【レポート】磯村名誉会長時局放談会「2018年は欧州の年 その出足は!」第一部

さる3月6日、虎ノ門の日本財団会議室で、外交評論家・磯村尚徳(パリクラブ名誉会長)氏による時勢放談会が行われました。今回のテーマは「2018年のヨーロッパ――その出足」。幼少期をトルコやフランスで過ごし、NHKヨーロッパ総局特派員やテレビ「ニュースセンター9時」のキャスター、NHKヨーロッパ総局長などを歴任した氏の広範な知識と人脈、そして鋭い分析力は誰もが知るところ。この日のトークは、ヨーロッパと我が国日本の今後の関係を占う意味で、またトランプ政権下のアメリカを考える上でも、敬聴すべき内容となりました。そのスリリングな語りを出来るだけ正確にお伝えするため、今回は若干の修正を加えた、ほぼ全編再録となります。全4回に分けてお楽しみください。

フランスにおける、ただ事でないマクロン政権の人気

風といいますと、今の季節私たちは春一番や春の嵐を真っ先に思い浮かべるわけですが、今ヨーロッパに吹く風は、突風的なものではなくて、春風駘蕩の爽やかな風です。「ミスター・ヨーロッパ」こと欧州委員会のユンケル委員長が欧州白書の中でこんなことを言っています。「ヨーロッパはこの10年間危機の時代にあった。しかし今では風がヨーロッパというヨットの帆に戻り、この順風を受けて、これからはその帆を一層膨らませることが可能になった」そういうことで、本日はヨーロッパに吹く順風と逆風に分けて話したいと思います。ちなみに私はイギリスはヨーロッパと思っておりません。そのことについては、後ほど少し触れたいと思いますが、ヨーロッパというのは、あくまでもヨーロッパ大陸ということでございます。さて、ではヨーロッパにはどんな風が吹いているのか?それを内政面から見ていきましょう。まずヨーロッパの中心を、フランスにおいて考えてみたいと思います。世論調査で64%という圧倒的な支持を得て誕生したマクロン政権は、この5月7日で1年を迎えます。発足後間もなく労働法制面で大胆な改革を断行したマクロン政権は、そのため一時支持率が40%に落ち込みますが、すぐ50%台へと回復し、改めてフランス国内での人気を印象付けました。バザンという評論家は、ここ1年のマクロン政権をどう評価するか?という記者の質問に対し、全体的に成功であったという趣旨のことを言っています。どういうところで成功だったか?それは、フランス人の中にある王政へのノスタルジーとドゴリズムの再評価――ドゴールに対しては極右も極左も尊敬の念を隠さないんですね――を深く理解していたことにあるといえます。このことは、何よりその大統領就任式を官邸ではなく、ルーブル美術館=ルーブル宮廷で行ったことによく顕れています。ルーブル美術館のガラスのピラミッドの横から照明を落として、EUの国歌にあたる第九の「歓喜の歌」に乗せ、しずしずと登場した光景は今も目に浮かびますが、そのことをフランスのある哲学者が「マクロンは選挙の洗礼を受けた。それによってサークsacre)を得た」と表現しています。サークというのは、聖別という意味で、聖別とは、司教や王様が一般の人とは違うことを示す式典のことをいうんですね。マクロンが洗礼と聖別を同時に行ったことが、フランス人の心を打ったのです。ちなみにフランス人は大革命という歴史に残る大事業を果たしているわけですが、21世紀に入って行われたフランスの世論調査では、王や王妃をコンコルド広場でギロチンの露と消したこと、あれは間違いだったという評価を80%を超す国民がしています。

大衆紙にも愛されるマクロン・ファミリー

就任してまずマクロンが打ち出したのは、前任者との違いでした。オランドは、フランス語でフェネアン、つまり、のらりくらりして肝心なことを先延ばしにしてしまう。サルコジはブラブラブラ(blah blah blah)。おしゃべりで軽い。この前任者二人によって、ドゴールやミッテラン、シラクといった人たちが大統領らしい大統領だったのがダメになったことをちゃんと回復しよう、という意気込みがあの就任式に早くも表れていました。さらにいうと、前任者が――差し障りがあったらごめんなさいね(笑)――“不倫の塊”みたいな人たちだったのに対し、マクロンは連れ合いが25歳年上で、大変仲が良く、その連れ合いの子供と一緒に暮らして食事をする。フランス人としては、当節大変珍しいわけです。そういうところがテレビで報道され、フランス人の中にある懐旧の情を揺さぶる。しかも、ブリジットさんという賢夫人が大変芸の細かいことをするわけですね。クローゼルとかパリ・マッチなど大衆紙の読者層の人気まで得て、いわゆるプレス・ピープル大衆誌に「健全な家庭」を売り込んだ。

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