「アフリカ徒然草」( AU代表部員によるアフリカに因んだエッセイ)

第25回 アフリカの地域機関(RECs)

●アフリカの3層構造(AU、RECs、MS)
アフリカの統合の議論で良く出くわすのが、大陸、地域、国、の3層構造である。大陸全体をまとめるアフリカ連合(AU)と、その加盟国(MS:Member State)の中間に、地域(region)がある。世界全体からみればアフリカが1つの地域なので、大陸内の各地域を準地域(sub-region)と表現することもあるが、便宜上、ここでは地域で通すことにする。アフリカの統合に向けた努力は、この 3 層を上手く連動させて前進させることに尽きると言っても良いだろう。そこで重要な働きをするのが、(準)地域レベルの取組である。

●RECs とは
アフリカの地域機関のことを「地域経済共同体」という。英語では、「Regional Economic Communities」と言い、略して「RECs」と表記する。これを、「レックス」と発音する。AU は、大陸内に8つの RECs を認定している。具体的には、 AMU、COMESA、CEN-SAD、EAC、ECCAS、ECOWAS、IGAD、SADC。アルフ ァベットが並んで分かり難いので、それぞれ簡単に紹介する。

・AMU:Arab Maghreb Union(アラブ・マグレブ連合)
○本部:ラバト(モロッコ)
○加盟国:アルジェリア、リビア、モーリタニア、モロッコ、チュニジア
(仏語(とアラビア語)を公用語とする国が多いマグレブ諸国で創設された機関だから UMA と仏語式に書かれることもある。最近は活動が見られず、事実上の休眠中。)

・COMESA:Common Market for Eastern and Southern Africa(東南部アフリカ市場共同体)
○本部:ルサカ(ザンビア)
○加盟国:ブルンジ、コモロ、コンゴ(民)、ジブチ、エジプト、エリトリア、エチオピア、ケニア、リビア、マダガスカル、マラウィ、モーリシャス、ルワンダ、セーシェル、スーダン、南スーダン、エスワティニ、ソマリア、チュニジア、ウガンダ、ザンビア、ジンバブエ
(ジブチの最高級ホテル「ケンピンスキー」は、2006年にジブチで第11回COMESA

首脳会議を開催するに合わせて、僅か10か月で建築されたもので、「ジブチの奇跡」と呼ばれる。首脳会議に出席する首脳たちが滞在するに相応しいグレードのホテルを、とのゲレ・ジブチ大統領の呼びかけに、UAE のナキール社が発注を請け負い、建設業者を募っ た。極端に短い工期にどこも尻込みする中、これに応えたのが日本の大成建設。急ピッチで工事を進め、奇跡を実現させたことは御存じだろうか。)

・CEN-SAD : Community of Sahel-Saharan States(サヘル・サハラ諸国国家共同体)
○本部:トリポリ(リビア)
○加盟国:ベナン、ブルキナファソ、カーボベルデ、中央アフリカ、チャド、コモロ、コートジボワール、ジブチ、エジプト、エリトリア、ガンビア、ガーナ、ギニア、ギニアビサウ、ケニア、リベリア、リビア、マリ、モーリタニア、モロッコ、ニジェール、ナイジェリア、サントメ・プリンシペ、セネガル、シエラレオネ、ソマリア、スーダン、トー ゴ、チュニジア
(本部のあるリビアが政情不安であることも影響してか、最近活動は殆ど知られていない。)

・EAC:East African Community(東アフリカ共同体)
○本部:アルーシャ(タンザニア)
○加盟国:ブルンジ、ケニア、ルワンダ、ウガンダ、タンザニア、南スーダン
(地域的近接性や加盟国が少ないことからも、まとまりやすく、RECs の中では域内統合が割と進んでいる。)

・ECCAS:Economic Community of Central African States(中部アフリカ諸国経済共同体)
○本部:リーブルビル(ガボン)
○加盟国:アンゴラ、ブルンジ、カメルーン、中央アフリカ、チャド、コンゴ(共)、コンゴ(民)、赤道ギニア、ガボン、ルワンダ、サントメ・プリンシペ (議長を務めていたデビー・チャド大統領が2021年に死去してからは、動きが見えていない。仏語だと CEEAC となり、呼び方も「エッカス」から「セーアク」となり、なかなかピンとこないことがある。)

・ECOWAS:Economic Community of West African States(西アフリカ諸国経済共同体)
○本部:アブジャ(ナイジェリア)
○加盟国:ベナン、ブルキナファソ、カーボベルデ、コートジボワール、ガンビア、ガー

ナ、ギニア、ギニアビサウ、リベリア、マリ、ニジェール、ナイジェリア、セネガル、シエラレオネ、トーゴ
(最も活動が活発かつ域内統合が進んでいるRECs の1つ。仏語圏が多いので、「エコワス」よりも仏語読みの「セデアオ」(CEDEAO)を良く耳にする。)

・IGAD:Intergovernmental Authority on Development(政府間開発機構)
○本部:ジブチ(ジブチ)
○加盟国:ジブチ、エリトリア、エチオピア、ケニア、ソマリア、スーダン、南スーダン、ウガンダ
(域内の問題解決に中心的役割を果たすことが多い。加盟国のうち、エリトリアは協力を停止する旨を宣言し、休止状態。発足時は「IGADD」とD が2つあった。2つ目の D は drought(干ばつ)のD。干ばつの被害は今でもこの地域の懸案の1つ。)

・SADC:Southern African Development Community(南部アフリカ開発共同体)
○本部:ハボロネ(ボツワナ)
○加盟国:アンゴラ、ボツワナ、コンゴ(民)、レソト、マダガスカル、マラウィ、モーリシャス、モザンビーク、ナミビア、セーシェル、南アフリカ、エスワティニ、タンザニア、ザンビア、ジンバブエ
(ECOWAS と並び、最も活動が活発かつ域内統合が進んでいるRECs の1つ。南アの経済力が、経済統合の牽引力として大きく貢献。)

●5か8か?
さて、アフリカ連合(AU)やアフリカの政治に関わった方なら、きっと思うのではないだろうか。
「AU は、大陸を東西南北中部の5地域に分けて(下図1参照)、何かある毎に地域の代表国を選んでいる。しかし RECs は8つ。5 地域と8RECs はどういう関係なのか?」
ごもっともな指摘である。AU はかつて、RECs を地域に合わせて5つに絞り込むことを真剣に検討したことがあった。しかしながら、既存の枠組みを修正するのは容易ではない。そもそも8つの RECs 以外にも地域機関は存在し、合計10以上の機関があったのだ。その中で、RECs として認める既存の8つを上限とし、これ以上増やさない、ということに決めた。下図2のとおり、かなり複雑な構成となっており、整理するのは簡単ではないことが分かるだろう。
アフリカ以外に散らばったアフリカ系ディアスポラがいる。彼らの多くは資金力が

あり、世界中にネットワークを構築し、時には政治力も行使する。AU は、5つの地域に加えて、ディアスポラをひとまとめにして6つ目の地域と呼んでいる。

(図1:アフリカ5地域(AU の HP より))

(図1:アフリカ5地域(AU の HP より))

(図2:8つの RECs(同僚の力作に筆者が加筆))

(図2:8つの RECs(同僚の力作に筆者が加筆))

●RMs(RECs に入らない地域機関)
RECs 以外にも地域機関があると上述したが、それを総称して「Regional Mechanisms (RMs)」という。しばしば RECs と合わせて RECs/RMs と表記されることがある。
RMs は、例えば、「西アフリカ諸国中央銀行(La Banque Centrale des États de l’Afrique de l’Ouest)」で、通常「BCEAO(ベセアオ)」と呼ばれる。ECOWAS 加盟15か国の中の8か国(全て仏語圏)が加盟している(注)。本部はダカール(セネガル)。域内の共通通貨である「西アフリカ CFA フラン」を発効する。この西アフリカ CFA フラン圏の経済通貨統合を促進する地域機関が「西アフリカ経済通貨同盟(Union Economique et Monétaire Ouest Africaine)」で、「UEMOA(ウエモア)」と呼ばれ、同じ8か国が加盟。本部はワガドゥグ(ブルキナファソ)。 また、南部アフリカの SADC(サダックと呼ぶ)加盟国の中の南ア、ナミビア、レソト、エスワティニの4か国は、「南部アフリカ関税同盟(Southern African Customs Union)」を形成している。本部はウィントフック(ナミビア)。ちなみに、略して「SACU(サク)」という。
このように様々な RMs がある。筆者が知らないものもあるだろう。

(注)ベナン、ブルキナファソ、コートジボワール、ギニアビサウ、マリ、ニジェール、セネガル、トーゴ

●AU との役割分担が重大な鍵
冒頭に書いたとおり、アフリカの統合を進める上では、AU、RECs、MS の三層構造を捉えることが重要だが、実際には、それぞれの関係、特に、AU と RECs が上手く役割分担して連携する必要がある。AU の統合を促進するために必要な機構改革の議論の中で、AU と RECs の作業分担(division of labour)は重要課題となっている。当初の予定では、2022年2月には AU 関係機関の作業分担が全て整理されている筈だったが、残念ながら、具体的な進捗があると言える状況には至っていない。

それが難しい1つの理由は、RECs 間で統合の度合いが異なる点である。地域統合の度合いを計るために、8つの基準からなる「多元的地域統合指標(multi- dimensional regional integration index)」というものがある。その基準とは、①人の移動の自由、②社会、③貿易、④金融、⑤通貨、⑥インフラ、⑦環境、⑧政治制度である。RECs の中での統合の進捗度は、ECOWAS が総合的にトップである。例えば、移動の自由では、地域内共通のパスポートと査証(VISA)の免除があり、社会統合では、居住と設立の自由が認められている。貿易では、域内の自由貿易協定がある。通貨統合も、加盟15か国のうち8か国については以前から行われてお り、現在、ECOWAS 共通通貨の導入に向けた議論も行われていた。アフリカの通貨統合については別途の機会を設けたい。 ECOWAS と休眠状態のものや、その中間のものを一列に並べて AU との作業分担を調整する、といっても無理な話である。

もう1つの難点として、AU が権限をどこまで放棄できるか、という疑問がある。多くの権限を RECs に委譲すると、AU はシンクタンクになってしまわないか?といったことを言う人もいる。それは大げさだとしても、AU が、全体調整と RECsへの支援に終始してしまうような存在になることを、AU 委員会(AUC)と AU 加盟国は許さないだろう。どんな組織にもあるような組織間の権限争いの決着が付かない場合、最終的にはそれを裁定する上位機関があって、裁断を下す。しかし、 AU にはそれがあるだろうか。

(AU代森本)

(本エッセイは、AU代表部員個人の見解を記したものであり、必ずしも当代表部または日本政府の立場を反映したものではありません。)

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