【レポート】講演会『フランスはなぜショックに強いのか?』~持続可能なハイブリッド国家

フランス経済は内需主導型

5月18日、日仏会館において、今年4月まで4年間にわたってパリクラブの会長を務められた瀬藤澄彦氏(現パリクラブ・フランスフォーラム議長)を講師に、ニッセイ基礎研究所上席研究員の伊藤さゆり氏をゲストにお招きし、講演会「フランスはなぜショックに強いのか?~持続可能なハイブリッド国家」を開催しました。瀬藤氏は、本講演と同タイトルの新著を6月13日に文眞堂から発売される予定です。伊藤氏は、NHK「クローズアップ現代」や「経済フロントライン」に出演されたほか、昨年11月に開催した講演会「英国EU離脱 経済的影響と国際関係の展望」にもご登壇されたので、ご存じの方も多いのではないでしょうか。
マクロン新大統領が誕生し、フランスが世界的に注目を集めているなか、フランス経済の展望などについて、専門家の視点から分かりやすく解説していただきました。

前パリクラブ会長の瀬藤氏

前パリクラブ会長の瀬藤氏

日本人が抱くフランスのイメージというと、ファッション、グルメ、高級ブランド、アートなど華やかなキーワードが挙げられると思いますが、パリやフランスの地方に20年近くも暮らしていた瀬藤氏は、そういうイメージが先行している状況に違和感を持たれているそうです。なかには、パリを訪れた日本人が、想像していたパリとあまりにも違うため、「パリ症候群」になってしまうこともあるのだとか。後段で詳しいお話をされていましたが、多くのフランス人は、外食やファッションの支出を控えるなど、意外にも質素で堅実なライフスタイルを好んでおり、その点では日本人と通じ合う部分があるかもしれません。
また、EU内における最大の経済大国であるドイツが隣国ということもあり、フランス経済に活気が感じられないとみる風潮も強いのですが、瀬藤氏は「経済面で問題がある国というイメージも先行しています。しかし、10年、20年単位で見ていくと、違った姿が見えてきます」と、この点でもイメージとのギャップを指摘されています。世界経済を疲弊させたリーマンショック。多くの国が後遺症に苦しむなか、ドイツを除き、最も早くリーマンショック以前の水準に回復したのがフランスでした。
そのドイツにしても、東西ドイツが統一された90年代初頭から2000年代初頭くらいまでは、経済成長率でフランスの後塵を拝しており、当時は「フランスは世界経済の機関車。ドイツ経済はヨーロッパの病院」などと揶揄されていたのです。ドイツの場合は、ユーロ導入が有利に働いたうえ、東欧のEU加盟によって安価な労働力を確保できたことが躍進につながったのですが、反対にユーロ導入で競争力を失ったのがフランスでした。
フランス経済の特徴は、景気変動の山と谷の幅が小さいこと、輸出に頼らない内需主導型であること、そして幅広い利害関係団体ネットワークが構築されていること。内需主導型についていえば、堅調な個人消費が経済を支えており、政府が笛吹けども内需が伸びない日本とは対照的といえます。このほか、GDPに占める輸出依存度をみると、フランスの29%に対しドイツは46%。外需主導型のドイツとの違いが歴然としています。自動車産業を中心にグローバル化の波に乗ったドイツは、中国など新興国への輸出が好調で、いまや「過度な黒字国」と位置づけられていますが、外需主導型は文字通り外的要因に左右されるため、長期的にみれば、内需を柱にした国づくりに魅力を感じます。