【レポート】第15回パリクラブ輝く会&第4回日仏経済フォーラム共同講演会「あなたも狙われている 世界的サイバーエスピオナージ時代 日本とフランスの課題と展望」

白熱の質疑応答の後は、ささやかな立食パーティ

質問は、サイバーエスピオナージだけでなく、サイバーテロにも及びました。さっそく政府の有識者会議のメンバーでもある参加者から質問が飛びます。
「現在、IOTといって、物と物がインターネットを通して全部繋がっている時代に突入している。医療機器も例外でないわけで、たとえば総理大臣が入院したとすると、薬を注入するインフュージョン・ポンプなどの医療機器をハッキングすれば命を奪うことも可能なわけです。そればかりか、製品を提供している企業が倒産することにもなる。しかし、専門家に聞くと最高のレベルの技術を使ってもハッキングは防げないと言う。ログを辿ることしか出来ないらしい。そうした世の中をどうしたらいいか?」そんな質問に新田氏は、「IOTの問題については、日本だけでなく先進諸国が対応に追われているのが現状です。たとえばアメリカでは、昨年から心電図についての議論が沸騰しています。私個人としては、IOTは世の中にないほうがいいとさえ思っていますが、この問題については日本でも、もっと議論されないといけません」と答え、「ひとつだけ言えるのは、人を使ったエスピオナージは足跡を残さないことが可能なのに対し、サイバー攻撃は絶対ログが残る。『ログを辿ることしか出来ない』と仰いましたが、何かをやったというのは必ず判るんです。そこがサイバーエスピオナージ最大の弱点です」と付け加えました。
 最後に、司会の瀬藤澄彦氏から「先頃、欧州連合で、EU一般データ保護規則(GDPR)が出来ましたが、これについてはどう思いますか?」
という質問が出され、新田氏は「GDPRは、中国のサイバー・セキュリティ法と同時期に出来たので、よく比較されますが、個人情報の保護に対するアンテナという面で欧州連合の意識の高さをつくづく感じました。素晴らしい法律が出来たと欧州内では認識されています」と述べ、質疑応答を締めくくりました。

その後参加者による立食パーティが開かれました。

コンサルティング・ファームに勤務する松崎さんと郭さんは、「私たちの主な仕事は、企業が直面するリスクに対するアドバイジングで、サイバーセキュリティも大きなテーマなんです。日々の仕事の中では、どうしても個別事案のクライシスレスポンスとしての視点になるのですが、今日のお話は国際政治レベルからの視点からのものでとても新鮮でした」と答えてくれました。

現在パリクラブの役員を務める五十嵐さんは、「以前警察の仕事をしていましたので、サイバーテロやサイバーエスピオナージには関心があって参りました。サイバーテロは遠くから社会的な機能をマヒさせたり出来る。さらに、攻撃する側が守る側よりも圧倒的に有利なんですよ。そんな中で守るための技術をどうするか、は我々にとって大きな課題。警察にいる後輩たちの頑張りに期待したいですね」と話してくれました。

薬学博士の永田さんは、「僕はかつて、シャープを育てた佐々木正先生と20年ばかりお付き合いさせて頂いたのですが、佐々木先生が『グローカル』という言葉をさかんに提唱しておられたんです。要するに、グローバルとローカルが共存する世界になっていかないとダメだと。グローバルだけでやっちゃうと全部乗っ取られちゃうし、ローカルだけだとグローバルに対応できない、と。今日の新田先生のお話から、そんなことを思い出しました」

「ブラック・ハット」など、近年ハリウッド映画でもようやく正面から描かれるようになってきたサイバー・エスピオナージですが、日本でそれがもたらす現実的な脅威となると、これまで具体像が掴みづらかったのが正直なところ。しかし、新田先生のお話は、国際政治という大きな切り口から俯瞰することで、脅威ばかりか問題の核心についても鮮やかに浮き彫りにしてくれました。セキュリティに対する意識が一変した夜でした。

(本記事の内容は、新田容子氏が、自身の分析と見解を述べたものであり、氏の所属する団体とは一切関係ありません)