英国ダラム便り(その25)

  • Durham 2014/5/8

皆さま

ダラム便り(その25)をお届けします。

気温は低いですが、さすがにこちらも春です。緑いっぱいになり、日が長くなってまことに気持が良い(雨が多いですが)。

久しぶりにデュッセルドルフに行ってきました。住んでいたのは20年前です。そのころは田舎の空港でしたが、スマートな近代空港に様変わりしていました。ダラムから近いニューカッスルの空港の寂しさと比べると大変な違いです。市の規模は似たようなものですが、国力の違いでしょうか。あいかわらずリトルジャパンのデュッセルですが、最近は中国人に追い上げられているとのこと。

ゴルフ場で支配人から「日本人」ゴルファーマナーの悪さで良くクレームを受けるそうです。

これはみな中国人なのですが、ドイツ人には区別がつきません。欧州中、ビジネスも大学も住民も観光も、そしてそのうちゴルフ場も中国人の天下になりつつあります。

増渕

英国ダラム便り(その25)

[英国軍艦外交の終焉]

最近の当地紙The Times記事のタイトルです。昨年対シリア軍事制裁参加決議が英国議会で否決されましたが、これが軍艦外交の終焉を象徴するという内容です。英国軍の実力と他国の紛争への軍事介入を嫌う民意から判断しての「軍艦外交の終焉」ということのようです。1588年にスペインの無敵艦隊を破って以来、世界の7つの海に支配を及ぼした海洋国家も昔日の面影はほとんど感じられず、普通の国ですね。一方この記事の中で、フランスは軍艦外交をやめていないと言っています。アフリカのマリや中央アフリカに派兵して、仏語圏アフリカの「憲兵」を演じたのはつい最近のことですし、国民に不人気のオランド政権はアフリカの憲兵としての役割強化にむしろ熱心に見えます。英国旧植民地のガーナ辺りで紛争があっても英国人の大多数は軍事介入に反対するだろうなと思います。もともと英国は国際紛争の場で独自のスタンスは取らず、国連、NATOあるいはEUと共に、しかも米国との同盟関係をベースに行動する固い方針ですから、NATOのなかでも独自の道を歩みたがるフランスとは違います。金欠英国の歳費カットは軍事費も例外ではなく、キャメロン政権は5年間の施政で軍事費を9%カットする政策を着実に進めています。ダラムの近くのニューカッスル部隊も廃止が決まっていて、時々存続嘆願の支援デモが起こっています。現在の軍人総数は17万人程度、仏/独や日本の自衛隊がどこも同じように24万人くらいですからかなり縮小が進んでいます。(今でも英国軍が駐留していたとは驚きですが)在ドイツ駐留軍の撤退も近々完了するようです。軍事費カット中ではありますが、年間580億ドルで米国、中国に次いで世界第3位だとか。何に使っているのでしょうか。兵隊さんの給料よりは最新鋭装備にカネを使っているのでしょう。世界に冠たる諜報の国ですから、情報・監視体制への投資が多いのかもしれません。英国の徴兵制廃止は1961年で、職業軍人体制ですが、結構若くしてやめて別の職に着く人が多いようです。帝京ダラム分校の事務長は元空軍のパイロット。ポーター(運転手兼管理人)の一人は昔潜水艦の電気屋で、事務所/教室の電気系統の故障はみな直してしまいます。周りにこういう軍人卒が一杯いますので、軍人のイメージがいかめしいよりは親しみやすい。

英国はフランス同様核兵器保有国で、その年間維持費だけで、5,000億円程度かかると言われています。4隻の潜水艦がそれぞれ48の核弾道ミサイルを持つトライデント・システムです。2024年のシステム更新を控えて、核廃棄も含め将来の体制をどうするかの議論が、政権交代のたびに盛んになります。種々のアンケートでは国民の過半数は「核兵器廃棄」賛成のようです。国民には核武装は「金食い虫の無用の長物」に映っているようです。年間維持費に5,000億円、更新には5兆円以上はかかると言われています。使うことはあり得ない核兵器のために、無駄なカネは使えないと思うのは当然でしょう。「核抑止力」の議論には色々な考え方があるでしょうが、私には特に超大国でない英仏のような国が過去はともかく現在も核保有していることは全く無意味に思われます。この世からの核兵器廃絶を心から望んでいますが、現実的に考えると米、ロシア、中国の核保有の意味は重いでしょう。英仏の核兵器能力は米国・ロシアの1/10以下です。仮想敵国をロシアとしても、NATO内で米国の傘の下にあって初めて英国の安全が保障されるのであって、英国単独の「核抑止力」などあり得ないと思うのですが。国際軍事の専門家は違う見方をするのでしょうか。英国では2015年に総選挙で、核武装体制の更新につき、議論が活発になるでしょう。トライデントは金食い虫と思っている国民も、いざ廃絶となると、どうでしょうか?国家の威信と言うか、一流国家としての自負と言うか、最後にそういうものを捨てる勇気は出てこないような気がします。核廃絶するにしても、200発の核弾頭をどう処理するのでしょうか。カネもかかります。関連技術者が職を失って、技術・ノウハウと共に(ならず者国家への)国外流出の恐れも心配されます。先端技術国にとって核兵器を保有することは簡単でも、それを廃棄するのは何倍/何十倍も大変なことに思われます。サルコジ時代にフランスは核兵器能力を1/3に減らしていくと宣言していますが、その後どうなったでしょうか。トライデントにしても全面更新などせず、徐々にミサイルを安全に減らしていくのが正解でしょうが、英国民の選択はどうなるでしょうか。なお、トライデントの基地はスコットランドにあり、万が一独立ともなるとややこしい問題になります。スコットランドはトライデント基地存続を認めないと思われるからです。イングランドのどこへ持って行こうにも、地元は必ず反対しますから、おお揉めに揉めるでしょう。英仏が共同率先して核兵器廃棄を進めていくことを最高のシナリオとして望んでいます。

[英国の外国語教育]

今年の10月新学期から7歳から11歳までの小学生に外国語教育を義務付けるそうです。
ユニバーサル言語としてますます重要になっていく英語を母国語としている英国人のほとんどは外国語が苦手です。学習する必然性がないのです。外国語学習に貴重な時間を取られる必要がないのはうらやましいようなものですが、グローバルな時代に英語だけではまずいと偉い衆が考えたのでしょう。それでも「中国語」が出現するわけではなく、ドイツ/フランス/スペイン語が中心のようです。日本でも小学校での英語教育の是非が議論されていますが、英国小学校での外国語義務化もどうでしょうか。必要性を感じられないわけですから、身に着かないでしょうね。先生の量も質も問題のようです。それよりも算数の時間を増やして、引き算や割り算がきちんとできるようにする方が、よほど重要でしょう。お勘定ですぐに計算できないのはフランス人と全く同じです。

2014年5月6日

増渕 文規

pdfのダウンロードはこちらから