英国ダラム便り(その3)

  • Durham 2012年7月16日
  • 増渕 文規

皆様

ダラム便り(その3)をおとどけします。
オリンピックも間近となりましたが、田舎にいるとさっぱり
盛りあがってきません。英国人は結構お祭り好きですし、スポーツはフランス人よりよほど好きな民族だと思いますが、どうも全体にオリンピックムードが盛り上がってきていないようです。
ここ数年英国は異常気象が続き、今年は特に雨が多く、各地で洪水騒ぎです。
もっともフラットな地形ですので、日本のような大惨事にはなりません。
東京は早くも猛暑のようですが、こちらでは最高気温20度を超えることはめったにありません。

英国ダラム便り(その3)
2012年7月15日

[名門ダラム大学のこと]

私が奉職する帝京大学は1990年に英国の名門ダラム大学と協力協定を締結しています。
教員・学生の交流や共同研究、共同シンポジウムの開催などを目的としていて、我がダラム分校の教育活動を支えるインフラ(敷地の貸与/食事/図書館・スポーツ施設の利用等)の多くがダラム大学から提供されています。われわれの後見人のようなありがたい存在で、活動全般につきあれこれアドバイスをもらっています。

ダラム大学は世界大学ランキングで大体80位前後にいます。英国内では常時オックスフォード/ケンブリッジに次ぐ地位を保っています。大学院も含めて学生数16千人で外国人学生が3千5百人、そのうち9百人弱が中国人学生です。この外国人学生の多さも総合力ランキングの高さに関係しているのでしょう。オックス・ブリッジならともかく、この田舎のダラム大学が世界の多くの学生を惹きつける魅力があるということです。日本での知名度が高くないのが残念です。日本からの学生は多分10人以下だと思います。ちなみに韓国人学生は87人。たまたま今年4月の私の着任後2カ月の間に、韓国大使、中国大使がそれぞれダラム大学を訪問し、講演を行っています。学生数の多さといい、大使のパフォーマンスといい、中国/韓国のパワーは凄いですね。日本大使のご訪問は、私が聞いた範囲では関係者の記憶にありません。残念な話です。私の任期中に何とか日本大使をお呼びしたいと思っています。
中国人学生数は「本当?」と言いたくなるような数字ですが、「本当」に町には中国人学生が溢れています。特に現在夏期休暇で、英国人学生と多くの欧州系学生が家に戻っている関係で、町で会う若者の半分以上は中国人という印象です。ダラム大学入学のためには相当の英語力を要求されますが、彼らはそれを突破してきています。最近の中国の海外進出熱を反映して人数は毎年増えているようですが、もともと香港からの学生が多数いたようです。カナダ、インドの学生も多く、やはり英国コモンウェルスの伝統を感じます。

オックス・ブリッジとダラム大学の3大学は伝統的なカレッジ制をとっています。オックス・ブリッジのことは良く知りませんが、ダラム大学のカレッジ制には日々接していますので、簡単にご説明しましょう。ダラム大学は16のカレッジからなります。入学後に(個人の希望も聞いたうえで)各カレッジへ配属されます。カレッジ・ライフとは大学での授業以外の社会生活を共有しあう場です。授業はUniversityの学部棟で行われ、カレッジで授業が行われるわけではありません。1年生は自宅通学のごく少数を除き、原則カレッジのDormitoryに入ります。2年生になるとDormitoryを出て、下宿・アパート生活をしなければなりません。3年生になってまたDormitoryに戻ることができます。このほかDormitoryには少数ながら院生がいます。ちなみに学部は最低3年、院は最低1年で終了可能です。ほとんどのDormitoryは何と男女混合棟です。浴室の利用は男女で時間を決めて使っていますが、帝京の日本人女子学生は最初とてもいやがっていました(ダラム大学生との交流のために一部学生をダラム大学Dormitoryに入れています)。英国人はこの辺は何でもないようですね。

日本の学生寮でも文化祭その他各種イベントが盛んだと思いますが、ダラムの場合は田舎で町に行っても何もありませんので、カレッジがエンターテインメントの重要な場になります。どのカレッジにもパブがありますし、クラブ活動もスポーツもダンスパーティーも皆カレッジ単位です。青春の一時期の共同生活の思い出は深いようで、学生のカレッジ帰属意識は強いですね。このカレッジへの愛着は卒業後も続きますし、各カレッジはOB/OGをとても大切に扱います。現役の学生は“Junior Common Room”メンバーになり、活動の部屋も与えられますが、卒業生は“Senior Common Room”メンバーになることができます(一定の要件はありますが)。どのカレッジも毎月1回以上はSenior用に定期的昼食会を開催しており、80歳前後のカレッジOB/OGが昔話に花を咲かせています。各カレッジの校長先生は、忙しくても短時間でもこの昼食会に出席しますね。カレッジの校長は学生にとってはちょっと怖い親父のような存在です。食堂で学生のマナーが悪いとその場で厳しくたしなめています。70歳代、80歳代の昔のダラム大生と校長のやり取りは、これも働き盛りで社会的地位を得た息子と引退して久しいもののまだまだ元気な親父との会話のようで、ほほえましいいものです。
とにかくダラム大学のカレッジはファミリーな雰囲気で、日本にはこれと似た制度は存在しないでしょう。

[ダラムは昔炭鉱で栄えた町]

7月14日ダラム市の中心で炭鉱祭りがおこなわれました。ダラム市の存在するダラム県は昔炭鉱業が盛んでした。かつては英国の産業革命を支えた重要産業でしたが、1970年代に最後の炭鉱が閉山となり、その後の経済は不振です。なかなか炭鉱業に次ぐ産業が育たず、失業率も高い地域です。この地に80年代以降、日産自動車をはじめとする日本企業が続々とやってきました。雇用を創出したことで地元で高く評価されています。近々日立が進出するとのことで地元の期待が高いです。
日本企業頑張れ!!

pdfのダウンロードはこちらから