英国ダラム便り(その19)

  • Durham 2013/11/13

皆さま

ダラム便りその19をお届けします。
こちらはすっかり冬で、日も短く、屋外スポーツは終わりですね。グルメと芸術の季節になりました。

10月末には今年2回目のフィレンツェへ。3泊腰を据えました。見そびれていたフラ・アンジェリコのフレスコ画「受胎告知」観賞が最大の目的で、期待以上でした。トスカーナと言えば「食」はもちろん堪能しましたが、フィレンツェの皮製品も有名です。靴やら何やら買い込みました。

無事高齢者の仲間入りをさせていただきましたが、ジーサマファッションは嫌であります。若者には似あう皮のブルゾンがひどく浮いてしまうかもしれませんが、「ほやほやの高齢者」はファッションでもまだまだ気合いを入れて頑張ります。

増渕 文規

英国ダラム便り(その19)

[パブをなくせ]

東京でも良く見かけるイングリッシュ・パブ(Public House—居酒屋)。なかなか雰囲気があって良いものです。どこの町でもレストランはなくてもパブはあるのが英国ですが、最近「パブをなくせ」という新聞記事を目にしました。冗談かと思ったら結構真面目に英国人のアルコール過剰摂取の源であり、特に若者が飲んで騒ぐ場を提供しているパブを糾弾していました。英国では5万件以上のパブがあるそうですが、その記事では今後1年間に4,000件くらい閉店の可能性ありとのこと(希望的観測のようですが)。このところ減少傾向なのは間違いないようです。どこも結構混んでいますが、ビール中心の居酒屋ですから単価が低く儲からないのではないでしょうか。1パイント(ビール中瓶位)400円以下。

全国どこでも似たような値付けですから安いです。食事もできるパブも多いですが、元々は飲むだけの場所。酒の肴なんていうのは日本人くらいではないですか。欧州はどこも同じと思いますが、酒場ではつまみもとりませんね。私が出入りする昼間や夜9時前の時間帯ではビールかソフトドリンク以外を飲んでいる人はほとんど見かけません。英国と言えばウィスキーで、どこのパブもさすがに品揃えはたっぷりですが、注文している人を見かけたことがない。ちゃんと回転しているのか不思議に思います。ウィスキーは夕食のあとか寝る前か、いずれにせよ家庭かレストランなどでの会食のあとに楽しむもので、パブ向きとは思えない。かなり無駄なストックを置いているのではないでしょうか。食事や高い酒で儲けを出せない構造のようです。フランスのカフェとは収益構造が違うのでしょう。

店内禁煙も響いているようです。週末のロンドン中心部のパブの前の通りは人が溢れかえって歩けないようなことが良くあります。寒い時にもなんで外で飲んでいるのかと不思議に思っていましたが、タバコなんですね。店内はそれほど混んでないのかもしれません。

ご存じの向きも多いでしょうが、パブはCash on Delivery。カウンターへ行ってビール注文と同時にキャッシュ支払いをしてビールを受け取ります。日本のパブでは食事やつまみまでCash on Deliveryにしている店が多いですが、英国では食事は別。注文はカウンターですが、モノはちゃんとテーブルに運んでくれますし、支払いは最後になります。 カウンターでの並び方はなかなかこつを要します。列がきちっとしていないから、うまく主流に並んでいないと、順番を遅らされる。これができるようになると英国暮らしも一人前と言うことでしょう。

田舎のパブでは勤め帰りのおっさんたちや引退ジー様が仲間と「今日はどうだった」とか、「相変わらず天気が悪いね」とかサッカーの話。楽しそうですね。夕食の前のひと時。だいたいは圧倒的に男だけの世界。それから家に帰って夕食です。若者男女は若者向けのパブで下手をすると泥酔。その帰りなどは大声で歌い歩くことも少なくありません。勿論アルコール漬けのおっさんも赤い顔をして長時間粘る。田舎のパブはそんなところです。良くも悪くも英国の原風景のようなパブです。これが完全に消えることは無いでしょうが、経営は厳しいのでしょう。パブが他の飲食店に変わると、それは味気ない店になります。昔はともかく現在の英国の小売店は、パン屋でもカフェでもアパレル店でもなんでもかんでもが大資本の全国展開チェーン店です。全国どこの駅前でも「Café Nero」とか「Café Rouge」とかいったチェーン店が同じ色の同じ看板を掲げていて、個性の無いことこの上もありません。こと小売店に関しては画一的、均一的なのが英国人の好みなんでしょう。唯一の個性派の牙城がパブです。もうけは少なくても英国伝統文化の担い手(と言えるでしょう)に頑張って欲しいですね。なお、パブ飯もそれなりにイケるという日本人も少なくありませんが、私は苦手ですね。ワイルドでシンプルで、ただそれだけですから勘弁してほしいです。日本でのパブのつまみ料理はなかなかのものでしたが。

[英仏パン事情]

私には英国の「Bread」はかなりまずいのですが(少なくとも田舎のダラムにまともなパン屋は存在しない)、それはそれとしてメインの皿の時「Bread」はサーブされないのがフランスとは大きく違います。スターターのスープの時に「Bread」が出てきて、すぐに引っ込められてしまう。1枚余分に取っておいて、それをメインの時に食べるのも、何となくマナーに反しているようでためらわれます。Marks and Spencerのような気取ったスーパーにはフランス風のバゲットも置かれていますが、どれも肉厚で中味がたっぷり。ロンドンにはPaulもあるのですが、フランスのPaulとはどうもクロワッサンの作りも味も違います。やはり肉厚な感じです。こうしないと英国人には受けないのでしょう。

9月末にフランス人の知人(妻の友人)の家に泊めてもらいました。パリのサンマルタン運河の近くで、いかにもパリらしいところです。「朝クロワッサン食べる?」と聞かれて「是非に」と希望しましたが、翌朝7時半ころドアが開く音が。食卓に焼きたてのクロワッサンが並んでいました。私のために買いに行ってくれたわけですが、朝の焼きたてのクロワッサンをお気に入りの店で買う「食の贅沢」。これぞパリならではの最高のおもてなしですよね。感激しました。これも焼きたてバゲットにつける手作りジャムはブルターニュ別荘のご近所から分けてもらったミラベル。どれも美味。どうですか、食欲をそそられませんか?
ご主人は最近フランスの有名大手企業管理職を引退、ほやほやの年金生活者で、ブルターニュと行ったり来たりのスローライフを楽しみ始めたところです。気候のよい6月にでもブルターニュに遊びにいらっしゃいと誘われています。いまから楽しみです。

2013年11月6日
増渕 文規

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