【レポート】《西村達也、究極の旅行者》ナショナル・デ・ボザール出展記念レクチャー

芸術とは感動すること

芸術史に続いては、「芸術と経済」についてお話を伺いましたが、私たち素人にはやや難しいテーマでした。ただ、絵画の値段の相場や、絵画の評価方法などは、これまで全く知らなかったことであり、大変に勉強になりました。
絵画の値段については、たとえば現存する作家の100号の作品の1号あたりの評価はいくらか、といった目安が記された「美術市場」という本があるそうです。また、評価については、「一物一価」ではなく、100万円の絵にかけられる同額の保険、相続時の評価(処分価格)、オークションでの落札価格など、使用目的で評価が変わることを学びました。
最後の質疑応答では、1点だけ白黒で異彩を放っていた富士山の作品に関する質問が。西村画伯は「雲の流れが激しく、なかなか富士の姿がみえないなか、一瞬ぱっと現れたときの感じを描いたものです。横山大観は『墨には五色の色がある』と話していますが、私もこの作品に色や風を感じることができます。ご覧になるみなさんも、ずっと眺めていれば色を感じるはずです。日本の水墨山水は、春にみれば春にみえる、夏にみれば夏にみえる、秋にみれば秋にみえる、冬にみれば冬にみえるというふうに、色を自分で想像することによって色が変化します。その掛け軸の世界に共感し、この白黒の富士を描いたわけです」と回答されていました。そして「芸術とは感動すること。そして新しいものを創造すること。私は元気ややる気が出るような作品こそが、今の芸術であると思って描いています」と締め括られましたが、実際、西村画伯の作品から元気をもらった人も多かったのではないでしょうか。

参加者の方に感想をうかがいました

長女の紗央里さん

長女の紗央里さん


三女の友里佳さん

三女の友里佳さん

レクチャー後の懇親会で、参加者の方に感想をうかがい、それぞれ一番お気に入りの作品の前に立っていただきました。
まずは西村紗央里さんと友里佳さん姉妹。苗字でお気づきの方もいらっしゃるかもしれませんが、お二人は画伯のお嬢様で、紗央里さんが長女、友里佳さんが三女です。
「一番好きな作品はピラミッドです。空の表現の透き通ったブルーがいいですね。フランスの方は、ブルーがとても澄んでみえるという話が初めての発見で面白かったです。父が話していた『芸術とは感動』『新しいものを創造すること』という部分は共感できました」(紗央里さん)

「一番好きな作品は富士山です。気持ちが明るくなりますし、黄色やピンクに近いオレンジなど自分の好きな色が多いので。色使いがきれいですね。父からは1枚あげるから飾りなよと言われているんですよ(笑)私は色の組み合わせが苦手なので、ああやってきれいに描ける父はすごいと思います」(紗央里さん)

小林さん

小林さん

3人目は小林さん。「この先生は赤が特徴かなと思っていたら、ご本人の一番の自信作は青を基調とした作品(カラコルム山脈)と聞いて、ちょっと意外な感じがしたのですが。すごく赤々しい赤なんだけど、決してどぎつくない受け入れやすい赤で、独特な赤の使い方だなと思いました。あと、自信作が青を基調とした作品ということであれば、情熱的な赤から、先生の歴史のなかでどういった心境の変化があったのか、思想の遍歴みたいな部分にも興味を持ちました」

上田さん(左)と小坂さん

上田さん(左)と小坂さん

最後の上田さんは、日本中世フィドル協会の代表を務められており、今回は近く同会場で開催予定の演奏会の下見もかね参加されたとのこと。一緒に写真に写っているのは、ボーカル担当の小坂さんです。
「白黒の作品は、先生がおっしゃるとおり色がみえてくるので、なるほどそういうことかと納得しました。他の作品が鮮やかな配色だけに、別路線のこの作品は白黒ならではの魅力を感じますね。フランスでの展示はバックが黒ということでしたが、先生の作品は打ってつけ。今度はぜひ黒バックで鑑賞したいと思いました」

今回は素晴らしい作品がズラリと展示されたこともあり、会場は華やかな雰囲気に。眺めているうちに元気が出る西村画伯の明るい作品を、上田さんと同じように、次回はぜひ黒バックで体験してみたいものです。