【レポート】磯村名誉会長時局放談会「2018年は欧州の年 その出足は!」第二部

イギリスの仏独に対する複雑な感情

ヨーロッパのニュースをみると、どうしてもそうした(EU内の)揉め事が真っ先に来るわけです。特にその極端な影響を受けるのが、我が日本国なんです。何故かというと、大体アングロサクソンはフランスとドイツが好きではありません。特にイギリス人の本音というのは、ドイツというのは戦争に負けた“敗戦国”なんですね。フランスは一応ドゴールという英雄がいたために、勝ち戦なんてほとんどやっていないのに、戦勝国の仲間で安保理常任理事国なわけでしょ?それはそれで面白くないわけですよ。仏独の事実上の通貨であるユーロというのが基軸通貨になって、イギリス人の得意とするpound sterlingというものが基軸通貨の位置さえないですからね。こうしたことがあまり伝わってこないのは、ファイナンシャルタイムスなど良質な経済誌も、やっぱりユーロのことになると偏見を持って報道するからです。EUとかECというと、まず最初に出てくるのが英語でマドル・スルー(muddle through)ということなんですよね。これは、もたもたするということ。EUは、ぐたぐたぐた揉めて何となくまとめていくというようなことをずっとやっていました。

イギリスは、分裂させて統治する

確かに大所帯をまとめるには色んな妥協が必要ですが、マドル・スルーの状態になる原因の一つが、――私は決して反英ではなくてイギリスが好きですが――イギリスという存在なんですね。イギリスという存在は、歴史的にも大陸上で一つの国がイニシアティブを取ることを好まない。そのために大陸の国を競わせてディバイド・アンド・ルール(divide and rule)――分裂させて統治するということを大英帝国以来やっているわけです。だからEUに入っても色んなことを文句付けては、マドル・スルーさせてやってきたわけです。国民投票が決まった日に、私は2つのメールを友人から貰いました。ルクセンブルグのシンクタンクにいる友達は、フェリシタシオン――お互いおめでたいなぁ!と。つまり、異物がいなくなってこれでせいせいして本当のヨーロッパを作っていけると。もう一人は、日本好きで知られるクリスチャン・ソテールでして、「イギリスというブレーキがやっと切れたので、さぁ前に進もうヨーロッパ」と祝電を送ってきた。

「年寄り殺し」マクロン

そういう背景の元にこれからヨーロッパはどう進んでいくか?まず、フランスとドイツの関係が基礎をなすことは、皆さんもご承知の通りです。両国首脳の個人的な関係が歴史上最も良いといわれています。二人の関係=タンデム(tandem)のことを、国際ジャーナリズムではM&M(メルケル&マクロン)タンデムと呼んでいます。二人は本当に仲がいいんですね。いちゃついているんじゃないかと言う人もいるくらいで、もう大臣時代からメルケルがマクロンを非常に買っていたのは知られているんですけど、マクロンのあだ名の中には「21世紀のナポレオン」とか「21世紀のドゴール」とか「21世紀のジャンヌ・ダルク」とかいう言い方がありますが、私はロスチャイルド銀行のロスチャイルドが、マクロンを雇っていたときに彼を評した言葉が一番ぴったりくると思っています。つまり、「年寄りをナンパする男」。あるいは「年寄り殺し」。メルケルはブリジット夫人より一つ年下ですね。メルケルがマクロンのことをこんなふうに評価しています。フランスの雑誌に紹介されたドイツの雑誌の評なんですけど、メルケルいわく、自分は色んな頭のいい奴に会ったけど、彼は並外れた才能である、しかも政治家としての素晴らしい度胸を持っている、と。そして何よりもこれほど運のいい政治家は珍しい、と。かつてナポレオンは、どこかと戦争をする前に、ある男を司令官にしようとしたときの話ですが、彼のことをこんなに戦績を上げています、と部下が伝えたところ、ナポレオンはそんなことは聞く必要がない、と言った。そして「そいつは運のいい男か?」と聞いたといいます。やはり、“運のいい”というのは人生に付いて回りますよね。それだけに苦労人の賢夫人ブリジットは、このままだとプレス・ピープルに、メルケルとマクロンはいい仲だなどと、あらぬ噂を立てられる。メルケルのご亭主のジョナサンという人は、大学の教授で大変地味な方なんですが、先日は北海の旬のニシンが捕れたと言って四人でテーブルを囲んだという記事が出ていました。それくらいの仲なわけです。

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