英国ダラム便り(その29)

  • Durham 2014/9/6

皆さま

最後のダラム便りをお届けします。
約2年半お付き合いいただきました。皆さまに読んでいただくことが私の心の支えになっていました。励ましのお言葉や、コメントもありがたかったです。ありがとうございました。
9月7日にデュッセルドルフ経由のフライトで帰国します。デュッセルで乗り継ぎ時間が長いので、街へ出て「アルトビア」を楽しんでこようと思っています。
英国滞在後もやはり「フランス派」はそのままです。フランスの存在感が薄くなっているようで、残念です。引き続きよろしくお願いいたします。
日本でお会いしましょう。

増渕  文規

英国ダラム便り(その29)

[英国人は中庸の民]

一般的にかっかしない、切れない、がまん強い。それに人当たりが良く、親切だというのが私の第一の英国人感です。それから言動・行動が極めて「常識的」です。ドイツ人ともフランス人とも一味違いますね。他人の意見に反対する時もフランス人のように唾を飛ばして、相手をなぎ倒そうとするような人は少ないですね。長い年月一流国でしたから、国際政治の舞台でも極めて常識的に見えます。右にも左にもぶれ過ぎない「安心感」があります。昔はインドやアフリカ、アラブでずいぶん悪いこともしたと思いますが、いまの英国は「大人」で安心ですね。米国軍事行使の行きすぎやEUの左傾化のストッパー役などは「英国しかいない」と思うのですが、肝心の政治力が落ちているので、影響力は減じてしまったようです。人も国も中庸。常識的すぎて面白味が無いとも言えます。フランスびいきの私にはすぐかっかして「バカ」な事をいうフランス人の方が、やはりしっくりくるようです。英国人の常識的な言動の裏にたぶん「本音」があるんだろうと思いますが、それを出さない技を小さい時から仕込まれているのではないでしょうか。

[英国流スローライフ]

成熟した欧州国家はどこも似ていますが、英国の田舎にいますと、英国人とは何と「自然体」で、「無理せず」、「スローライフ」な国民だろうと感じます。日本と比べての話です。英国人はフランス人やドイツ人よりもさらに「肩の力が抜けている」感じがします。オックスフォードやケンブリッジはそれは熾烈な狭き門ですが、そもそもそこを目指す集団は限られた社会層だから、日本のような国民総受験のような光景は無いわけです。若いころから「自分はこんなもの」だなと割り切って、ビールとサッカー観賞の毎日を楽しく過ごす。カネのなさそうなカップルでも夏はクルージングを楽しんだりです。日本より年金も厚いし、人生楽勝というところでしょうか。だから本当に無理をしないですね。ロンドンのエリートは多少違うのかもしれませんが、「立身出世」という言葉は英国にはふさわしくないです。スローライフで人生を渡れる個人ライフは幸せだと思います。一方、経済活動では「効率」「規律」「約束遵守」が必要ですし、いざという時には頑張らなくてはいけませんから、大多数の英国人には不向きですね。公共工事などいつ完成するかわかりませんし、簡単な修理期限や商品の納入期限も「一応の目安」以上のものではありません。これでビジネスは回るのか不思議な感じがします。スローライフでテンションを嫌いますから、職場でも少し仕事が立て込むと、「ストレス」で倒れてしまいます。

[英国流社交]

大学の町という特殊環境での身近なところの話です。家に呼んだり呼ばれたりは日本よりずっと気楽に頻繁に行われます。ご馳走を用意したりしないし、家の中は(日本と違って)いつもきれいになっていますから、客を呼ぶのに構える必要が無いのでしょう。日本の家の中は大体ゴチャゴチャしてますね。狭いから仕方ないけれど何とかならないのでしょうか。帝京の英国分校校長としての日常的社交は、毎週一回のカレッジ公式ディナー出席と、週に3回程度のカレッジ学食での昼食です。学食でも教職員幹部のテーブルは学生の席とは別で、ハイ・テーブルと呼ばれています。ここで日本人は一人、10人くらいの英国人の先生たちと「楽しい会話」をしながらの昼食です。話題のトップ2は「天気」と「食事」です。なぜこの二つかを思うに、差しさわりが無いことはもちろんですが、英国の天気、特にダラム地域の天気はいつも不安定なので「もう少し良い天気になって欲しいよね」と言うことではないでしょうか。いつもあっぱれ晴天のスペインのコスタ・デル・ソル辺りでは、天気が話題になることは無いでしょう。「食事」もまずいからだと思います。たまに1週間前の何とカレッジの公式ディナーのステーキがおいしかったりすると、皆の話題になる。おいしいのが当たり前のフランスの社交会話で、「食事」はあまり話題にならないでしょう。「食事」の話題は私にとってはとても辛いことです。英国人が感嘆する、ある日のその「食事」も私には大体「おいしくはない」ので、褒めようが無いのです。
立食パーティ参加の機会も多いですが、初対面同士が親しげに話しているのには感心します。私が一人所在なさげにしていると、誰かが話しかけてきます。日本では余り経験しなかったことです。特にホストは、新規参加者を中心に、彼らが仲間に入れるようにいつも細かい気配りをしています。この辺の社交術は、大英帝国何百年の伝統でしょうか、すごいですね。ほとんど全員に身についている気がします。

[英国の国民病]

糖尿病が多いようです。メディアも良く話題にしています。原因はズバリ「肥満」です。
ロンドンにはスリム体系も少なくありませんが、田舎では四角い、丸い体系が目立ちます。
この40年間で平均体重が約10kg増えているそうです。フランスやイタリアに行くと皆スマートに見えますから、英国人はかなり「太って」いると思います。色々と対策が議論されていますが、独断的に言わせてもらうと、「ビール」と「フライド・ポテト」、それから「スイーツ」の取り過ぎです。フライド・ポテトの摂取量はすさまじいですね。いつでも、どこでも食べています。3食のお供だけでなく、ピクニック食や歩きながら、公園でちょっとと言う時、口寂しくなるといつもつまんでいます。提供する店も多いということでしょう。フレンチ・ポテトより3倍くらい太い英国ポテトです。油たっぷり、それは太りますよね。英国厚生省にアドバイスしたいところです。
杖をついているシニアが日本よりずっと多いと思います。欧米人は日本人に比べて足腰が弱いと言われますが、機能的に弱いというより、やはり重さのせいではないのでしょうか。
それから周辺で良く耳にするのは心臓発作で倒れることです。それも40代、50代でという話を良く聞きます。
食事会話で高齢者の話題になると、必ず「日本は世界一の長寿国だよね、皆スリムだからねと来て、日本食がヘルシーで体に良い」に落ち着きます。ヘルシー志向は強いですから、「自己流」のべジタリアンがたくさんいます。多くは自分に都合のよいベジタリアンで乳製品と卵はOK。肉類を絶ってお腹がすくから、それをフライドポテトとスイーツで埋めることになります。私には全く逆効果に思えます。

[英国で馴染めないこと]

何度も同じことを言いますが、タトゥーは大の苦手で、見たくない。先日BBCの女性アナウンサーまでがプチ・タトゥーを入れているのを発見、ビックリしました。
ゲイが多くて堂々と市民権を持っているのも、日本社会とはちょっと異なります。あるダラム大学関係者が「パートナー」の都合で今年のバカンスはやめにしたと言ってましたが、これはゲイのパートナーです。私は古いタイプの伝統派ですから、いくら「ゲイに市民権あり」と言われてもついて行けません。
騒音に鈍感なのも困りものです。大きな声で話さない人達ですが、電車の中で携帯会話のうるさいこと(欧州はどこもそのようです)。ドアの開け閉めのバタンバタン騒音も全く気にしないようで、ストッパーをつけようという発想はありません。生活騒音に弱い私は、校長宿舎(マンション形式)の隣室のバタンバタンに悩まされました。TV・音楽観賞も音が大きいですね。
訓練が完璧で危険は無いのでしょうが、犬の散歩で鎖をつなげない人が少なくありません。私は犬が苦手の方なので、怖いこともありました。田舎というせいでもあるでしょう。

[英国で2年半お世話になりました]

色々悪口も言ってしまいましたが、2年半お世話になった英国は、間違いなくまだまだ日本が学ぶところも多い、素晴らしい国だと思います。私が一人暮らしと言うこともありますが、周りの人は「おせっかい」なくらい優しく気を使ってくれます。田舎の田園風景は欧州でも屈指でしょう。ロンドンとパリを比べると、ロンドンの方がずっと清潔で治安も良いと感じます。食事のまずさは英国の御愛嬌ですね。食事以外の生活の良さと、外国人に対する包容力は大したものです。また言ってしまいますが「食事以外は」本当に快適な2年半でした。英国とダラムありがとうです。

2014年9月6日
増渕 文規

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