【レポート】イベント講演会『難民とシェンゲン協定』~統合欧州の将来へのインパクトとフランスの役割

難民流入を拡大させる4つの要因

欧州を覆う難民問題の背景には4つの要因があります。
一番目は地政学要因で、シリア情勢が最も大きく影響しています。シリアの人口は2,200万人ほどですが、そのうち400万人は国外へ脱出し、700万人以上は国内でもとの居住地から移動する生活を送り、人口の半分が難民化しています。

二番目は人口的要因で、アフリカの人口に着目すると、2010年には10億人だったのが、2050年には20億人になることが予想されています。

三番目は経済的要因で、地中海を挟む狭い地域で大きな所得格差があることが、難民・移民を生みやすくしています。

四番目は気候要因です。これには地球温暖化で水没しつつある島々や、サヘル地域の砂漠化の問題があります。

この危機に対処するには難民問題が今後どうなるかを見定める必要がありますが、これら四つの要因がすべてネガティブな状況にあるので、問題はより深刻になる可能性が高いといえます。

難民の危機にどう対処することができるか

今後長く続くであろうこの危機に対処するには、EU全体での取り組みが必要です。
フランスの観点では、ギリシャが境界線だからギリシャに入国審査をしっかりしてほしいと考えますが、ギリシャに実行する力がなければ、EUとして人材や資材を投入し審査を行うことも必要でしょう。
地中海やエーゲ海での密入国を手引きする業者に対しても、関係各国が協力しながら対策をとる必要があります。
空路でシェンゲン圏に入るときには、各国でこれまでより入国審査が厳しくなり、私も先日フィンランドからフランスに戻ったときに、指紋や写真を撮られました。今回日本から戻るときも同じでしょう。

難民危機のこの状況にはパラドックス的なところがあって、難民問題によってEUに対する懐疑的な見方が広がっていますが、一方でその対策はEUとして強力な力で実行することが求められています。

難民・移民が多く発生する国においても、そこに平和が戻り、経済活動ができるようになれば人が戻っていくでしょう。その支援を恒常的に行うことも大事な取り組みで、EUでは対アフリカのODAを難民・移民対策と結びつけて行っています。

また超国家的な市民活動による取り組みもあります。その一つはアフリカに植林をする取り組みです。木を植えるとその周りに草が生え、その草をえさに家畜を育て、家畜を売買するマーケットが成立し、経済が戻り社会が形作られていきます。その活動のドキュメンタリー映画が作られ、モナコの映画祭で賞を獲得しました。

まずはイマジネーションを広げていろいろな行動を起こすことが結果につながっていくでしょう。