モンレアル便り

第4号

前回の第3号では、ジャック・カルティエと先住民ドンナコナとの交流の部分について、一部事実関係の確認を要する部分がありました。不正確な点については、今後精緻化をして参りますので、御了承願います。

さて、モントリオール、ケベックときて漸くカナダについてです。既に触れた内容とあまり重複しないように国の概要や歴史を振り返ってみたいと思います。

カナダ概要

カナダの正式名称は「カナダ(Canada)」。その国土は北米大陸の約半分を占め、面積は998.5万平方キロメートルで、ロシアに次ぐ世界第2位です。人口は約4000万人。少子高齢化社会の課題を抱えていますが、人口は増加中です。その背景には、移民政策が挙げられます。カナダは建国(1867年)から150年余が経過しますが、今日までに世界各地から1500万人の移民を受け入れてきています。
ここで、カナダの「建国」を解説します。大航海時代の16世紀に今のケベック州に到達したフランスがサンローラン河流域を植民地化し、領土を広げていきます。18世紀のいわゆるフレンチ・インディアン戦争でフランスが敗退し、英国領となります。その後1世紀ほどたった1867年に、英領北アメリカ法によって、カナダ連邦が結成されます。これの年をカナダ「建国」の年と称しています。日本ではちょうど明治維新の前夜の頃です。この法律が採択された日をとって、7月1日はカナダの建国記念日「カナダ・デー(Canada Day)」と呼ばれ、国民の祝日です。この日が日曜日の場合、翌月曜日が振替休日となります。
英連邦から自治は認められましたが、外交権と憲法改廃権は英国に帰属されたままでした。1931年に採択されたウエストミンスター憲章によって実質的な独立を達成し、現在の国家体制に至ります。
首都はオタワ。公用語は英語とフランス語ですが、連邦制ですので、各州がそれぞれの公用語を定めています(注)。国勢調査結果によると、国民の過半数がキリスト教徒で、その半数以上がローマ・カトリック教徒。また、国民の約3分の1が無宗教、と回答しています。

(注)カナダの10州(provinces)・3準州(territories)とそれぞれの州都、公用語

  • アルバータ州、エドモントン、英語
  • ブリティッシュコロンビア州、ヴィクトリア、英語
  • マニトバ州、ウィニペグ、英語
  • ニューブランズウィック、フレデリクトン、英語・仏語
  • ニューファンドランド・ラブラドール州、セントジョンズ、英語
  • ノバスコシア州、ハリファックス、英語
  • オンタリオ州、トロント、英語
  • プリンスエドワードアイランド州、シャーロットタウン、英語
  • ケベック州、ケベックシティ(仏語:ヴィル・ド・ケベック)、仏語
  • サスカチュワン州、レジャイナ、英語
  • ノースウエスト準州、イエローナイフ、英語、仏語の他、クリー語び多数の先住民族語(略)
  • ヌナブト準州、イカルイト、英語、仏語、イヌイナクトゥン語、イヌクティトゥット語
  • ユーコン準州、ホワイトホース、英語、フランス語

カナダの政治体制としては、立憲君主制で、英国式の議院内閣制と連邦主義に立脚しています。現在の国家元首は英国国王のチャールズ三世ですが、カナダ総督が国王の代行を務めることとなっています。
政府のトップはジャスティン・トルドー第29代首相で、ケベック州出身です。彼の父親のピエール・エリオット・トルドー氏(同じくケベック州出身)は、第20・22代首相を務めました。カナダの首相を含め、政治リーダーにはケベック州出身者が多いのですが、その理由として、もちろん、本人の政治手腕や人気があることが第一でしょうが、それに加えて、連邦の公用語である英語とフランス語が流暢に話せることも有利なのではないか、との見方をする人もいます。ケベック州の有権者はケベック愛が強く、地元からの候補者にケベックの組織票が集まるからではないか、と言う人もいます。2024年2月29日に逝去されたマルルーニ元首相(享年84歳)もケベック州出身でした。3月23日にモントリオールでの国葬が予定されています。なお、現在のトルドー政権の閣僚の半数が女性です。また、白人系に加え、アジア系、インド系、アフリカ系といった、いわゆる人種の垣根を越えた多様性が内閣の構成に反映されているところも、カナダらしいと思います。
州レベルでも連邦の構成にならい、副総督、州政府があり、州政府のトップは州首相です。
議会は二院制で、定数は上院が105議席、下院が338議席です。州にも州議会があります。過去に二院制だった州もありますが、上院が廃止または下院に吸収されるなどして、現在では一院制となっています。

カナダの2023年の名目国内総生産(GDP)額は、約2兆1400億米ドルで、円換算で約319兆円となります。日本(約4兆2100億米ドル、約631兆円)の約半分の規模です。逆に、1 人当たりの名目GDP でみると、カナダは約5万5000米ドルで、約820万円であるのに対し、日本は471万円で、日本の倍です。2022年の世界ランキングをみると、名目GDP 総額では、日本が第3位(但し翌23年に

ドイツに抜かれて第4位)、カナダ第9位ですが、1人当たりでは、カナダが第13位であるのに対し、日本は第31位です。カナダは過去40年間、GDP は名目、実質、1人当たりのいずれも右肩上がりで成長しています。人口も増加しており、今後も成長が見込めると言えますが、高齢化社会や住宅難といった課題にも直面しています。
世界の経済成長ランキングを見ると、上位から中盤までは途上国と新興国が多く占めていて、先進諸国は一様に低成長なのが分かります。その中でも、カナダは第109位で、中間層に位置しています。一方の日本は第165位に下がります。カナダでは、経済活動の担い手である労働者が慢性的に不足している中で、人手不足を補っているのが移民です。移民の国内への統合は、現時点では比較的うまくいっていますが、今後の人手不足の全てを移民政策が解決できる訳ではないでしょう。経済界からは、移民の増加を求める声が上がっている一方で、移民の受け入れをより厳しく制限するべき、という声もあります。因みにカナダの失業率は5%強です。
総人口における移民の割合では、カナダは約20%で世界第27位と高位です(日本は第133位)。

ところで、人口密度のランキングはどうでしょう。日本は第28位(上位に行くほど密度が高くなる)ですが、カナダは第185位ですので、いかに土地が余っているか、が数字の上からは分かります。しかし、カナダ全土の北半分は北極圏とそれに続く地帯ですので、先住民族のイヌイット以外に居住している国民はごく僅かです。一般に、カナダでは、米国との国境から200キロメートル幅の地帯に人口の約8割が居住していると言われています。

他にも幾つかのランキングで、カナダと日本を比較してみましょう。治安などの安全面で測る「平和度」では、日本第9位、カナダ第11位で、両国とも世界トップクラスの平和な国と位置づけられています。個人差はあるでしょうが、モントリオールで生活していて、一般的な治安の良さを有り難く感じています。続いて「幸福度」では、カナダは13位、日本は47位と、差が開きました。「男女平等」では、カナダは第30位、日本は第125位と大きく引き離されてしまいました。「報道の自由度」では、カナダ第15位、日本第68位。色々と面白い結果が得られますが、カナダの特徴や課題を見ていく中で、日本の課題も少し見えてきたように思われます。

国旗

カナダの国旗は、皆さんもおなじみの赤いカエデです。このデザインが決定されるまでに、カナダ国内では長きにわたって議論が行われてきました。デザインも、時代ごとに様々な変遷を遂げてきました。19世紀後半に英国から自治権を獲得してからも、カナダの旗には英国のユニオンジャックがモチーフとして使用されてきました。
1964年6月15日に、当時のピアソン首相が、新しい国旗のデザインを決定するよう議会に提案しました。それから半年間、議会を二分する大討論が行われました。「大討論(Great Canadian Flag Debate)」と呼ばれる議論の末、同年12月15日に、現在の国旗のデザインであるカエデ(サトウカエデ)の葉をモチーフとすることが決定しました。この決定は、翌年の1965年1月28日に、当時の国家元首であったエリザベス二世英国女王によって批准されたのを受けて、翌月の2月15日に初めて掲

揚されました。この2月15日は、「カナダ国旗の日(National Flag of Canada Day)」と呼ばれ、政府や教育機関で関連する行事が行われたりしていますが、祝日にはなっていません。
カエデの葉は、19世紀から、カナダのシンボルとして、カナダ国防軍をはじめ、ケベック州やオンタリオ州の軍用旗やエンブレムのモチーフとして使用されていました。カナダの特産品として、サトウカエデの樹液を煮詰めて作るメープル・シロップは世界的にも有名ですが、世界のメープル・シロップの総生産量の約75%がカナダ産です。現在の国旗のモチーフであるカエデの葉には、11個のとんがりがありますが、オリジナルとなったモチーフには13個ありました。しかし、13個もとんがりがあると、国旗が風にはためいたときに、モチーフがカエデだということが分かり難かったことから、11個に減らされたのだそうです。
赤と白はカナダのナショナル・カラーにもなっています。カナダ政府の説明では、白は雪の色、両側の赤は紅葉したカエデの色を意味するそうです。秋のカナダの紅葉は壮大で美しく、観光客に大人気です。なお、両側の赤は、カナダを挟む太平洋と大西洋を指す、という説明も聞いたことがあります。

(つづく)
(了)

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