寝たきりにさせず、人間の尊厳を守る
ジネスト氏の講演が始まり、氏がユマニチュードの技法をどのように確立してきたかが語られました。
「私は体育の教師なので、人間が健康であるためには体を動かすことが重要だと考えてきました。しかし認知症医療の現場では、患者に動かないでいることが求められ、ときには縛られ拘束されることがあります。それは安全に医療を行なうためなのですが、わたしにはとてもショックで、人間の尊厳が守られているように思えませんでした。」
「私とロゼット・マレスコッティは、病院が最も対応に苦慮する患者を紹介してもらい、3万人ほどの方と対応するなかで、数百にのぼる技法を開発しました。それがユマニチュードです。」
「ユマニチュードの技法によって多くの方が寝たきりにならずに済んでいます。認知症の方は死を迎えるまでの何年もの間、寝たきりでいることがよくあります。しかし私たちの活動では寝たきりになるのは平均して7日間ほど、亡くなる前のほんの数日間にとどまっています。私は寝たきりになっている患者の9割以上は、そうならないで済んだはずだと確信しています。」
理念は自由・平等・友愛
「私たちはケア技法を開発してきましたが、技術には哲学がともなうべきだと考えています。そこで自分たちが持つべき価値観は何かを考えました。そのベースになったのがフランス人権宣言であり、フランスのスローガンである「自由・平等・友愛」です。ユマニチュードではケアを実践するにあたり、患者の自由を尊重すること、平等に接すること、優しくあることを大事にしています。」
「価値観を持つだけでなく、それを実践することが必要です。冒頭の映像に出てきた看護師の方も本当に優しい方です。しかし技術を知らないのです。また個人が技術を知るだけでもダメで、それを継続的に実践し続けるために組織として取り組む必要があります。」
「例えば、ある患者さんがこれまでずっと夜中にお風呂に入っていた場合、昼間に風呂に入れられることに激しく抵抗することがあります。そこで組織として夜の時間に入浴する体制が取れたら、大きな変化があるでしょう。また昼間の時間に食事をしないときも、もうこの人は自力で食べられないと判断され、経管チューブによる栄養補給が行われますが、夜に食事を提供できれば自分で食べられることもあるのです。」
「こうしたことを実践するには、どうスタッフを配分するかなど、組織として大きな変革が必要になりますが、工夫すれば方法は必ず見つかります。」