「アフリカ徒然草」( AU代表部員によるアフリカに因んだエッセイ)

第29回 通貨統合

●AU がアフリカ統合のために推進する長期目標「アジェンダ2063」は、アフリカ金融機関の創設を1つの目標に掲げている。アフリカの経済面での統合の一環として、おそらく欧州連合(EU)が単一通貨ユーロを創設したように、AUも、大陸共通の単一通貨の創設・発行を目指している、ということである。

CFAフラン
アフリカの通貨統合は、欧州にずいぶん遅れを取りながら始まったように思われるかもしれないが、実は一部の地域では、とうの昔から行われていたのである。東 部・中部アフリカでは、CFA フラン(セーファー・フラン)という通貨が使用されてきた。セーファーは仏語読み(セー・エフ・アー)で、またフランというだけあって、元々はアフリカの旧フランス植民地の通貨である。西部アフリカでは、西アフリカ諸国中央銀行(BCEAO)が発行する CFA フラン(西アフリカ CFA フラン)、中部アフリカでは、中部アフリカ諸国銀行(BEAC)が発行する CFA フラン(中部アフリカ CFA フラン)があり、両者は同一価値だが、相互の CFA フラン圏において使うことはできない。
CFA フランは、1958年に1仏フラン=50CFA フランに固定されたが、その後、1994年になって、1仏フラン=100CFA フランと、対仏フランで半分の価値に切り下げられた。その後、ユーロの導入により仏フランが消滅したことか ら、1999年に、1ユーロ=655.957CFA フランとされている。ユーロ導入前と比べると、換算が少しややこしくなった。

地域内での通貨統合の先駆け
宗主国にとって都合の良いシステムとして導入された統一通貨が、結果としては域内の経済統合、より具体的には金融・通貨統合の実現と促進に貢献している。因みに、CFA が何の頭文字かというと、元々は「Colonies françaises d’Afrique」で、アフリカのフランス植民諸国という意味である。それが今では、別の名称に変わっている。西部アフリカでは「Comminauté financière africaine(アフリカ金融共同体)」、中部アフリカでは「Coopération financière en afrique centrale(中部アフ

リカ金融協力)」と呼ばれている。フランスの植民地支配などどこにもなかったかの様に、綺麗さっぱり化粧直しが施されている。筆者が20年以上前に西部アフリカのベナンに出張した際、同国の大臣が、「欧州に通貨統合のやり方を教えてやるよ」と笑いながら自慢げに話していたのが印象的であった。

西部・中部の何か国がこの通貨統合に参加しているかというと、西部アフリカからは、西アフリカ経済共同体(ECOWAS)加盟15か国の半数以上の8か国(注1)。中部アフリカからは6か国(注2)。合計14か国というのは、全アフリカ54か国の4分の1に相当する。因みに、合計14か国のうち、ギニアビサウは旧ポルトガル領、赤道ギニアは旧スペイン領なので、厳密に全てが旧フランス領ではない。

(注1)ベナン、ブルキナファソ、コートジボワール、ギニアビサウ、セネガル、マリ、ニジェール、トーゴ
(注2)中央アフリカ、コンゴ(共)、カメルーン、ガボン、赤道ギニア、チャド

この14か国の経済規模がアフリカ全体のどの程度かというと、まず、人口比では、 2020年の人口統計で、アフリカ全体が約13億3900万人、中・西部通貨統合圏が約1億8600万人で、全体の約14%を占める。
GDP では、2019年の統計でアフリカ全体が2,430,610百万ドル、中・西部通貨統合圏が241,967百万ドルで、約10%を占めることになる。
CFA フラン圏の国は、外貨準備高の50%をフランスに預託しなければならない。これについては、フランスによる経済支配であるとの批判もある。アフリカ GDP の 10%に相当する経済圏の通貨のこの部分を握っていることの意味は、フランスにとって非常に大きいだろう。

ECOWAS 内での統一通貨創設・導入に向けた動き
地域経済共同体(RECs)内で最も地域統合が進捗している ECOWAS において、統一通貨 ECO(エコ)を導入する議論が進められている。
2019年6月、ナイジェリアのアブジャにおいて、ECOWAS の首脳たちは、20 20年から ECO を導入することを決定した。また、ECOWAS 加盟の15か国のうちの西部アフリカ CFA フラン圏の8か国とフランスは、同年12月、コートジボワールのアビジャンにて、ECO に移行した際には、外貨準備高50%の預託というフランスの管理を受けないことに合意した。

EU のユーロをモデルにした通貨 ECO の創設は、ECOWAS 内の CFA フラン圏に属さない国を中心に提案された。具体的には、ガンビア、ガーナ、ギニア、リベリア、ナイジェリア、シエラレオネである。どちらにも属さないのがカーボベルデである。これら6か国は、西アフリカ通貨圏(WAMZ、仏語だと ZMOA と標記)を2000年4月にガーナの首都アクラで設立し、いずれは CFA フラン圏と統合し、ECOWAS全体として2015年に方向性を示すこととしていたが、その動きは停止している。

ECO 導入は暫く棚上げ
さて、2020年には CFA フランが廃止され、ECO に移行するか、というところまで来たが、なかなかそうはいかなかった。現状、移行への交渉はストップした状態である。プロセスが停滞している理由は、CFA フラン圏と WAMZ 加盟国との立場の違いである。一部の仏語圏は、ECO が CFA をハイジャックすると受け取り、抵抗していると言われている。また、ユーロとの固定相場を主張する CFA フラン圏と、変動相場制を主張するその他の国との間の調整はついていない。

2020年1月、ナイジェリアのアブジャで開催された WAMZ の会合において、 WAMZ 加盟6か国が ECO への参加を見送ることを決定。その結果、ECO 参加国は、CFA フラン圏の8か国と WAMZ に加盟していないカーボベルデの計9か国となった。
更に、2020年9月、コートジボワールのワタラ大統領は、ECOWAS 首脳会合において、COVID-19 の影響等から、ECO を今後数年以内に導入することは困難と発言した。

大陸の通貨統合の未来や、いかに?
ということで、最も統合が進んでいる ECOWAS でも道のりは険しそうである。 CFA 圏は、現在も CFA フランが流通している。ECO を巡る議論は、いわば、通貨の名称を ECO とすることが合意されただけである。
他の地域での動きとしては、例えば東アフリカ共同体(EAC)では、2013年に統一通貨議定書に合意し、10年以内の実現を目指すこととなっているが、果たしてどうだろうか。余り明確な動きはつかめていない。

(AU代森本)

(本エッセイは、AU代表部員個人の見解を記したものであり、必ずしも当代表部または日本政府の立場を反映したものではありません。)

 

 

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