【レポート】磯村名誉会長講話「2018年からみる波乱の2019年の欧州」

マクロン大統領の功罪

「黄色いベスト運動」について解説する磯村氏

「黄色いベスト運動」について解説する磯村氏

今回の騒動はマクロン政権に対する抗議でもあるわけですが、そのマクロン大統領について磯村氏は「成功しすぎた」ことが足元を掬われる要因となったと指摘。「マクロンは前任者がやろうとしたことをみな成し遂げました。たとえば、労働法制の改革や難しいと思われた国鉄改革。現在の政権はいわばマクロン政党であり、議会の審議を経ずとも大統領政令でできてしまいます。政府が補助金を出すからハイブリッド車に替えろというのもその一つ。なんでもこうした手法でできると思ったのが第一の失敗」との見方を示されました。また、サルコジ、オランドらが「庶民の代表」というスタンスの大統領であったのとは対照的に、マクロン大統領は、左翼の評論家からも「神の摂理を受けたかのような天才」であり、その落差が激しかったこともマイナスに左右したようです。ノーマルだったサルコジ、オランド大統領と同じ轍を踏むまいとしたマクロン。第1次大戦100周年のセレモニーは「演出の見事さに惚れ惚れ。そこに若き大統領が颯爽と登場したのはカッコいい」とのことでしたが、生活苦の人々からすれば「カッコばかりつけて」と反発を覚え、それが暴動へとエスカレートすることに。凱旋門の柱にあるマリア像が、剥がされた石畳で破壊されたのですが、磯村氏は暴徒化した群衆の心理を「マクロンの花舞台を破壊しなければ、腹の虫が収まらなかったのでしょう。極右の壊し屋ではなく、一般人も参加してしまったのが今回の暴動」と分析されていました。

そして、ソーシャルメディアの影響力。デモ側の代表者は「メディアに出演するたび、話が上手くなっていった」そうで、その様子がSNSで拡散され、デモも広がりをみせていったのです。当初、28万人もいたデモの参加者は減ってきており、磯村氏は「資金もない、指導者もいない、イデオロギーもない素人集団。やがて収束するのは間違いない」との観測を示されましたが、また時々燻って、長期化する可能性もあるようです。

順調だったマクロン政権にとって初めての試練といえますが、この「敵失」を利することができる野党がないことも事実。一時、極右路線で注目を集めた国民戦線党首のマリーヌ・ルペンは「器が小さく、大きな選挙は厳しい」との評価で、磯村氏は「マクロンの後を継げるような人物はおらず、マクロンがフランスにとっての切り札。彼がコケてしまったら、どうなってしまうのか。フランスを愛する者としては、苦境から脱してほしいと願っています」と、このテーマを総括されました。

ゴーン問題の舞台裏エピソード

興味深い「ゴーン問題」の裏話は磯村氏ならではの情報力の賜物

興味深い「ゴーン問題」の裏話は磯村氏ならではの情報力の賜物

続いての話題は、みなさんが興味津々の「カルロス・ゴーン問題」。磯村氏は今回の渡仏中、パリ日本文化会館の運営審議会に参加されたのですが、その構成メンバーは日本側10名、フランス側10名で、いずれも一流の名士ばかり。同会の議長はゴーン氏をルノー副社長から日産社長に据えたルイ・シュバイツァー氏であり、夜に大使公邸で催された酒席で、ついに口を開いたのでした。その内容は「自分の任命は素晴らしい選択だった。最初は期待に十分に応えるものだったが、やはり(トップの座に就き続けるのが)20年は長すぎる。(アストン卿の箴言を引用し)『権力は腐敗する。絶対的な権力は絶対に腐敗する』」というもの。フランス側メンバーは全員が大変な知日・親日派の財界人でしたが、「日本側のやり方はひどい。武士の情けはないのか」「裁判の結果が出ていない人は無罪として扱うべき。羽田空港で検事団やマスコミが待ち構えていたのは人権侵害だ」「(小菅刑務所が)劣悪な環境でかわいそうだ」など、批判的な声ばかり。もちろん、フランス国内でもゴーン氏の高額な報酬はよく知られており、「高額な報酬を得ながらあれほどの額を申告していないのはよいことではない」との認識はあるようですが。

関心はすでに後任人事に向いており、「ルノー、日産両者の内情を知悉し、日本事情にも明るい」という条件を満たす2人の名前がクローズアップされているそうです。1人はトヨタ副社長のディディエ・ルロワ氏。マクロン大統領が工場視察した際、工員の前で絶賛したほどの敏腕として知られています。もう1人はプジョー系列のグループPSA社長のカルロス・タバレス氏。いずれにせよ、磯村氏は「そう簡単に三者連合の分解は考えられない」と述べられていました。