Tyranny of the majority(多数派の専横)という言葉は、多数派が多数派であることそのものを理由に自らを過剰に正当化して少数派を排除したり弾圧したりする危険性を指します。多数派だからいいじゃないか、民主主義とはそういうものだ、と納得していませんか。
そんなことはありません。
多数派なら専制を行ってもよい、という主張は民主主義の一部ではありません。「そういうもの」ではないのです。ましてや、多数決によって何でも決めてしまえ、と考えるのはあまりにも乱暴です。
いかにして民主的な決断をするべきか?人類の長い歴史の中で多くの偉人たちが論を重ねてきたにもかかわらず、私たちはまだその答えを知りません。歴史的には、ルソー、コンドルセを始め多くの思想家が集団的意思決定について考察し、アメリカ合衆国「建国の父」たち、トクヴィルなどが民主的意思決定、政治制度設計について論じてきました。
本講演では、集団的意思決定において現代人が知っておくべき科学的な方法について紹介します。ゲーム理論、社会選択理論、行動経済学、実験経済学、投票理論などの発展に伴い、科学的な研究に基づき、データを用いてより「望ましい」社会的意思決定制度の考察が行われています。そうして生まれたEBPM(Evidence-Based Policy Making)は優れた性質を持つことが知られており、その実践例から私たちの日々の社会的意思決定にいかにして応用すればよいか学ぶことができます。
しかし同時に、生身の人間が集まった社会においては、データだけで望ましい決定ができない例があまりに多いことを私たちは経験的に知っています。近年まで科学は人の心の動きや納得感などを考慮に入れるのが苦手な面がありました。最新の研究成果の紹介を通して、理論だけではなく、人の心にひびく施策を行うにはどうすればよいか、望ましい社会的意思決定とは何かを考えていきます。