講演会「東アジア共同体の成立に向かって中・印シナジー(Chindia)の期待をさぐる・・・フランスの視点・・・」

日仏経済交流会(パリクラブ)若手グループ 主催
在日フランス商工会議所(CCIFJ)&笹川日仏財団 共催

講演会を催した趣旨:1997年のアジア通貨危機から10年。東アジアは、中国とインドのダイナミズムを取込みつつ地域全体の持続的成長を目指した 協力を深め、共同体のアイデンティティをよどみなく醸成しつつあるかに見えます。では、10年前に現実化したカントリーリスクの諸要因は克服されたので しょうか? ASEAN+3の枠組みに好むと好まざるとに関わりなく影響を及ぼしつつあるインド。その隣国に位置する中国。環境や市況の問題もふまえて、どれほど近い 将来に、この2大国間に摩擦を抑えた協調シナジーを期待できるのか。この度来日のアポテケール氏からその見方を聴いて一緒に議論してみませんか…という趣 旨で開催されました。

日時 2007年10月25日(木)
プログラム 18時30分~20時:日本財団ビル2階第1・2会議室でパネル
(港区赤坂1-2-2 tel. 03 6229 5538 銀座線虎ノ門3番出口から外堀通りを徒歩5分)
20時30分~22時:ル・プティ・トノー虎ノ門でビュッフェ
(港区虎ノ門2-1-1 商船三井ビル1階 tel. 03 5545 4640 同じく徒歩3分)
講師 ティエリー・アポテケール(Thiery Apoteker)氏
インドスエズ銀行の調査部長チーフエコノミストを経て、1990年、カントリーリスク、貿易、海外投資、国際金融を専門とするコンサルタント会社TACを設立し、その代表。HECやレンヌ大学に出講
進行 ユベール・ドメスチエ・デュ・ブール(Hubert de Mestier du Bourg)氏
前TOTAL-FINA-ELF極東代表、前在日フランス商工会議所会頭、明治学院大学・中央大学特任教授
使用言語 講演はフランス語で行われました。質問は仏、英、日で可能。
日→仏につき砂金(いさご)政良会員がお手伝い致しました。
 

■ご報告

講演は、1時間半を超えてフランス語で行われました。参加者は合計34名あり、フランス人参加者の割合が高い会でした。主な内容を簡単に紹介すると次のとおりです。
公演会開催時に使用されたスライド(pdf形式)

  • 中国は、人口でインドを上回り、一人あたりGDPでもインドを大きく引き離しており、消費財ではおおよそ倍の市場規模がある。当面はこう した状況に大きな変化はないものの、中国は豊かになるより前に非常に急速に高齢化しつつあり、ゆくゆくは、インドの人口は中国を上回る見通しにある。
  • 両国の注目度合いの割には、一人あたりGDPの伸びは先進国と大差なく、3倍程度の水準の差は今後も埋まらないだろう。
  • 政治体制を考えると意外だが、中国ではすでにインドよりも不平等が拡大し、世界一の不平等国となっており、人口の2割が国富の半分を所有し、たとえば、都市と農村、工業と農業などの間で大きな格差が広がっている。
  • 世界の大企業2000社のうち、中国企業は30社、インド企業は15社である(ちなみに、フランス企業は50社)。平均総売上高は、両国 企業ともおおよそ50億ドル(ちなみに、フランスは180億ドル)。総資産利益率(ROA)では6~8%とどちらも高めだが、総資産売上率でみると、中国 企業30社の平均はインドの2倍の資産を必要としており、資産効率が悪い(インド企業の平均はフランス企業並み)。
  • TACの調査によれば、たとえば、中国は、高い成長率にもかかわらずインドに比べて対外バランスをより上手にコントロールしているほか、両国の銀行制度とも脆弱であるが、中国の銀行の方がはるかに信用リスクの度合いが高いなど、両国の成長とリスクの形態は大きく異なる。
  • TACの経済格付指数は、現時点で両国とも良好であるが、世界銀行の調査や中国の政情が安定していることを勘定に入れても、中国の政治的リスクははるかに高い。
  • 過剰な借入、過剰投資、不平等の拡大、環境問題、貧弱なコーポレートガバナンスや脆弱な法の支配など、外国企業にとって中国はリスクが高 い国である。北京オリンピック前で過熱した景気は減速し、過剰設備と負債返済の必要から収益性の点でリスクが高い。とくに海外からの投資が蒙る被害が大き いだろう。
  • インドは多数の障壁が存在する規制大国であり、インフラの欠如のためにビジネスで苦労させられることが多いものの、ルールが明確で、長期的に見ればリスクがより小さいといえる。主な問題は、やはり環境問題と、人口の半分が非識字者であるという大きな社会的不平等である。 
  • この両国の関係が相補的か競合的かの点についてだが、すでに、狭い分野(ソフト開発では中国が追い上げ、製造業ではインドが追い上げてい る)では競合している。過去しばらく大きな変化はなかったものの、足許の5年ではほぼ4つの分野で両者の取引が拡大している。なかでも、すでにインドの貿 易赤字が目立っている。
  • 両国間の激しい競争(たとえば、資源など)や衝突(たとえば、チベット、ネパールや、最近ではミャンマーなどの地政学上の問題、インド洋やマラッカ海峡の覇権など)が多くの分野で目立ってきている。 
  • この地域における中国の覇権の高まりが気懸かりであるという点では、中・印シナジー(Chindia)が形をあらわしつつあるというよりも、2つの強力なライバルと言った方がよいだろう。