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【レポート】磯村名誉会長時局放談会「2018年は欧州の年 その出足は!」第四部

1時間に及んだ磯村氏の講演も、いよいよ最終章に。ヨーロッパを中心とした世界の情勢分析は、地球経済の大きなうねりの中にある我が国日本に及びます。読む人によっては、衝撃的な、あるいは耳の痛い内容も含んでいますので、心してお読みください。

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本邦マスメディアのヨーロッパに対する無理解

で、結論の部分なんですが、実は日本のメディアとか学界がいかにフランスやドイツにあまり好意を持っていなくて、何と言っても米英を第一に置いて情報を発信しているということを、私は強く感じているわけです。たとえば、マーストリヒト条約のときにようやく日本のマスコミの間でも、EUに対する関心が起きまして、電通さんが主宰して帝国ホテルで大がかりなセミナーをやったんです。私はそのパネリストとして出たんですが、フランスとドイツがマドル・スルーしてもEUは大丈夫なんだと発言したのは、パネリストのうちでは、私と日本興行銀行の当時副頭取をしてらっしゃった黒沢洋さんだけなんですね。黒沢さんは、興銀のデユッセルドルフ支店長をしてらっしゃいましたのでドイツのことに詳しかったんです。でも、私は割合こう見えても気が小さくて……(笑)。何しろコテンパンに……誰とは言いませんがプロの英米評論家諸氏や同僚に叩かれました。みんな「フランス・ドイツなんてのは長く持ちませんよ」と仰るんです。関西のある有名な女性の評論家なんかは、フランス・ドイツの仲がいいのは2013年までにダメになっちゃうなどと御本までお書きになった。伴野文夫さんもマクロンを巡る話の中で、日本のマスコミのこうした偏向については語っています。

戦前は外務省でもヨーロッパがメジャーだった

実は、戦後日本のヨーロッパ大国軽視、英米重視にはそれなりの歴史があるわけですよね。かつては、日独伊三国同盟なんてのを松岡洋右さんなんかが言っていた。その反動もあり、戦後はこれからはアングロサクソンにぴったりくっつかないとダメなんだというのが、幣原喜重郎以降の基軸になっているわけですけど、戦前は全く逆だったわけですね。戦前は外務省においても、メジャーがヨーロッパでマイナーがアメリカだった。たとえば英語で外交官試験に受かると、一番はオックスフォード、二番はケンブリッジ、三番はUCL、四番にハーバードが出てくるかどうかだった。で、この間早稲田大学での講演でこの話をしたら、「やっぱりカリフォルニアは三番目に出てくるわけですか」という学生がいたんですが、三番目はUCLであって、それはUCLAじゃないんです(笑)。ユニバーシティ・カレッジ・オブ・ロンドンというのは長州ファイブの――私の女房の曾祖父になる――井上勝とかですね、伊藤博文とか5人の長州の侍が行った大学ですし、今「西郷どん」をやっていますけど、薩摩の人たちが学んだ学校で、当時はオックスブリッジは貴族でも入れなかった。外国人はましてや入れなかった。UCLは一番いい大学だった。しかし、UCLと聞けばUCLAと瞬間に思っちゃうくらい、今の日本はアメリカにぴったりくっついているわけです。

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【レポート】磯村名誉会長時局放談会「2018年は欧州の年 その出足は!」第三部

「ヨーロッパに吹く風」を語る磯村氏は、「逆風」としてドナルド・トランプ政権下のアメリカを筆頭に挙げます。トランプ大統領を巡るメディアの言説は、どうも我が国日本とヨーロッパでは少々温度差があるようなのですが……。

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ブレグジットの交渉での「手切れ金」

ま、そういうことで、外交面でフランスは今順風満帆といった感じなんです。もちろん順風のうちのひとつに、ブレグジットの交渉というのがあります。ブレグジットについはは長くなりますし、予定時間をだいぶ超過しましたので簡単に解説したいと思います。今第一次交渉が去年中に終わっていまして、3つの点が一応の合意を得ています。ひとつはいわゆる人間の婚約関係でいいますと、離婚にあたっての手切れ金みたいなもんですね。実際、「清算金」と呼んでいますけど、これについてテレサ・メイ首相がフィレンツェで行った演説で、イギリスが200億ユーロぐらい払えばいいのかな、と言ったら、EU側がとんでもない、そんなのは話にもならないと。というわけで、最終的にイギリスが600億ユーロ払うという暗黙の合意が出来ました。次の問題が、現在イギリスに暮らす320万人に及ぶEU諸国からの留学生とか学者とかそういう人たちの裁判権や色んな問題をどうするか、という議論になるわけですが、これについてEU側は、ヨーロッパ司法裁判所の規定には従うが、イギリスの法律には従わないと言った。イギリスは、それは主権の侵害だといって突っぱねたんです。昔のイギリスなら巧くいったんでしょうが、何しろ今は閣内が割れているわけですね。メイ首相は選挙を早めてやったりしたんですけど、キャメロンと同じで読みを誤って、今それどころではない。これもEU側の順風の原因となっています。

イタリアの混乱については心配無用

さて、次に逆風のことを考えてみたいと思います。まず、外交面で考えてみますと、たとえばイタリアの選挙では指導力のある政党がいなくて、三すくみみたいな感じになっていますよね。これまでのレンツィ首相が率いた左派が後退して、「30%論」みたいな様相を呈している。いわば現役が惨敗して、中道右派のベルルスコーニが糸を引いている中道右派と、極右のポピュリストが指導者となって勢い付いている五つ星運動それに旧北部同盟との、三すくみの状態なんです。ただ、イタリアが統治困難に陥るというのは、今に始まったことではないんです。クリスチャン・ソテール(ミッテラン大統領時代の経済・財政・産業大臣)が私にメールで言ってきたのは「ヨーロッパの統合は、今『ローマの休日』に入った」と。映画「ローマの休日」は、オードリー・ヘップバーン扮する王女様がローマの休日で楽しい思いをするわけですよね。つまり、“イタちゃんのすることにはいちいち目くじら立てませんよ”というのが、ヨーロッパの大人の解釈であるわけです。だからあまりイタリーの連立がどうだのああだのというのは皆さん、お考えにならなくてよいかと。イタリーっていうのは幸せな国で、天才もおりますしバカも大勢いるので、いろんな意味で大好きな国なんですけど、あまり心配しなくてもいい。むしろ最大の逆風は何か?これはもう皆様の顔に書いてありますが、ドナルド・トランプという大統領率いるところのアメリカであります。

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【レポート】磯村名誉会長時局放談会「2018年は欧州の年 その出足は!」第二部

マクロン政権への追い風を語る磯村氏の話は、さきごろフランスとドイツで交わされたエリゼー条約改定へと広がります。極めて野心的な連携を約したこの条約改定の報は、ビッグニュースであるにも関わらず、日本ではほとんど伝えられておらず、要注目です。

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日本とEUに大自由貿易圏が誕生する

実は日本とEUは、EPA協定(ヨーロッパ経済連携協定)というのを去年の暮れに大筋合意しまして、今年細かい詰めをやって、来年1月1日から効力を発します。これによって工業製品の多くは即時撤廃ですし、皆さんもご承知のようにワインの関税が撤廃されるとか、ソーセージやハムやチョコレート、パスタ、さらにはハンドバッグなども関税が取れる。日本からの輸出としては、今自動車には10%の関税がかかっていますけど、7年でこれが全廃される。安部さんのいう大自由貿易圏が出現するわけです。日本とEUのGDPを足しますと、全世界のGDPの28%になります。そして貿易量でいうと、これは私も意外だったんですが、40%近いんですね。専門家の見通しによると、日本とEUのEPA協定によって、かなり貿易量が増大していく状況にあります。今年は2019年の発効を前に、まさに日本にとっても「ヨーロッパの年」といえるわけです。

イギリスのEU脱退

今年はEUの前身であるEEC(ヨーロッパ経済共同体)が出来て (1957年条約調印、1958年発効) 、60年ほどになるわけですが、丁度私は1958年、NHKの若い特派員としてパリに参りました。そのときはヨーロッパ総局特派員ということだったのですが、総局といっても総局長と私と2人しかいなかった。2人になってやっと総局らしくなったというんですが……(笑)。そんなような時代を経験しましたけども、その初仕事のうちの一つがEECの発足を報ずることでありました。その原六カ国はご承知のようにフランス、ドイツ、イタリア、ベルギー、オランダ、ルクセンブルグという六カ国ですね。これによって彼らは、ロベール・シューマンやジャン・モネら先達の意向を汲んで、二度とフランスとドイツが戦争をしない、そしてヨーロッパは一カ国ではとてもアメリカやソビエトといった超大国には対抗出来ないから、一種の第三勢力としてヨーロッパ合衆国的なものを徐々に作っていく――という夢のために一緒になったのです。このEECは、六カ国のうちは良かったんですが、67年からECになりますね。それから92年には今のEUになります。これは28の国なんですけど、来年3月からはイギリスが抜けて27になります。大所帯ですし、広がれば広がるほど色んな問題が出てくる。

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【レポート】磯村名誉会長時局放談会「2018年は欧州の年 その出足は!」第一部

さる3月6日、虎ノ門の日本財団会議室で、外交評論家・磯村尚徳(パリクラブ名誉会長)氏による時勢放談会が行われました。今回のテーマは「2018年のヨーロッパ――その出足」。幼少期をトルコやフランスで過ごし、NHKヨーロッパ総局特派員やテレビ「ニュースセンター9時」のキャスター、NHKヨーロッパ総局長などを歴任した氏の広範な知識と人脈、そして鋭い分析力は誰もが知るところ。この日のトークは、ヨーロッパと我が国日本の今後の関係を占う意味で、またトランプ政権下のアメリカを考える上でも、敬聴すべき内容となりました。そのスリリングな語りを出来るだけ正確にお伝えするため、今回は若干の修正を加えた、ほぼ全編再録となります。全4回に分けてお楽しみください。

フランスにおける、ただ事でないマクロン政権の人気

風といいますと、今の季節私たちは春一番や春の嵐を真っ先に思い浮かべるわけですが、今ヨーロッパに吹く風は、突風的なものではなくて、春風駘蕩の爽やかな風です。「ミスター・ヨーロッパ」こと欧州委員会のユンケル委員長が欧州白書の中でこんなことを言っています。「ヨーロッパはこの10年間危機の時代にあった。しかし今では風がヨーロッパというヨットの帆に戻り、この順風を受けて、これからはその帆を一層膨らませることが可能になった」そういうことで、本日はヨーロッパに吹く順風と逆風に分けて話したいと思います。ちなみに私はイギリスはヨーロッパと思っておりません。そのことについては、後ほど少し触れたいと思いますが、ヨーロッパというのは、あくまでもヨーロッパ大陸ということでございます。さて、ではヨーロッパにはどんな風が吹いているのか?それを内政面から見ていきましょう。まずヨーロッパの中心を、フランスにおいて考えてみたいと思います。世論調査で64%という圧倒的な支持を得て誕生したマクロン政権は、この5月7日で1年を迎えます。発足後間もなく労働法制面で大胆な改革を断行したマクロン政権は、そのため一時支持率が40%に落ち込みますが、すぐ50%台へと回復し、改めてフランス国内での人気を印象付けました。バザンという評論家は、ここ1年のマクロン政権をどう評価するか?という記者の質問に対し、全体的に成功であったという趣旨のことを言っています。どういうところで成功だったか?それは、フランス人の中にある王政へのノスタルジーとドゴリズムの再評価――ドゴールに対しては極右も極左も尊敬の念を隠さないんですね――を深く理解していたことにあるといえます。このことは、何よりその大統領就任式を官邸ではなく、ルーブル美術館=ルーブル宮廷で行ったことによく顕れています。ルーブル美術館のガラスのピラミッドの横から照明を落として、EUの国歌にあたる第九の「歓喜の歌」に乗せ、しずしずと登場した光景は今も目に浮かびますが、そのことをフランスのある哲学者が「マクロンは選挙の洗礼を受けた。それによってサークsacre)を得た」と表現しています。サークというのは、聖別という意味で、聖別とは、司教や王様が一般の人とは違うことを示す式典のことをいうんですね。マクロンが洗礼と聖別を同時に行ったことが、フランス人の心を打ったのです。ちなみにフランス人は大革命という歴史に残る大事業を果たしているわけですが、21世紀に入って行われたフランスの世論調査では、王や王妃をコンコルド広場でギロチンの露と消したこと、あれは間違いだったという評価を80%を超す国民がしています。

大衆紙にも愛されるマクロン・ファミリー

就任してまずマクロンが打ち出したのは、前任者との違いでした。オランドは、フランス語でフェネアン、つまり、のらりくらりして肝心なことを先延ばしにしてしまう。サルコジはブラブラブラ(blah blah blah)。おしゃべりで軽い。この前任者二人によって、ドゴールやミッテラン、シラクといった人たちが大統領らしい大統領だったのがダメになったことをちゃんと回復しよう、という意気込みがあの就任式に早くも表れていました。さらにいうと、前任者が――差し障りがあったらごめんなさいね(笑)――“不倫の塊”みたいな人たちだったのに対し、マクロンは連れ合いが25歳年上で、大変仲が良く、その連れ合いの子供と一緒に暮らして食事をする。フランス人としては、当節大変珍しいわけです。そういうところがテレビで報道され、フランス人の中にある懐旧の情を揺さぶる。しかも、ブリジットさんという賢夫人が大変芸の細かいことをするわけですね。クローゼルとかパリ・マッチなど大衆紙の読者層の人気まで得て、いわゆるプレス・ピープル大衆誌に「健全な家庭」を売り込んだ。

>> ショワジールする へつづく

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【開催済】磯村名誉会長時局放談会「2018年は欧州の年 その出足は!」

昨年9月25日に開催した磯村名誉会長米寿記念講演は、内容がわかりやすかったと好評でした。前回はドイツ総選挙直後だったため欧州の状況が不確定でしたが、今回の講演ではその後の欧州の動向とマクロン政権の方向性について磯村名誉会長の見解を拝聴したいと考えております。

日時 2018年3月6日火曜 18時 受付開始
          18時30分 講演
          19時30分 懇親会
会場 日本財団2階会議室
   東京都港区赤坂1丁目2番2号日本財団ビル
   虎ノ門駅・溜池山王駅下車5分
講師 磯村尚徳名誉会長
定員 50名
協賛 在日フランス商工会議所(CCIFJ)
協力 TMF日仏メディア交流協会
会費
(事前振込み)
会員 2,000円
一般 3,000円
(振込先は申込み頂いた方に個別にご案内いたします。お振込みをもって出席とさせていただきます。)

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