、数人のフランス人の友人と共に、サルコジ氏と夕食を共にする機会がありました。当時はジョスパン首相の社会党政権下でした が、既に彼はRPRの有力者でした。夕食を摂りながら、約3時間以上、自由に議論しました。例えば、週35時間労働問題、労働市場の硬直性、公共部門のス ト等々。様々な論点で、我々と考え方に大きな差が無い事がはっきりしました。支持できる議員だと感じましたが、当時は彼が共和国大統領になるとまでは私は 感じませんでした。
  2. 2003年に、MEDEF(フランス経団連)の夏期大学に出席した時のことです。多くの大臣が講演者として呼ばれていました。当時サルコ ジ氏は既に内務大臣で、人気もありました。驚いた事に、彼が講演の為、ホールに入って来るや否や、自動的に出席者全員のスタンディング・オヴェイションと なり、大きな拍手が巻き起こりました。 他の大臣が入場した時はそんな事は起きませんでした。 この時、私はこの人がシラク大統領の後継者になるかもしれ ないと感じました。そして、現在では、彼はHYPERPRESIDENTと呼ばれています。

さて、ここで3つの問題提起を行いたいと思います。

  1. グリーンスパン氏はその回想録の中で、フランス経済の将来について悲観的な事を言っています。その理由はフランスの市場が自由で開放的な 市場となっていない事(フランス人の36%しか、このタイプの市場に賛成していません)。そして、グローバリゼーションに熱心ではない事です。
    事実サルコジ大統領自身も自分の主義はLIBERALISME REGULE (ある程度の規制や国家介入を認める自由市場主義)と述べています。
    但し、グリーンスパン氏はサルコジ大統領には期待感を持っているようです。2004年に両氏が会った時、大統領はアメリカ経済モデルの柔軟性を賞賛しているからです。
    サルコジ大統領はグリーンスパン氏の期待に応えられるでしょうか?
  2. フランスの労働法は労働者の権利を強く保護しています(おそらく西欧では一番)。この為、フランス企業は常に新規の雇用には非常に慎重です。以前、レイモン・バール元首相は講演で、フランスの最大の問題点は労働市場の硬直性(例えば、解雇が難しい)にあると言っています。
    サルコジ大統領はこの問題を解決できるでしょうか?おそらく大統領の最大のチャレンジです。
  3. 現在までの大統領の組合との交渉姿勢は、サッチャー元首相の改革努力を思わせます。特に1984-85年の最も過激な鉱山労働者組合との戦いです。最終的に彼女は勝利を収めました。
    サルコジ大統領はフランスの組合の説得に成功するでしょうか?
 

バルテレミー(講演):
「サルコジ大統領経済政策の三つの主要な分野:改革、労働市場、購買力」

  1. 経済指標については新規雇用者が昨年約99千人増加している事が注目されます。
    事実失業率は2007年第4四半期で1983年以来最低の7.5%にまで低下しました。これは大きな成果です。一方輸入増大の為、国際収支が悪化しています。
  2. 「もっと働き、もっと収入を増やす」が大統領の選挙スローガンです。労働市場については、本年1月に「労働市場近代化の為の合意」が成立 しました。例えば、試用期間の1ヶ月延長、職業間の移動を活発化させる事、高年層の雇用機会の開拓などです。また、デンマークに範をとった、 “FLEXICULITE”という考え方を検討しています。産業の変化の激しい今日、欧州の先進国では大体15%が失業し、15%の新規雇用が行われてい ます。従って、解雇を容易にし、一方新規雇用についても積極的に行うと言う考え方です。政府が音頭を取る事になります。 
  3. 購買力の増加については、彼は選挙公約として「私は購買力大統領」だと大見得を切っています。この点については既に昨年8月に “PAQUET FISCAL”と呼ばれるTEPA(労働、雇用、購買力)向上のための税制改革を実行済みです。例えば、週35時間労働に関する休暇RTTの未消化分の買 取、住宅ローン金利の税額控除、時間外賃金の非課税化などです。

国際面では、

  1. ユーロの為替レートの水準について欧州中央銀行との論争
  2. 財政均衡のEU基準への復帰の延期(2010年から2012年へ)
  3. 産業界のリストラへの政府の介入(フランス企業のみならず、フォード、ミタル・アルセロールなど)

最後にアタリ委員会提言(本年1月23日報告)についてお話します。300件を超える膨大な件数の政策提言をしていますが、本日はその中の数点について触れます。

  1. 中小企業支援策
    ・政府、大企業による付加価値税の中小企業向け支払を1ヶ月以内とする。
    ・行政当局による対応の迅速化 など
  2. 完全雇用の実現
    ・組合、経営者団体に係わる規則の近代化
    ・若年者雇用の強化(全ての企業、公的部門に従業員の年齢構成報告を義務付け)
    ・高齢者雇用の強化(65歳からの年金引き上げ) など
  3. 諸既得権の削減、地域間移動の奨励
  4. 現在の世代の生活水準維持を次世代の負担とはしない。
    公共部門の支出減少を2008年より開始し、2009年からGDPの1%の支出を減少せしめる。 など

2012年のフランス(中期的視点)
2008年4月よりの改革が着手されると、次のような目標が達成されると考えます。

  • 現在のGDP予想成長率に比し、更に1%増加
  • 失業率は5%に低下
  • 2百万戸以上の住宅建設
  • 公的負債がGDPの55%に低下
  • フランスへの観光客数が年90百万人に増加(現在は70百万を上回る水準)
 

沢田:質問1.サルコジ大統領はアタリ委員会に「貴委員会の提言は全て実行します。」と約束していますが、実際には彼は地方の県の廃止や、薬品業界 の規制緩和に反対していると言われています。従って、全ての提言は実行されない可能性があります。どの程度の提言が実際に実行されるとお考えですか?

バルテレミー:大統領自身はこのアタリ委員会の提言以外にも、多くの提言を受けています。そして、それらの多くの点について実際にコミットしています。彼は意見の対立を放っては置けない性格なので、意見の相違点があっても何らかの解決策を見つけ出すと思います。

沢田:質問2.サルコジ大統領は2008年、つまり年内に週35時間労働制を事実上撤廃しようと希望していると言われています。実現可能性は?

バルテレミー:個人的には実現すると思います。この発言は今年一月の年頭記者会見のものですので、あくまで彼の希望だと思いますが、既にその方向で RTTの買取や残業時間に係わる社会保障費の削減、免除等の政策が採られています。今後更に具体的な政策が発表されると思います。

 

中島(講演):「サルコジ大統領の経済政策の基本的な考え方」

1) サルコジ大統領は新自由主義者か? 或いは統制経済主義者か?

  • NEOLIBERALISME(新自由主義)の定義
    自由と個人の責任の原則に立ち、市場経済をベースとし規制緩和、小さな政府(公共部門の縮小、民営化など)を指向。
  • DIRIGISME(統制経済主義)
    政府が経済の方向、政策決定に大きく関与。

筆者注:欧州とアメリカでは「リベラル」と言う言葉の意味が異なる事に、ご注意下さい。アメリカでは「リベラル」と言うのは民主党左派の政策、即ち「社会民主主義的傾向、大きな政府」を意味します。)

  1. 新自由主義の例:サッチャリズムとレーガノミックス
    A.サッチャー首相の主要な政策
    • 金融財政市場 ― 為替管理法撤廃、ビッグ・バン、社会保険法改革
    • 民営化 ― BP, British Aerospace, British Telecom, British Gas, BA, Rover, Rolls Royce, etc
    • 労働市場 ― 80年雇用法(クローズド・ショップ制廃止)など
  2. 小泉首相の主要な改革(サッチャリズム的)
    • 金融市場の活性化 ― 不良債権の大幅な削減
    • 産業の活性化 ― 産業再生機構の設置により、ダイエー、カネボウ等のリストラを支援
    • 規制緩和 ― 1000件を超える規制を緩和
    • 郵政民営化
    • 社会保障改革
    • 地方行政改革(地方分権化推進)
    • 政府系金融機関改革、再編
  3. サルコジ大統領の改革
    彼の考え方はかなりリベラルですが、サッチャリズムとは異なります。
    • 自由な市場経済 ― 国家の介入を辞さない。
    • 小さな政府 ― 明確な政策なし。
    • 民営化 ― 明確な政策なし。 などが相違点です。

サルコジ大統領の考え方は多くのフランス人の意図を反映しているものと考えられます。即ち、新自由主義的改革の必要性に理解を示しながらも、その実行に躊躇しているのです。その状況は現在の日本に良く似ていると考えます。

2) 日本と比べたフランス経済の強みを列記します。

  • 増加しつつある人口
  • 政府の財政赤字が日本に比べ小さい
  • EUの存在
  • 市場経済のメカニズムがより浸透している
 

沢田:質問3.フランスは欧州諸国の中では国営企業の対GDP比率が最も高くなっています。ただ今の中島さんのプレゼンでも?が付されていました が、民営化についての大統領の考え方をお聞かせ下さい。 もし前向きであるならば、どの程度のテンポで推進するつもりなのでしょうか?

モリス:フランスでは既に、民営化推進はサルコジ大統領以前から政府の方針となっていますから、サルコジ大統領もその方針は変えないはずです。市場の状況を睨みながら、タイミングの良い時により高い株価で売却すると思います。

以下、フロアからの質問

檜山氏(CHROMagar):(質問)サルコジ大統領の政治哲学についてはどう考えれば良いのでしょうか?どうも政治哲学は無いように見受けられますが。

バルテレミー:大統領の政治哲学は、しいて言うならプラグマティズムだと思います。 彼の行動はイデオロギーを超えています。アタリ氏やベッソン氏は Socialste ですが、彼らの意見もどんどん取り入れています。

中島:小泉首相の政策も似ていました。彼の政策は結果的には新自由主義的でしたが、彼の真の意図は自由民主党の改革にあったのではないかと思います。

ルシュヴァリエ氏(日仏会館): 世界の中で、フランスと日本二カ国が必ずしも リベラルではない資本主義国だと思います。今後この二か国はアングロ・サクソン的な資本主義、新自由主義の方向に収斂して行くのでしょうか?

中島:日本やフランスが今後アメリカ的な新自由主義に収斂するとは思いません。 世界は多極主義とも言うべき多元的な方向に向かうでしょう。各国は市場メカニズムをベースとしながら、自国の特長やスタイルを活かした形の資本主義を採用して行くと考えます。

久米氏(パリクラブ会長代行):最近サルコジ大統領の支持率が低下傾向にあり、一方フィヨン首相の支持率は上昇しています。大統領とその政策の実行者である首相の支持率に大きな差が出ている事について、どうお考えですか?

バルテレミー:支持率は単なるバロメーターに過ぎないのですが、マスコミや社会により多くさらされている方が、より多く批判を受けるリスクにさらさ れます。まさにサルコジ大統領のケースです。 現在フィヨン首相はサルコジ大統領のアシスタント的な動きしかしていません。おそらくそれが原因ではないか と思います。

沢田:それでは、ここでモリス公使にこの講演会のまとめをお願いします。

モリス:議論が多岐に亘っているので、まとめる事はかなり難しいのですが、感じた点をいくつか述べてみたいと思います。

  1. まずサルコジ大統領とフィヨン首相については、今年来日が予定されていますので、その時に実際に皆様に感じて頂きたいと思います(フィヨン首相:4月11,12日、サルコジ大統領:7月初め)。
  2. フランスではサッチャリズムやレーガノミックスは余り人気がありません。特にレーガノミックスは大減税の結果、その後ものすごいインフレを招いたからです。
  3. 市場原理主義については危険だと思っています。
  4. シュンペーター流の「創造的破壊」についても、慎重な対応が必要でしょう。当時と比べると技術の進歩や多様化が比較にならない程加速化し ています。結果として失業者の急増を招き、国民は保護主義を求めるリスクがあります。国内企業の収益の維持に気配りする必要もあるでしょう。
  5. 私が考える真のLIBERALISME とは国境の廃止であり、EUは過去50年以上にわたり、その為の努力を続けてきた結果、今やそのGDPは世界一になりました。最近EUに加盟したポーランドなどは驚くべき経済成長を続けています。
  6. 私の担当分野である国際貿易について最後に述べます。 フランスの経常収支の赤字については、余り気にしてはおりません。なぜなら、現在 のフランスの強みはサービス産業(例、ホテル産業)にあり、経済成長の最大の原動力となっているからです。 サービス産業は必ずしも経常収支には貢献しま せん。

以上

(文責:沢田 義博)

旧富岡製糸場を訪ねる会

日仏経済交流会(パリクラブ)、日仏会館、在日フランス商工会議所(CCIFJ)共催

日仏交流150周年 QRコード2006 年秋に群馬県の旧富岡製糸場は世界文化遺産への登録申請を行いました。1872年完成の日本で始めての近代製糸工場で、貴重な工業文化建造物として当時の 外観を今に留めています。立地選定から操業細部に至るまで仏人技師Paul Brunatを筆頭とする仏国からの技術協力の賜物でありました。2008年は日仏修好条約150周年の年であり、本件を民間ベースでの150周年記念行 事と位置づけております。主催者側及び富岡市長より、日仏関係のなかでの富岡製糸場の意義につき種々のスピーチがあり、日仏関係150周年記念行事として の盛り上がりを見せました。東京都心からのバスツアーで、帰路、日仏関係の功労者である渋沢栄一氏の記念館や生家へも訪問しました。

日仏150周年を盛り上げると共に、富岡製糸場の世界文化遺産登録を少しでも後押しできればと思います。

日時 2008年3月1日(土)8:00~18:45
スケジュール 08:00 集合(新宿駅西口)
08:15 大型バスで出発
11:00~14:30 富岡製糸場見学 及び 昼食レセプション
15:20~16:00 渋沢栄一生家見学(埼玉県深谷市)
18:45頃 帰着・解散(新宿駅西口)
 

■ご報告

富岡製糸場見学/渋沢栄一生家訪問

  1. 朝8時に新宿西口に集合、総勢85名で大型バス2台で8時半前に出発しました。
  2. 日仏会館グループとパリクラブグループに分かれた形ですが、パリクラブバスの方に仏人の大部分が参加(約15名)、富岡製糸場PRビデオ上映後ポラック氏による詳細解説あり(一人で日仏語解説〉で、あっという間に富岡に到着しました。
  3. 午前11時頃から約1時間、ボランティア解説員の熱演ガイド付きで旧工場を見学しました。最近富岡の知名度が上がり訪問客が増えているこ とと、天気にもめぐまれた土曜日ということもあって、かなりの人出でした。そのせいで一部建物内部の訪問が出来なくなったのは残念でした。
  4. 12時過ぎからは、最寄のホテルで昼食レセプションが行われました。現地参加メンバー6名と富岡市長以下5名も加わり、100名近いにぎやかなレセプションでした。
    主催者側及び富岡市長より、日仏関係のなかでの富岡製糸場の意義につき種々のスピーチがあり、日仏関係150周年記念行事としての盛り上がりを見せました。富岡製糸場の世界遺産登録を願って、お開きとなりました。
  5. レセプション後、午後3時頃に深谷市の渋沢栄一記念館を訪問しました。館長さんの熱演ガイドで約1時間弱。その後生家(実際は妹の家)を訪問して、帰途渋滞も無く午後6時過ぎには新宿に帰着しました。
  6. ワインの持込をしたり、各自の参加費をかなり低く抑えましたので、赤字となっていますが、予算想定の範囲内であることを最後にご報告いたします。

以上

【日仏交流150周年記念行事】 テーマ「フランス関連ビジネスの変化とフランス語の使用」

日仏経済交流協会(パリクラブ)主催
在日フランス商工会議所(CCIFJ)共催

日仏交流150周年 QRコードパリクラブでは設立15年かつ日仏修好航海条約締結150年の機会を捉え、日本企業のフランス関連ビジネスの現状と変化、フランス語の使用状況を把握し、今 後の日仏関連ビジネスの発展、フランス語の普及そして日仏経済関係の発展を考えるための調査プロジェクトを実施しました。昨年11月以来、70人を超える パリクラブ会員やその他の方々にアンケートを実施し、フランスの経済人からもヒアリングも行ってきましたが、今般、調査結果のポイントを報告し、意見交換 をする会合を開催いたしました。

グローバル化の時代において、両国の企業や機関はフランスや日本だけでなくより広くアジアなど第三国でどのようにビジネスや業務を発展させるか、日 仏経済関係をどのように発展させるべきか、また英語が広く使用されるなかでフランス語をどのように普及するべきか。特にこれからビジネスや業務を担ってい く若い層が日仏関係への関心を高め、フランス語の能力を高めるにはどんなことをしたらよいかが、議論の中心となりました。

報告者の久米五郎太氏は2度にわたる日本輸出入銀行のパリ駐在員としてフランスを中心にEU・アフリカでの日本の輸出入・投資ビジネスを支援し、そ の後丸紅ではグローバルにインフラ・エネルギー事業に係わり、現在は国際的なエンジニアリング会社におり、海外投資などについて多数の論文を発表していま す。コメンテイターの綿貫健治氏は、ソニー・フランス副社長・横浜国立大学准教授などを歴任、ビジネスと教育の世界での経験が深く、現在は城西大学で国際 学術文化振興に携わり、昨年12月には「ソフト・パワー・コミュニケーションーフランスから見た新しい日本」の本を出しています。ベルナール・デルマス氏 はミシュラン・フランス本社に入り、日本には通算13年滞在、昨年秋にはパリからふたたび日本に戻り、二度目の日本ミシュランタイヤの社長を務め、グロー バルに競争し、協力するタイヤ業界で日本やアジアそして世界を対象とするビジネスに携わっています。

なお、この催しはパリクラブがおこなっている「日仏経済関係150年―回顧と展望」と題する一連の行事の第1弾にあたり、今後の議論を深めるための材料を提供することも目的とされました。調査実施にあたっては笹川日仏財団より助成金を受けました。
報告会やそれに続く懇談会におきまして活発にご意見を交換して頂きました。

日時 2008年2月21日(木)19:00~22:00
プログラム

■報告会:19:00~20:30 於:日仏会館ホール
<報告者>
久米五郎太氏(パリクラブ会長代行、調査チーム代表。日揮株式会社常勤監査役)
<コメンテイター>
綿貫健治氏(パリクラブ理事、調査チーム・メンバー。城西国際大学教授・城西大学国際学術文化振興センター副所長)
ベルナール・デルマス氏(日本ミシュランタイヤ株式会社代表取締役社長)
■懇談会:20:30~22:00(ビュッフェ) 於:レストラン・レスパース 日仏会館隣

言語 報告は日本語、コメント議論は日本語・フランス語(日仏同時通訳付)
 

■ご報告

経済交流会(通称パリクラブ)では、設立15周年の機会に、「日仏経済関係150年ー回顧と展望」プロジェクトの第1弾として、「フランス関連のビジネスの変化とフランス語の使用」を取り上げました。
07年11月から08年1月にかけてアンケートを実施、その後補足ヒアリング、08年2月21日に報告会・意見交換会を実施、それらの結果を下記pdf書類にまとめました。
「フランス関連ビジネスの変化とフランス語の使用」プロジェクト:報告書要約/2008.3【PDF】
「フランス関連ビジネスの変化とフランス語の使用」調査プロジェクトに参加して【PDF】

講演会「日本アニメの今 - 世界が注目する精鋭クリエイティブ集団 STUDIO4℃ -」

日仏経済交流協会(パリクラブ)主催
在日フランス商工会議所(CCIFJ)共催

日本アニメは、1970年代から80年代にかけて廉価なテレビアニメがフランスへ大量に輸出され一大ブームを起す一方、必ずしも良質な映像作品とし ては捉えられていませんでした。しかし、スタジオジブリの宮崎駿作品に代表されるように、現在の日本アニメはそのクオリティの高さが多くの人に認められ、 独自の世界観を持った、子供のみならず大人の鑑賞にも堪えうる映画として、国際的な賞を数多く受賞し、世界でもその存在感を示しています。

日本アニメの魅力はどこにあるのか。アニメ映画のみならず、宇多田ヒカルなどのミュージッククリップやゲームムービーなど、次々と創造性の高い、 エッジのきいた映像作品を生み出しているSTUDIO4℃の田中栄子社長を招き、同社のアニメ作品がどのように作られるのか、その企画から完成までをご紹 介いただくとともに、日本アニメが海外展開をする際の課題、フランスとのコラボレーションへの期待について語っていただきました。

【田中栄子氏プロフィール】
スタジオジブリで『となりのトトロ』『魔女の宅急便』のラインプロデューサーを務めた後、森本晃司らと共にSTUDIO4℃を設立。以来、常に先鋭的なビ ジュアル表現に挑み続ける。主なアニメ作品として、『MEMORIES』(1995)、『マインド・ゲーム』(2004)、『鉄コン筋クリート』 (2006) などを手がける。

日時 2008年1月28日(月)
講演会 18:30~20:00 日本財団ビル2階会議室
港区赤坂1-2-2 tel. 03 6229 5538
銀座線虎ノ門3番出口から外堀通りを徒歩5分
ビュッフェ 20:15~22:00 ル・プティ・トノー虎ノ門
港区虎ノ門2-1-1 商船三井ビル1階 tel. 03 5545 4640
同じく徒歩3分
講師 田中栄子氏(STUDIO4℃代表取締役社長)
進行 伊藤朋子(パリクラブ理事、笹川日仏財団日本側事業責任者)
使用言語 講演会は日本語(日仏同時通訳付)

ランデヴー・フランコ・ジャポネのご案内 「バジョン経済公使の réception de départ」

日仏経済交流協会(パリクラブ)主催
在日フランス商工会議所(CCIFJ)共催

バジョン経済公使は1985年に日本での1回目の駐在を始め、今回2007年に2度目4年間の滞在を終えられました。その間に台湾・中国・シンガ ポールにも勤務されました。これまでにもパリクラブの行事でコメンテーターにもなっていただきましたが、今回は22年間にわたりアジア、特に中国や日本の 経済を観察し、フランスとの経済関係に従事してこられたご印象や今後のアジアとフランスとの関係を率直にお話し願うことにしました。
フェアウェルを兼ねた会合となりました。

日時 2007年12月10日(月)18時30~20時30分
プログラム 18:30-19:30 講演
「アジアの経済発展・中国・日本についての印象 - 1985年から2007年まで5回にわたるアジア駐在を振り返って」
19:30-20:30 ビュッフェ
スピーカー ジャン・イブ・バジョン経済公使(フランス大使館経済部長)
場所 メルシャンサロン
中央区京橋1-5-8 メルシャン本社1階 明治屋並び
Tel:03-3231-5600
最寄り駅 東京メトロ銀座線京橋駅またはJR東京駅
使用言語 フランス語
 

■ご報告

  1. 忘年会の季節にもかかわらず、約60名が参加。主催のパリクラブ側だけでなく、在日フランス商工会議所からも会頭他が参加し、日仏が半々 の参加の催し物となった。バジョン公使による30分ほどの話しの後、20分ほど活発な質疑応答があり、その後レセプションで4年2度目の日本滞在を終える バジョン氏の歓送を行い、ワインを傾け、和気藹藹と歓談するうちに時間となった。
  2. バジョン氏の話は「アジアの開発から何を学ぶか」とのタイトルで、日本に2回、台湾・中国・シンガポールに各1回、合計15年間滞在し、観察したアジアの経済の発展の歩みと今後の見通しについて、個人の立場で率直な意見の披瀝がなされた。話しの要点は以下のとおりである。

    始めに日本・中国・シンガポールなどの3地域について、簡潔な観察が述べられた。日本では経済が回復してきたが、基本的に開放は進まず、島国のため移民や 外資の買収に警戒的で、政治も分かりづらく日本の魅力がそがれている。これまでのアジアでの日本の優位性が中国に挑戦されており、日本は消費市場の大きさ から中国を機会として捉える一方、リスクがあるために中国向け投資は節度をもって行っている。将来の日本は、政府債務と高齢化の負担が増大していく。
    中国は日本とは異なった経済モデルで、直接投資受入れで世界の工場になり、更にそれを超え、過去のポジションを取り戻そうとしている。今後も20年間は雇 用を確保していくために成長を続ける必要がある。中国の文化と価値観は20世紀の波乱に富んだ歴史のなかで培われ、金銭を重視するところは日本とは異な る。外部からの圧力には抵抗するので最近の元切り上げへの米EUの働きかけも効果が少なく、外圧に弱い日本とここでも異なる。
    台湾やシンガポールなどは中国と日本の関係の中で機会を捉える若い国である。
    こうしたアジアの国々は開発(日本が先頭)、自由貿易協定(中国が道を示す)、資源獲得、金融市場の場で競争している。米ドルとの関係が競争力に影響があ るので重要であり、輸出先でかつ地政学的な紛争解決力のある米国に依存し、その影響がきわめて大きく、欧州やフランスへの認識は通貨としてのユーロを除い ては低い。地域統合については、日中、シンガポール・マレイシア間などに歴史的な不信感が残っており、それを解決せんとする政治的な意思は弱い。経済面で は金融協力を行おうとしているが、経済政策面での協調・収斂は進んでいない。
    アジアの将来についてはグローバルに輸出をする経済モデルが続くだろうが、米国への依存を減らしたアジア中心が必要になる。環境への悪影響、資源の稀少化 というリスクのなかで、アジアは持続的な成長を可能にする産業革命が必要であり、ここに欧州にとって協力の可能性がある。
  3. Q&Aのセッションでは、東南アジアの華僑、アフリカでの中国の急速な進出、日本企業とのアライアンスが、話題になった。最後の 点については、ルノー・AXA・VALEOが日本に進出した10年間(1992-2002)は窓が開いていて投資が容易であったが、最近ではむしろ韓国の ほうが機会は多いのではないかとの回答であった。
  4. 最後に司会者として、バランスがよく、歴史と地理の両面で実にスマートにTOUR D’HORIZONをしてくれたことに感謝をするとともに、下記の3点が問われているのであろうとの締めくくりを行った。
    1. 日本が将来の成長を確保するためには外資への期待があり、フランス企業にとっての投資機会はあるのではないか
    2. アジアはDECOUPLINGし、米国経済の影響力は弱まっているという見方が出ているのではないか
    3. 中国などが環境に優しい成長・工業化を進められるのか
  5. バジョン公使は15年間に5回もアジアに滞在し、中国語だけでなく日本語も話す、アジア通の外交官で、フランスのシビル・サービスならで はの存在であったとの感を強くした。パリクラブとしてはこの4年間、フランス大使館経済部長として催し物などで協力を頂いた。ブッフエではパリクラブ会長 より改めて感謝の辞が述べられた。今後の一層の活躍を祈り、そしてできうれば日本やアジアに引き続き係わられることを望みたい。

(報告者 パリクラブ会長代行 久米五郎太)

講演会「日仏自動車産業の課題」

日仏経済交流協会(パリクラブ)主催
在日フランス商工会議所(CCIFJ)共催

現在世界中の自動車産業界は大きなチャレンジに直面しています。すなわち地球環境問題という大きな課題です。20世紀の文明は人類が移動の自由を得 ることによって大きく発展しました。しかしその代償は、21世紀の今日エネルギー資源の供給制約の顕在化と地球温暖化というかつてない課題に直面している ことです。

移動手段として最も普及し最もエネルギーを消費している自動車を製造販売する自動車産業はそれぞれどのようにこの課題に取り組んでいるか、また国際 協力はこのためにどのような形で推進されているか、日仏関係ではどうなっているか、などプジョージャポンのポワラ社長にお話いただきました。10月の東京 国際モーターショー等で日本国内でもこれらについて社会的な関心が盛り上がるものと思われる状況の中、開催されました。

日時 2007年11月14日(水)18時30~20時30分
スピーカー ティエリー・ポワラ氏
プジョージャポン株式会社代表取締役社長
司会役 姉崎直己氏
日仏経済交流会理事、日本自動車輸入組合副理事長
コメンテーター 錫村寛海氏
(独)中小企業基盤整備機構 国際統括室 経営支援専門員
場所 メルシャンサロン
中央区京橋1-5-8メルシャン本社1階 明治屋並び
Tel:03-3231-5600
最寄り駅 東京メトロ銀座線京橋駅またはJR東京駅
使用言語 フランス語

■ご報告

Mr.Poirat 講演要旨「グローバル化した世界での自動車産業の生き残る為に」

  1. 世界の自動車市場規模 68,2百万台、2000-2006年にかけては年間3%の伸びを記録した。欧米、日本以外いわゆる新興国では年率15%の成長を記録している。その結果新興諸国の総市場は今日では年間1700万台と欧州市場に相当する規模に成長した。
  2. 一方生産は6,980万台を記録している。生産と販売の関係は地域別に違う。例えば欧州市場では生産1600万台に対し販売は1700万台であり、差は日本、韓国などからの輸入となっている。因みに日本では生産と販売の差が550万台あり、これらが輸出されている。
  3. 人件費を見てみる。USAを100とするとEU15カ国は143、フランスは157、日本は94。これに比べチェコは33、中国は5となっている。こうした背景もありBRICsでの生産は急増している。
  4. 製品としての自動車の進化の実態はどうか?世界の大きな問題が環境問題である。CO2の全体の排出量に対する輸送部門の排出は25%である。自動車技術もますます環境を意識した開発が行われている。
  5. 輸送部門でCO2を削減するには以下のようなことが挙げられる。代替燃料などである。
    1. 電気化
    2. 車両全体効率の向上
    3. パワートレイン(駆動)効率の向上
    4. 公共輸送の活用
  6. 1リットルのガソリンはどのように使われているか?車に注入されるガソリンを100とすると、実際に車を動かすために使われているのは 15%に過ぎない。もっと車を改善する余地がある。自動車の性能を上げてCO2削減するためには、新素材の発見使用、ガソリン、ディーゼル、エタノール、 バイオディーゼル使用の新型エンジンの開発、その他、トランスミッション、タイヤ、Stop & G0, GPS、ドライバーの性格。既にある技術をより活用する。
  7. 一方車に対するユーザー側からの期待は多様性に富んでいる。欧州では排気量の低い車に需要は移りつつある。またセダンタイプの乗用車から、スペースを重要視するワンボックスタイプやSUVタイプの需要増が見込まれる。発展途上国には低価格車が続々導入されようとしている。

結論:こうした複雑且つ困難な自動車を取り巻く環境でこの産業が発展するためには以下のようなこためには以下のようなことを考えて行かねばならない。

  • 車両価格の安定と熾烈な競争
    • 開発コストのシェア
    • プラットフォームの数を制限する。
    • 市場接近型で柔軟性あるが、非常に生産性高い工場をもつこと
    • 品質の追求
  • 環境保全と持続的成長の為に
    • 整合性あり且つ野心的な世界レベルと地域での戦略を打ち出す。
    • R&Dへの継続的投資。
    • 従業員と株主への適切な還元
    • 企業発展のための営業利益の確保
  • こうした新しい局面での自動車産業への税制の配慮。

この後、Peugeotの環境を配慮しつつ性能向上した製品群の紹介があった。

 

コメント:錫村寛海(トヨタ自動車OB)

今日の世界的課題は環境問題を考慮した持続的発展を如何に成し遂げてゆくかであろう。Piorat氏のプレゼンにあるようにCO2排出については自 動車の責任は大きい。各メーカーは限られた経営資源の中で技術革新を推進している。技術開発分野ではメーカー間の協力を推進すべきだと思う。(販売分野は 不可) かつてPSAの会長であったカルベさんもその趣旨のことを言われていた。

排気ガス規制に関してEUが近い将来新たに自動車産業にとって規制を実行するであろう。 グローバル化した世界ではEU、USA、日本などの間で整 合性のある政策をとってゆく必要がある。OICA(世界自動車工業会)など業界団体が果たす役割が意義あるのではないか? 国連などの国際機関での政策協 議も必要になろう。

一方でユーザーの皆さんの車に対する好みはプレゼンの中にもあるように多様性に富んでいる。Eco Carと言うだけで 性能が良くなければお客様は買ってくれない。どの辺りが車メーカーの苦悩するところである。

OICAの統計では世界の自動車産業の Turn Over 合計は1兆9000億ユーロで世界6番目の経済大国に匹敵する。また世界全体直接雇用数は800万人で間接雇用はその5倍と見られ、自動車産業全体では5000万人の雇用を抱えている。

この産業が生存して行く為には環境問題と車に関するユーザーの皆さんのご理解が不可欠。