【レポート】磯村名誉会長講話「2018年からみる波乱の2019年の欧州」

日仏の響きあう絆

日本とフランスの知られざる関係についてレクチャーされた磯村氏

日本とフランスの知られざる関係についてレクチャーされた磯村氏

2018年は1858(安政5)年に日仏修好通商条約が締結されてから160年の節目の年。これを記念し、パリで「ジャポニズム2018 響き合う魂」が開催されました。日本政府は40億円もの国費を投じ、大規模な日本文化紹介事業を展開。伊藤若冲の傑作や明治以降の芸術作品が展示され、大好評を博しました。磯村氏が買い物をしていると、中年の紳士から「今度の『ジャポニズム2018』は素晴らしい。フランスと日本は本能的に近い存在だと感じました」と声をかけられたそうです。また、「縄文展」も充実の内容で、6点の国宝を紹介。「メソポタミア文明、中国文明は農業が発達したあとの文明だが、それよりはるか以前、日本に進んだ文明があったことがだれの目にも分かる形でプレゼンされている。日本文化が西洋の模倣や中国の亜流ではないことを雄弁に物語っている」と高い評価が寄せられました。

そして、皇太子さまの9月の訪仏も、大変に評判がよかったそうで、マクロン大統領がベルサイユ宮殿でお迎えした際、かつてフランスに漂着した支倉常長がルイ13世に贈った鎧兜をご覧になった皇太子さまが、鞘を抜いて「日本では失政をしたり、恥ずかしいことをしたときは、こうするのですよ」と切腹シーンを披露され、周囲が大笑いしたというエピソードも。磯村氏は皇太子さまとは学習院大学の先輩・後輩という関係もあり、渡仏前に日仏関係についてご進講しました。そこで話されたのは、日本の近代化は米英だけではなく主にフランスのおかげ、ということ。その象徴が1865年にフランスによって建設された横須賀造船所で、東郷元帥をして「横須賀造船所がなければ日本海海戦でバルチック艦隊を殲滅できなかった」と言わしめたほどです。また、江戸に移ったのち、3年間江戸城から一歩も出なかった明治天皇が1872年の元旦に初めて行幸されたのが横須賀造船所でした。この歴史的史実が正史からは消されているのですが、それは明治維新において徳川方が敗者だから。「富岡製糸場も銀座のガス灯もみなフランスの手によるもの。明治天皇は本格的なフランス料理を初めて召し上がり、ガス灯を訪れフランス人と談笑されました。明治天皇の隠れた遺訓は、外国王室、貴族との付き合いは蘭学でも英語でもなくフランス語を大切にということ。大正天皇は病みがちでしたが、昭和天皇はまじめに勉強されましたし、皇太子さまもよくおできなり、大変立派なスピーチをされていました。宮中で国賓をもてなす際、和食ではなくフランス料理が供されるのは、この遺訓があるからなのです」というお話を聞き、改めて日本とフランスの長く深い関係に思いを馳せることができました。

「知の巨人」と称されるクロード・レヴィ=ストロースは、「日本はユーラシア大陸の東端、フランスは西端と長大な距離で隔てられてはいるが、考古学的には同じ部族に帰属するとの説もあり、運命共同体である」と述べていますが、イベントの副題である「響き合う魂」の言葉通り、今後も運命共同体としてさらに良好な関係を築いていくことを願ってやみません。