【レポート】講演会『フランスはなぜショックに強いのか?』~持続可能なハイブリッド国家

商工会議所が強いフランス

日本で利害関係団体というと、あまりいいイメージがないのですが、フランス社会では欠かせない存在となっています。
「医者も看護師も警官も弁護士もジャーナリストもタクシー運転手も、みんなストライキをやります。それから、エリート大学を出た人たちは、卒業年度ごとに名前がついていて、強い団結力を誇っています。これを利益の塊と批判する声もありますが、私はフランス型のセーフティーネットワークになっていると思うのです」
最近の日本ではストライキに接する機会はほとんどなくなりましたが、職場の団結力が強いのは、羨ましい気がしないでもありません。商工会議所の在り方も、日本とはかなり違っているようです。
「ビジネススクール、空港、港湾、工業団地などは全部、会議所の運営です。マルセイユ、リヨン、パリなどの商工会議所は一等地にあり、シャトーのように立派です。加盟が任意の日本とは違い、すべての企業が加盟を義務づけられており、また職業税を納める義務もあるので、会議所は潤沢な資金を有しています。フランスでは、ありとあらゆるところに利害関係団体と商工会議所のネットワークが張り巡らされているのです」
日本人の利用も多い、フランスの新幹線(TGV)。「正規料金で乗っているのは外国人だけ」とのこと。なぜなら、フランス人であれば、ネットワークによる何らかの優待があるからで、これも羨ましい話ですね。

経常収支の赤字を緩和する観光、農業。順調な個人消費

フランスの経常収支を示すデータ

フランスの経常収支を示すデータ

前段で触れたように、国際競争力で劣勢に立つフランスは2004年以降、経常収支が赤字に転落。これは輸出に頼らない政策から、貿易等の不振が赤字の要因となっているのですが、この赤字を緩和しているのが、観光・サービス業と農産物加工品です。テロの影響が懸念されるものの、みなさんのイメージ通り、フランスは世界屈指の「観光大国」であり、魅力ある多彩な観光資源は、多くの人を魅了してやみません。フランスは食糧自給率世界2位の国でもあり、ワインなどの飲料、乳製品、穀物など農産物加工品の輸出は100~200億ユーロの黒字をキープしています。農業人口は4%と少ないものの、近代化に成功したことが高い自給率を支えており、農業に付随したアグリビジネスは、自動車産業を凌駕するほどの一大産業となっています。農薬開発では、日本の企業も進出しているそうです。

好調な個人消費を維持するうえで、重要なファクターとなるのが出生率。フランスは高い出生率を誇っていますが、その主な要因を挙げると、手厚い公的支援や女性が働きやすい環境、シングルマザーに寛容な社会などがあります。政府による家族関連手当の支出は3~5%。日本の0・7%とは雲泥の差ですが、瀬藤氏は「財政難の日本では、フランスのような支援は絶望的」と冷静な見方を示されていました。
また、「母親はできるだけ長く赤ちゃんと過ごすべき」との考え方が根強い日本とは違い、フランスでは生後まもなくシッターに預けるのが一般的で、民間シッター業が非常に発達しているそうです。子どもが増えることで、洋服などチャイルド用品関連の消費も伸びており、「支出ばかりが増える」といったネガティブな考え方はありません。また、家事と育児と社会(仕事)の並立が重視されている点も、積極的な出産を後押しする要因であり、出生率の低下に悩む日本が見習うべき点も多いのではないでしょうか。
個人消費は個人の金融資産とも密接な関係がありますが、フランス人の資産はこの10年で倍増し、米国、日本に次ぐ世界3位。しかし、その内容は日本とは明確な違いがあります。日本の場合は預貯金(現金)ばかりなのに対し、フランスは預貯金、株式、保険の比率が見事に3等分されているのです。こうした国は世界的に珍しく、瀬藤氏は「フランス人の中庸な精神の現れでは。ライフサイクルを描きながら消費できているのだと思います」と分析されていました。

税制については、多種多様な税の種類があるのもフランス社会の大きな特徴です。日本は約50種類ですが、フランスはなんと215種類! 直接税4に対し間接税6の割合となっています。ちなみに日本は直接税6に対し間接税4。税制の国別比較は難しく、どちらが住みよい社会かは簡単に論じられないのですが、ヨーロッパ内では圧倒的に長期である失業手当30カ月というのは、労働者にとって大きな安心材料となり得るでしょう。政府の一般会計のほか、独立した社会保障会計が設けられているのも、日本と大きく異なる点です。