【レポート】フランス生まれの画期的ケア技法 「ユマニチュード」の本格的普及に向けて

目と目を合わせ、手を通して感情記憶に働きかける

「ユマニチュードの具体的な実践についてお話しします。
本田先生に招かれ日本で初めて患者さんをケアしたときのことです。その方は何年も前から体が動かず、呼びかけへの反応もない状態でした。自力で食事ができず経管栄養の処置をされていました。」
「その方にユマニチュードの技法を用いました。まず顔と顔を20センチほどに近づけます。相手の瞳に自分が映る距離、非常に親しい人にだけ入ることが許されるプライベートな距離です。目と目を合わせることが非常に重要で、瞳を合わせることで、あなたのことが好きです、というメッセージを届けることができます。そうすると脳から愛情ホルモンといわれるオキシトシンが分泌され、患者さんは私が敵ではなく、味方であることを感じはじめます。」
「そして患者さんに「右手を上げてください」と呼びかけたら、ゆっくり右手を上げることができたのです。もう言葉を理解していないと思われ、意思のある人間とは見られていなかった方ですが、そこには呼びかけを理解し、まだ他人と関係を築くことができる方がいたのです。」
「手を通して行うコミュニケーションも非常に大事です。広く安定感をもってゆっくりと触れられる時と、突然体を掴まれた時とでは、皆さんに生じる感情は異なります。そうした感情記憶はずっと機能しているので、患者さんは手首を掴まれると、何か罰を与えられようとしていると感じる可能性があります。ケアを行う者は患者さんの体に触れるとき、どんなメッセージが相手に伝わるかを学ぶ必要があるのです。」

会場には医療関係者、研究者やフランス大使館の方を含む多くの方にお集まりいただきました

会場には医療関係者、研究者やフランス大使館の方を含む多くの方にお集まりいただきました

もういちど人間として誕生させる

「子羊が産まれると、母羊は子どもをなめます。そしてそうしないと子羊は死んでしまいます。なめることには、出産後の体をきれいにするだけでなく、同じ種に仲間として迎え入れる意味があります。それでは人間にとって『なめる』に相当する行為はなんでしょうか。それは、「見ること、話すこと、触れ合うこと」です。認知症の方もそうされることで、生きていることを感じられ人間の世界に戻ってくるのです。これは新たな誕生のようなものです。」
「こうしたケアを総合的に行っていくと、ケアの現場に変化が生まれます。患者さんを落ち着かせるために処方する神経系の薬を使わないで済んだり、寝たきりになりにくくなる。寝たきりにならないと床ずれも起こさなくなります。経管栄養だった方が、口で食事をすることができるようになるのを見るのは大きな喜びです。」
「人間の尊厳には「立つ」ことも重要で、私たちは患者さんにぜひ立ってほしいと願っています。最後にこちらの映像をご覧いただきたいと思います。」

スクリーンには、認知症による寝たきりで何年も歩けなかった方が、立つことにチャレンジする様子、鏡を見て自分の手で髪をとかし、退院される様子が映し出されました。