
EU委員会前のTTIP反対デモ
筆者は2014年3月、フランス経済財政産業省出向時代の知己であるフランスEU代表部のバサール担当官の計らいでブラッセルの対日協定担当者とインタビューすることができた。当日、EU委員会庁舎前でTTIP(環大西洋貿易投資協定)交渉反対の大規模なデモが行われていて、TTIP交渉は前途多難を思わせた。
(1)欧州委員会対日交渉担当官とのインタビュー
日時 2014年3月13日(木)午前10時―11時
場所 欧州委員会内会議室
出席者 チモテ・ソテール 欧州委員会CI局・極東部 対日本通商関係政策調整担当官
ネベナ・マテーバ 欧州委員会CI局・極東部 対日本通商関係政策調整担当官
イバン・バサール フランスEU経済財政省EU代表部 中南米担当官

交渉担当官ソテール氏(右)と マテーバ担当官(左)
※ソテール担当官はあのソテール元財務相の親族です
瀬藤 日EU経済連携交渉はTPPやTTIPに比べて進捗状況が必ずしもよくないように見えるが、どうか。
ソテール そんなことはない。3月から4月にかけて交渉の重要な時期にさしかかる。 我々は2-3年位で協定締結に漕ぎ着けると考えている。4月15日からの交渉を重視している。協議の中心的な課題は次の3分野である。①農産物加工品、②鉄道関連市場、③非関税障壁分野の自動車と食品衛生など添加物等の規格 だ。 鉄道について日本側は民営化したいが、現実は政府や株式の持合も絡んで参入は困難となっている。 知的財産権は日本と同じ考え方を共有する面が多い。チーズやシャンペンについて原産地表示やブランド名の保護の問題がある。自動車分野の交渉妥結は十分に可能であると判断する。 日本からの自動車の対EU輸出の太宗は高級車であり、それ以外の日本車はほとんどEU域内かそれに準じた地域や国から入っている。
瀬藤 今回の日EU協定交渉については日本でも関係省庁やエコノミストの間でEU側との間でその呼び方がまだ定まっていないと言う意見がある。この辺についてどう考えるか。
ソテール 日本側は今回の日EU交渉を経済連携協定交渉と言っているが、我々は自由貿易協定交渉(FTA)と呼んでおり、意識の違いがある。単一市場については金融サービス分野が大きな課題として残っている、韓国との間でビザの問題が協定締結されたが、これは特別である。直接投資の分野では2国間ベースではフランスではAFII(フランス外国投資庁)、日本ではジェトロのような関係公的機関が誘致促進活動を行っている。EU全体のベースでは投資規制がリスボン条約で締結されている。
瀬藤 日EU経済連携協定に加えて、環大西洋貿易投資連携協定(TTIP)と環太平洋経済連携協定(TPP)の3つ連携協定交渉は巨大なメガ自由貿易地域統合交渉であると言われている。日本でもこの3つの交渉が近い将来、一緒になり世界的な自由貿易体制に統合することによって世界貿易機構がWTO2.0として再編されうるという意見があるが、どう思うか。
ソテール それはエコノミストやアカデミックな分野での議論で、現実はそう簡単に世界の地域的な貿易協定がグローバルに統合されていくとは思われない。理論と現実には大きな乖離がある。取り合えず、日本との自由貿易連携協定の成立による経済的統合効果はEUのGDPに対して10年間で0.6%の経済成長の増加に貢献するものと試算している。年間にして0.06%のプラスとなる。これは現在のEU経済の現状からする無視し得ない重要な経済効果であると思う。
瀬藤 OECDは去年10月16日に世界貿易の輸出入の計測方法を改定することを提案した。これは世界的な生産工程ネットワークの価値連鎖の分散を反映させた新たな国別の輸出入である。例えば中国が対EUに輸出した1000の内、日本から中国に600の中間財輸出によるものである場合には、中国の対EU輸出額は400ということになるというものである。これについてどう考えるか。
ソテール 多分、OECDの新算出方法は新たな正当なものと考えられる。EUでもWTOドーハラウンド交渉が予定通り進まなかった原因は、貿易構造の流れがここ10-20年でグローバルな価値連鎖の世界的な分散を反映したものになったことであると分析している。従来の2国間ベースの貿易だけでは多国籍企業のグローバルな取引の動きについてWTO交渉は対応できなかったことが交渉停滞の最大の要因である。