6月26日、恵比寿の日仏会館で、日本安全保障危機管理学会の上席フェローでもある新田容子氏による講演「あなたも狙われている 世界的サイバーエスピオナージ時代 日本とフランスの課題と展望」が開催されました。電子的な手法を用いて、政府や企業の情報を盗み出すサイバーエスピオナージが日々その脅威を増しつつある現在、我々はどうしたらよいのか。新田氏は、激烈を極める諸外国の諜報戦の一端を明かすと共に日本人の意識変革の必要性を訴えました。
今、全世界がサイバーエスピオナージの標的に
今回「あなたも狙われている」というタイトルが付けられていますが、実はサイバーエスピオナージは、個人を狙ったものより、むしろ外国が国主導で ハッカーを養成し、わが国の企業を標的に情報を盗むといったものに対して警鐘を鳴らさねばならない段階に来ている――。と話す新田氏。現在、貿易情報の窃盗を目的としたサイバーエスピオナージ(情報通信技術を用いた諜報活動)の応酬は、国家間で熾烈を極めており、その発端は、2001年に起きたアメリカの同時多発テロに遡るといいます。当時、安全 保障の名の下に、官民一体となり、「テロ情報」として自国民の個人情報ばかりか諸外国の機密情報をも秘かに収集していったアメリカは、そうした国家機密をエドワード・スノーデンという国家安全保障局の一職員によって持ち出され、それが世界に向けて暴露された際に、 G7内では激しい対立が起きたといいます。このとき、 フランスもアメリカを公然と非難しましたが、それは、アメリカがフランス国内の企業情報までも収集していたからでした。その後、サイバーエスピオナージが世界的にかくも殷賑を極めるに至った理由は、それが、所謂「ヒューミント」という、諜報のための人材を外国に送り込んでの活動よりも、遙かに安上がりであり、しかも仮に露見しても責任の所在が曖昧であることによるといいます。確かに、先のアメリカ大統領選では、ロシアがドナルド・トランプを勝たせるため、政党や個人にサイバー攻撃を仕掛けていた事実がアメリカの情報機関によって明らかになっていますが、ロシアは未だに否定し続けています。また、中国の多くの企業は、共産党と繋がっており、ドイツなどは、中国のサイバーエスピオナージを脅威として、最近では公然と挙げるようになりました。中国やロシアのそうした行為に対し法的な措置を講じることが出来ないのは、現在国連にすらサイバーエスピオナージの規範が存在しないからに他ならず、最近国連として規範を定める目的で出来たGGE (Group of Governmental Experts)というワーキンググループも、数年かけて議論した末、昨年の会合で決裂したそうです。どの国も、情報を抜くことで経済的アドバンテージにより他国より抜き出ようとしているわけです。一方、日本の状況はどうかというと、2011年に三菱重工の潜水艦、原子力発電プラント、ミサイルなどの研究、製造拠点でウィルス感染が確認された事件によって、企業も徐々に意識が変わったものの、都内で講演をしてもまともに取り合って貰えないことが多く、新田氏も暗澹たる気持ちに陥ったといいます。しかし、この2年ほどで、警察白書や防衛白書にもサイバーエスピオナージという言葉が明記され、かつてとは隔世の感がある、と新田氏は話すのでした。