【レポート】イベント講演会『難民とシェンゲン協定』~統合欧州の将来へのインパクトとフランスの役割

難民問題が問うシェンゲン協定の意義

シリア難民問題があるためシェンゲン協定を撤廃し、各国が国境での審査を厳格にしようという考えもありますが、それは経済に大きな打撃を与えます。シェンゲン圏と他国間では何億人もの往来がありますが、多くは経済活動や旅行などが目的で、難民や移民は0.5%ほどに過ぎません。

こちらの地図はシェンゲン圏と他国との往来について示したものです。青のシェンゲン圏では自由に移動でき、緑の国は三か月までの滞在はビザなしで可能、その中には日本も含まれます。赤の国はビザを発行しないと入国が許可されない国で、トルコなどの難民問題で脅威となる国はこのグループです。

ヨーロッパへの移民・難民の流入はギリシャとイタリアに集中しています。何百万という膨大な難民が海から陸からまさに波となって押し寄せ、難民を乗せた船が難破するなどの人道的な悲劇もたくさん起こっています。
一気に大量に押し寄せる難民に対し、境界線であるギリシャやイタリアは対処できず、審査や指紋登録などが行われずに何百万人もの難民が流入しています。
これを一種の「機会」とみる国もありそのひとつはドイツです。ドイツでは日本同様、高齢化社会が進行し労働力が不足しています。これまで中央ヨーロッパからの移民を受け入れて労働人口を再生しようとしてきましたが、メルケル首相はシリア難民に着目し100万人以上を受け入れることを表明しました。このドイツの態度は、難民たちにヨーロッパに流入する大義名分を与えることになり、いっそう多くの難民流入につながることを懸念するドイツ国民や、他国からも批判を呼んでいます。実際に難民の数は膨れ上がり、シリア以外からも押し寄せ、その背後では密入国を手引きするブローカーも暗躍しています。

一方、ハンガリーのように自国の国境を強化し、難民や移民の流入を防ごうという国も多くあり、昨年11月のパリのテロ事件はその流れを拡大させました。オーストリアではEUを支持してきた従来型の政党が選挙で大敗し、欧州統合の理念への信用が失墜しています。