【レポート】磯村名誉会長時局放談会「2018年は欧州の年 その出足は!」第一部

ショワジールする

二つ目に打ち出したのは、彼自身も語っているように「21世紀にあって権力はコンパクトでなければならない」ということ。日本語でさらに平たくいうと、「少数精鋭で行くぞ」ということになります。それと、「ヴェルティカル(垂直)でなければならない」ということ。これはトップダウンということですね。前任者たちが変に“普通の人間と一緒”という感じだったのに対し、「そういうのは間違いで、そこは改めるんだ」という意思表示です。ちょうど先々月の末に、ジャン=イヴ・ル・ドリアンという外務大臣が、日本政府との打ち合わせで日本に来ていました。何回も記者会見をやったりして、私も直接話を聞いたのですが、彼はマクロンの教師のようなところがあるんですね。ブルターニュ出身の老練なる政治家で、凄く日本が好きなんです。日本ブルターニュ協会の会長もしていますし、このパリクラブの二代目会長で私の友人である元東銀の渡辺君も、ちょっと前に夫妻と伊香保温泉で過ごしたって話でしたね。そのル・ドリアンさんに、マクロニズムって何かと聞いたら「clest choisir donc trancher」だと。それは、フェネアンでもブラブラブラとも違う。ショワジール(choisir)するんだと。決定するんだと。決めた以上は、一挙に実現するんだということです。そのことが最もよく顕れているのが、労働法制の問題です。

ベイビー・マルキシズムをやってる場合じゃない

マクロンの労働法改正に対して、当初組合側は、極左のメランションらを中心にストを呼びかけましたけど、少数精鋭のエリゼ宮のスタッフが色々と手を尽くして、デモはだんだん先細りになった。普通、デモって回を重ねるごとに増えていくものなんですけどね。そんなふうにフランス人の意識も変わってきたわけです。前任者たちがおっかながってトランシェー(tranche)をしなかったことで、フランス国内で色んなことが遅れている。労使の協調も出来ていないし、労働法制の問題は、フランスの評判を落としている。今はメランションのような「ベイビー・マルキシズム」、つまりガキのようなマルキシズムをやっている時代じゃない。というのをフランス人もよく判っているんだ、というのがマクロンのフランスに対する解釈の仕方でありまして、空港を新たに建設する問題でも、反対運動を一挙に切っちゃったわけですね。もっと凄いのは、放射性物質の廃棄場所の問題で、住民の反対運動を軍隊まで動員して排除した。ル・モンドが行ったフランスの世論調査の回答では、88%が「大統領らしい大統領を望む」。そして「大統領は権威を持つべし」というのが84%なんです。一時的に支持率が40%に下がっても、やってる方向は正しいんだとル・ドリアンさんもさかんに私に言っていました。

フランス野党のみじめな弱さ

それと、マクロンが得していることの一つに、野党のみじめな弱さがありますね。フランスのマスコミがよく言っているのは、今のフランスの政界はトリロジー(trilogie)だと。何故「三部作」という意味のトリロジーなどと言われるのか?左を見ると、そこにあるべき共産党と社会党が左端に寄せられちゃっている。特に社会党に至ってはもう空き家同然で、党首が党員ですらありません。いっぽう右を見ると、極右のマリー・ルペンは、一時はスーパーマーケットの社長のような感じがあったけれど、討論会などでの発言もあまりにお粗末で、結局“右翼”という小さな商店の商店主にしか過ぎなくて、副党首もルペンを見捨ててさっさと出て行ってしまった。右のほうには、もうひとつ共和党があって、ドゴール派の保守本流の後継であるべきはずなんですが、フランソワ・フィヨンという人が、つまらないスキャンダル(妻に勤務実態がないにも関わらず、公金から手当を10年間も払っていたことが露見した事件など)――つまらないというのは、森友学園のスキャンダルよりはつまらないという意味ですが――を起こした結果、力を失っている。つまり、トリロジーというのは右と左が両脇に寄せられて、真ん中に中道が出来てそこにマクロンがドンと座って、脅かされる要素がないということなんです。これについて、パスカル・デミノーという教授が適切な言葉で述べています。「マクロンの外交の成果と、内政に対する態度によって、自分の国にデテステ(déteste)していた――つまり愛想を尽かしていたフランス人も、お互い尊敬することを学びつつある」と。その意味でマクロン政権には今、内政面で順風が吹いていると思います。

>> 中国で確かな商才を見せたマクロン へつづく