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【レポート】磯村名誉会長講話「2018年からみる波乱の2019年の欧州」

「黄色いベスト運動」の本質とは――

2018年12月18日、日本財団ビルにおいて磯村尚徳名誉会長による講話「2018年からみる波乱の2019年の欧州」が開催され、渡仏中に知り得た最新情報をもとに、「黄色いベスト運動」「カルロス・ゴーン氏解任」といった話題のニュースについて、騒動の深層を分かりやすく解説してくださいました。

講演前の懇親会の様子

講演前の懇親会の様子

今回はアペリティフを楽しみながらの懇親会のあとに講話がスタート。最初の話題は、ガソリン税値上げに反対する民衆のデモが暴動にまで発展した「黄色いベスト運動」(ジレ・ジョーヌ)で、磯村氏がパリに滞在しているときも10万人以上がデモに参加していたとのこと。1789年に始まったフランス革命では、押し寄せる民衆を目の当たりにしたルイ16世が「これは反乱か?」とつぶやいたのに対し、側近の公爵が「陛下、これが革命というものです」と答えた有名なエピソードがあるそうですが、今回の「黄色いベスト運動」の背景もこのフランス革命に通じるものがあるようです。磯村氏の知人のジャーナリスト、ジャック・ジュリアル氏曰く「大革命からして、(その主役は)プロレタリアートではなく貧しい中産階級」。「これまでデモの常連は労働者、移民、失業者などでしたが、シャンゼリゼで暴動に加わったのは、大半がかつて一度はいい思いをしている貧しい中産階級の人たち。家賃が高い中心部には住めず、郊外で車を頻繁に使う彼らにとって、ガソリン代は重要な出費。(要求するものがフランス革命時の)パンから自動車に変わっただけ」という磯村氏の解説を聞き、一見、それほど貧窮しているようにはみえない彼らの怒りの根源が少しだけ分かったような気がしました。

渡仏中の話題を紹介する磯村氏

渡仏中の話題を紹介する磯村氏

続いて話題は今回と過去の騒乱の比較に。1968年に起きた5月革命から50年が経過しましたが、「革命ではなく自由化であった」というのが現在は定説になっており、3つのものの権威が失墜したそうです。それは「教会」「共産党」「大学および大学教授」。かつて「カトリック教会の長女」と称されたフランスですが、15~17歳を対象にした信仰に関する世論調査では、「イスラーム 26%」「カトリック 20%」「無宗教 41%」という結果になり、神父の高齢化もあいまって、没落の一途を辿っています。

「共産党」はかつて30%もの支持率を誇っていたものの、共産主義の弊害が目についてきたこともあり、いまやわずか2%までに激減。1958年、磯村氏が特派員で駐在していた頃は「3人に1人が共産党に投票している」と先輩記者に教えられたそうですが、いまや見る影もありません。

「大学」については、5月革命からの50年で学生の数が4倍になった一方で、教授のほうは十年一日の如き講義に明け暮れ、TV出演で目立つことばかりに腐心したため、アカデミズムの権威を失わせることとなりました。

1968年のワシントン支局長時代、磯村氏はパリでデモを目撃しました。米国と北ベトナム代表による和平交渉が行われた2日後、大学で最初のデモが始まり、商店などの閉鎖が燎原の火の如く広まっていったのです。磯村氏は「底なし沼の感覚。箍が外れると一気にという印象でした」と当時を振り返っていましたが、その予感が現実となったのが今回の騒動といえるでしょう。

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【開催済】磯村名誉会長講話「2018年からみる波乱の2019年の欧州」

磯村尚徳氏

昨年米寿を迎えられた磯村名誉会長は今年も活発に活動され夏に渡仏、今回も11月下旬から12月初旬にかけて渡仏されます。そこで渡仏中に知りえたフランスの最新情報について講話いただくこととなりました。
今回は講話前に簡単なアペリティフを用意しておりますので交流を深めていただきたいと考えております。

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