「アフリカ徒然草」( AU代表部員によるアフリカに因んだエッセイ)

第16回 TICAD(進化し続けるメイド・イン・ジャパンのアフリカ開発フォーラム)(その4)

TICAD7
2019年8月、TICAD ではお馴染みとなった横浜で TICAD7が開催された。お気付きだろうか。これまで、TICAD の回数を表すのにローマ数字(Ⅰ、Ⅱ、Ⅲ…) が使われてきたが、段々と分かりにくくなってきたので、7回以降はアラビア数字にすることとなった。TICAD7では、「アフリカに躍進を!ひと、技術、イノベーションで。」をテーマとし、成果文書として「横浜宣言2019」が採択され、その付属文書「横浜行動計画2019」が発表された。横浜宣言では、アフリカの統合に向けた開発目標である「アジェンダ2063」が強調されており、TICAD の取組がこれに沿ったものである必要性を説いている。アフリカのオーナーシップに一層寄り添う内容となっている。

定着した3本柱
TICAD7における重点分野として3つの柱が掲げられている。それらは、①経済、②社会、③平和と安定であり、従来の TICAD の重点分野との一貫性が認められる。アフリカの開発を考える上で、これらは最早定着した3本柱といえるだろう。
・第1の柱(経済)は、イノベーションと民間セクターの関与を通じた経済構造転換の促進やビジネス環境の改善であり、200億ドル超の民間投資の拡大と、それに向けた産業人材の育成やイノベーションと投資の促進等が約束されている。
・第2の柱(社会)は、持続可能で強靱な社会の深化を追求し、ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)の拡大と、アフリカ固有の課題を念頭においた持続可能なヘルスケアを目指す「アフリカ健康構想」の推進を掲げ、300万人の基礎医療アクセスや衛生環境の改善等の取組を行うこととした。
・第3の柱(平和と安定)は、アフリカ主導の取組を後押しするため、選挙、行政システムの制度設計といったいわゆるガバナンスの強化や、司法、警察等の分野を担う6万人の人材育成等の取組が掲げられた。
また、次回の TICAD8は、(3年後の)2022年にアフリカで開催されることが横浜宣言に明記された。

なお、TICAD7は、42名の首脳級を含むアフリカ53か国、52か国の開発パートナー諸国、100以上の国際機関・地域機関、そして民間セクターや市民社会 等々、総計で1万人以上の参加を得た。

TICAD8
ナイロビに続く、第2回目のアフリカでの TICAD は、チュニジア開催となった。コロナ禍によって経済社会分野はもとより、平和と安定の分野にまで厳しい影響が及んだ中で、いかにアフリカの統合に向けた開発努力を後押しするか、そして、アフリカのため(for Africa)だけでなく、アフリカと共に(with Africa)、グローバルな課題にどう立ち向かうか、建設的な議論が行われることを期待したい。TICAD のマルチ性に鑑みると、あらゆる分野の人々が参加するプラットフォームが確保されるであろうし、そういった点も含めて、乞うご期待、といったところだろう。

AU パートナーシップ
アフリカとのパートナーシップは、もちろん TICAD だけではない。欧州(EU)、アラブ世界(アラブ連盟)、中国、韓国、トルコ、インド、ラ米、米国、フラン ス、ロシア等が、様々な形でアフリカとの定期会合を有している。インドネシアやカリコム(カリブ共同体)もパートナーシップ参入を狙っているそうだ。アフリカがいかに世界から人気を得ているかが分かるだろう。
これ程多様な会合に対応するアフリカ側も大変である。AU は、これらを、戦略的なパートナーシップとそうでないものとに分ける作業を行っている。前者は、AU の統合アジェンダである「アジェンダ2063」の実現に向けて戦略的に活用できるものとし、それ以外はパートナーシップの枠外に置くとする。いわば、大人気のアフリカ(AU)は、パートナーを公認のファンクラブかそうでないか、に分類 し、公認クラブは AU との定期的な協議の場が確保され、(今後整理される予定であるが)その定期会合には、どういった国(AU 全メンバーあるいは大陸を代表する一部の国)の元首や閣僚が参加するか、を決めていく。TICAD は、EU や中国と共に、戦略的パートナーシップに名を連ねている。この整理は、AU 側がアフリカの意思決定としてある意味一方的に行うものであり、ファンの側が関与することは想定されていない。「パートナーシップの対等性」からすれば、日本や EU とこの点についても事前に深く協議すべきであるが、「アフリカの問題はアフリカ自身で解決する」という、TICAD の精神でもある「オーナーシップ」に基づき、アフリカは自身で道を切り開こうとする。この関係をどう解釈するのか。検討すべき課題はまだまだある。

TICAD のマルチ性
乱立するパートナーシップにおいて、TICAD の特徴の1つを挙げるとすると、それは「マルチ性」だろう。マルチとは、「マルチラテラル(multilateral)」のこと で、「多角的、多元的、多国間の」という意味である。他のパートナーシップは、ある国(機関)とアフリカ、の2局での会合である。TICAD はというと、日本とアフリカだけでなく、アジア諸国や開発パートナー(主に欧米)が参加する。TICAD のマルチ性は、「多国間の」と訳すべきか。それも違う。何故なら、国際機関・地域機関、シンクタンク、民間セクター(ビジネス)、市民社会(NGO)、個人といったあらゆる種類・層が参加するからだ。「多国間」に収まらない、「多角的・多元的」な性格。これが、TICAD のマルチ性である。TICAD7の本会議とは別に、サヘル地域の平和と安定に関する閣僚級の特別会合が日本と AUC の共催で開催された。筆者は、この会合の成果文書のとりまとめ作業に参加した。日本とアフリカ以外にも、主要パートナー国や国際機関も参加し、プレスの取材も行われた。「TICAD で何が行われたか」も重要だが、「TICAD の機会に、誰と、何をするか」も可能となる。TICAD がマルチのプラットフォームであるが故の活用法の一例である。

TICAD の今後
現在、TICAD8 に向けた準備が行われている。筆者もアフリカ外交の首都アディスアベバの AU 代表部から、微力ながら携わっていると自負している。
さて、TICAD は、このままいけばやがて10回目を迎えるだろう。TICAD8 から6 年後の世界を正確に予測できる人はいない。強いて言えば、その頃の国際情勢に対応する形で、TICAD は日本とアフリカ、そして国際社会のパートナーシップ強化のために、様々な機会を提供するプラットフォームであり続けるだろう。
では、TICAD は一体、どこまで行くのだろうか? TICAD10、15、20 と続いていくのか?
単純計算すると、TICAD20 に到達する前、TICAD17 くらいで2050年になる。国連の人口動態予測によれば、その頃、世界人口の4人に1人はアフリカ出身者となっている。アフリカと欧州の立場が完全に入れ替わった世界を風刺した、アフリカ人監督による映画があったが、単なるジョークでは終わらないかもしれない。そうなった世界で、TICAD は、日本は、世界は、アフリカとどう向き合っていくのだろうか?
是非、読者の方々からも、大胆な予測を頂きたい。

(AU代森本)

(本エッセイは、AU代表部員個人の見解を記したものであり、必ずしも当代表部または日本政府の立場を反映したものではありません。)

(左上:集合写真(外務省 HP) 右上:TICAD7 ロゴ。アラビア数字の7がシャープに光る。)

(サヘルに関する特別会合:外務省 HP)

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