【レポート】ヘラルボニーによるパーパス起点のアート×ブランド共創 – 知的障害のある作家と共に挑む新たな文化創造

盛岡駅

2025年9月10日、株式会社ヘラルボニー代表取締役の松田崇弥氏の講演会が在日フランス商工会議所L’Espace にて開催された。岩手県出身の双子の兄弟がこの企業の共同で代表を務めている。実はこの双子の兄弟には重度の知的障害のある4歳年上の兄がいる。何故この双子の兄弟が当事業を始めたかについて、松田崇弥、松田文登共著、”異彩を放て。ヘラルボニーが福祉xアートで世界を変える” (新潮社, 2022年)に以下の記述がある:

異彩を、放て。
働き始めてからも僕ら双子は、ことあるごとに”いつか福祉の仕事に携わりたいね”と話していた。それは、兄の暮らすこの世界を、少しでもマシにしたいという思いからだ。兄に対する冷たい視線を、ずっと見て見ぬ振りをするのはもう嫌だった。”障害者”という言葉に押し込んで、兄の、兄自身の個性や人格を見ようとしない社会にうんざりとしていたのだと思う。(pp. 54-55)
彼らを社会に順応させるのではなく、彼らが彼らのままでいられるよう、社会の方を順応させていく。(p. 100)

クライアントは、日本航空、トヨタ自動車、JR東日本、Google、Amazon、Unileverなど数多くの著名企業が名を連ね、IPライセンス数は2,000点に及ぶ。Nikkei BizGate 2025.07.04オンライン版によれば、現在は国内外約250人の作家、約60の福祉施設とライセンス契約を結んでいる。ヘラルボニーはライセンスを買い取るのでなく、作品の商用利用権を契約し、そこから得られる利益を異彩作家や福祉施設に還元している。今では、ヘラルボニーの契約作家になるためのハードルは非常に高いという。

LVMHイノベーションアワード2024において、世界89ヵ国1545社からのスタートアップの中から日本で初めての受賞企業となった。また、アール・ブリュット*を専門とするフランスの収集家、画廊経営者、著者であるChristian Berstによれば、これほど成功しているアール・ブリュットを扱う企業はヘラルボニーの他に存在しない、さらにそれが東洋の企業であることは驚きだと述べているという。

このように、ヘラルボニーは企業としても、ビジネスモデルとしても大きく発展してきた。講演の最後に、司会進行を務める私は次の質問をしてみた:

企業としても、ビジネスモデルとしても大きく発展してきた訳ですが、社会変革というのは本当に難しいと思います。お兄さんの居心地が良くなるような社会変革については、100点満点のどこまで今到達してると感じていますか?

対する松田崇弥の答えは、”まだ1パーセントくらいでしょうか”。彼のビジョンが達成される日、もっと素晴らしい世界が実現しているに違いない。

*: art brut。生の芸術を意味するフランス語で、精神障害者を含む正規の美術教育を受けていない人による芸術。

文責 泉本保彦 パリクラブ副会長