「アフリカ徒然草」( AU代表部員によるアフリカに因んだエッセイ)

第11回 日本の経済安全保障とアフリカ

●日本人の生活を支えるアフリカ
日本は、エネルギーや食料の多くを外国からの輸入に頼っている。日々の生活に欠かせない電力や携帯電話のような電子機器、毎日の食事、おやつで食べるチョコレートや記念日に大切な人に送るバラの花束等々。生存に不可欠なものから、生活をより豊かにするための商品に至るまで、我々は1年365日、24時間、実に様々な商品やサービスを必要としている。しかし、日常何気なく使っているものでも、それを構成する原料がどこで採掘され、どのように運ばれ、工場で加工され、更に付加価値が付けられて自分の手元に届くのか、少し立ち止まって考えてみると、実は途方もないプロセスを経ていることに気づかされる。
小学生の頃、担任の先生から、給食の時間に、「君たちが食べているパンは小麦粉でできていて、遠い外国から来ているんだよ」と教えられて、「へぇー」と無邪気に感心していたことを思い出す。今回は、この時の新鮮な気持ちを胸に、日本の経済面での安全保障にアフリカがどのように関わっているか、簡単に紹介したい。

●採取産業(ExtractiveIndustries)
まずは、地下資源、鉱物資源から取り上げよう。
・電力供給や自動車等の動力として必要な石油や天然ガス。石油は中東だけでなく、スーダン、チャドの中部アフリカからも輸入している。また天然ガスを、ナイジェリアやエジプトから輸入している。
・携帯電話やコンピューター等の精密機器にはレアメタルが多数使われている。例えば、コバルトはコンゴ(民)やザンビアといった中・南部アフリカから来ている。使用済みの携帯電話や乾電池を回収してリサイクルするのは、機器に含まれるレアメタルを取り出して再利用するためだ。その名のとおり、レア(希少)な金属である。
・採取産業の行方は、技術革新とも大きく連動している。探査技術が向上すると、以前は見つけられなかった所に資源が埋蔵されていることが分かる。分かったところで、掘り出すコスト過多となれば、ビジネスとして成立せず、断念せざるを得ない。そこで、採掘技術の改善が求められる。シェールオイルのように、地層と原油が分かれておらず、泥のようにグチャッとしたものでも取り出すことができて、成分を分離する能力が上がることで、採掘・生産が可能となる。

●強さと賢さを兼ね備えた美
・プラチナとダイヤモンド。先ずは高価な宝飾品を思い浮かべるだろう。カットの仕方で輝きが変化するダイヤモンドは、南部アフリカのボツワナ、コンゴ(民)、南アが主な産地である。宝石の代表のようなダイヤモンドだが、輸入の多くは工業用ダイヤである。硬さや熱伝導性に優れたダイヤは、切る、削る、磨くの三拍子揃った有能な加工道具となる。その耐摩耗性や熱伝導性を活かし、調理用品のコーティングにも使われる。更に、放熱性が高いことから、5G/6Gの新時代のIT技術にも活躍しそうだ。品質安定の観点から、最近では、100%純正のダイヤよりも、人工的に合成された合成ダイヤや人造ダイヤがより多く使われてきている。
・結婚するカップルの80%がプラチナの指輪を選ぶそうだ。耐久性や純度、そして見た目の美しさが選ばれる主な理由だ。そして希少性。つまりそれだけ価値が高い、ということだろう。日本は、プラチナの約80%近くを南アから輸入している。そしてその多くの用途は、工業用である。分かりやすい例でいうと、自動車の排気ガスの浄化のための触媒として用いられる。

●高貴で稀少な金とプラチナ
・貴金属と言えば、すぐに思い浮かぶのはやはり金とプラチナ。その名のとおり、ノーブル(高貴な)メタルであり、高級なイメージがある。いや、実際に高価であることが多い。人類が金を手にして今まで、約6000年の歴史がある。その間の総採掘量は17万トンと言われている。そして、現在確認されている埋蔵量は7万トン。これまで、地球の金の埋蔵量の3分の2が既に掘り起こされたことになる。
・プラチナに至っては、ずっと少ない。人類との歴史は金よりも浅く、これまで採掘されたのは約5万トン。そして、現在の埋蔵量は2万トンを大きく切っている。クレジットカードやチケットで、ゴールドやプラチナと呼ばれるものがある。上得意客のステータスを意味する。結婚記念日にも金(50周年)とプラチナ(70周年)がある。いずれも、金よりプラチナの方が上に位置づけられている。
・希少価値と価格は一定の比例関係を有するが、最近は、プラチナよりも金の相場価格が高くなっているらしい。

●図書館で鉱物資源の重みを体験?!
どういう鉱石が何に使われるか。どこに埋蔵されているか。こういった詳しい情報は、鉱物資源百科事典に掲載されている。地球には数千もの鉱物があり、その埋蔵量、消費量、工業用への応用、硬度、色等の情報が満載である。この事典、毎日使う

ものではないし、お値段もそれなりである。専門的な研究や仕事、または趣味で使う必要がない限り、一家に一冊とはいかないだろう。興味があれば、図書館で閲覧することも可能である。千数百頁のずっしりした重さを体感するだけでもレアな経験になるだろう。

●我々は、毎日アフリカを食べている!
・過去の回で、コーヒーの起源について書いたが、エチオピア、タンザニア、ケニアを始め、多くのアフリカの国がコーヒーを生産し、日本にも輸出している。日本は世界有数のコーヒー愛飲国であることも、以前書いたとおり。
・チョコレートの原料であるカカオの生産の世界第1位は、西部アフリカのコートジボワール。その隣国のガーナも世界有数のカカオ生産国。日本では、商品名にも使われているとおり、カカオの輸入の80%弱をガーナから輸入している。
甘いもの繋がりでいくと、バニラアイス等に使われるバニラの原料となるバニラビーンズの90%以上を、アフリカ東海岸の島国のマダガスカルから輸入している。
・千夜一夜物語の「開けぇ~、ゴマ!」の舞台は中東(ペルシャ)だが、そこに欠かせないアイテムであるゴマはアフリカ原産と言われている。古代エジプトやメソポタミア、そしてインドでは、紀元前3000年には既にゴマが栽培されていた形跡がある。また、古代オリエントのアレクサンダー大王が東方遠征したことで開通した東西貿易ルートとシルクロードを経て中国、そして日本に広まったとされている。現在、主なところでは、西部・東部アフリカのブルキナファソ、ナイジェリア、タンザニア、エチオピア、ウガンダからゴマが日本に輸出されている。日本はゴマの国内消費のほぼ全量を輸入に頼っていて、その取引量上位3位をアフリカ勢が占めている(2017年財務省統計)。
・俳句では新年の季語にもなっている伊勢エビは、南部アフリカの長い海岸線を有する南アやナミビアから輸入している。全体の輸入額のそれぞれ10%程度を占めている。世界的に日本食の人気が高まっており、寿司や刺身を箸を使って上手に食べる外国人が増えている。一番人気はマグロだろうか。北部アフリカのモロッコ、アルジェリア、チュニジア産のマグロも日本の食卓に並んでいる。
・土用の丑の日と言えば、ウナギ。日本近海でのウナギの稚魚の不良が続いたことから、2012年に、南部アフリカのマダガスカルからウナギの稚魚が輸入され始めた。縁日でも人気なたこ焼きのタコも、アフリカから来ている。日本で消費されるタコの60%は、北部アフリカのモーリタニアやモロッコ産である。他にもまだまだあるが、キリがないのでここらでとどめておく。

●生活に彩りと安心を
・百万本のバラの花束をプレゼントされたら一生の思い出になるだろう。ケニアやエチオピアを中心に、日本にもバラが輸入されている。アフリカのバラは花が大きく、しっかりしている。日本が輸入するバラの20%がケニア産だそうだ。なお、サハラ砂漠には、ローズ・ド・サハラ(サハラのバラ)と呼ばれるものがある。これは花ではなく、砂漠の砂と水分からできた結晶のことである。形がバラの花に似ていることからそう呼ばれる。
・ゴムの木はアフリカの至る所にある。車のタイヤを作る等、多様な用途があるが、化粧品の粘り気を出すためにも使われる。
・アフリカの低地では、蚊(ハマダラカ)の媒介によるマラリアが今でも発生する。蚊帳を吊ったり、防虫スプレーを散布したり、様々な対策がある中で、結構良く効くのが日本の蚊取り線香。ここに使われる除虫菊は、東部アフリカのケニア、タンザニアから輸入されている。アフリカから輸入したものが再びアフリカに持ち込まれ、我々の身をマラリアから守ってくれているのだ。

●眩しい光の裏には陰も
石油、ガス、鉱物は、皆の生活に不可欠な、そして豊かにする地下資源であるが、光の裏には陰がある。

「紛争ダイヤモンド(Conflictdiamond)」
内戦地域で産出されるダイヤモンドや他の宝石類が紛争当事者の資金源となっているものをこう呼ぶ。「血塗られたダイヤモンド(blooddiamond)」等と呼ばれることもあるが、同名の映画は、西アフリカのシエラレオネを舞台とし、紛争ダイヤモンドをテーマとする作品だ。紛争が激化すると、地元住民の生活は困窮し、鉱山労働者の賃金が圧迫される。これは、宝石価格の下落にも繋がる。負のスパイラルだが、その中で得をするのは、紛争ダイヤモンドで得た資金で武器を購入し、それを売りさばいて儲ける武器商人だ。この問題については、国連が紛争ダイヤモンドの取引を禁止する等、国際社会も対応しているが、抜け道がない訳でもない。

「EITI」
採取産業から資源産出国の政府に流れる資金の透明性を高めることを通じて、腐敗や紛争を予防し、その多くが開発途上国である資源産出国の経済成長や貧困削減に繋げるといった、責任ある資源開発を促進する国際的な取組がある。

「採取産業透明性イニシアティブ(ExtractiveIndustriesTransparencyInitiative)」長い名称なので、短縮して「EITI(イー・アイ・ティー・アイ)」と呼ぶ。資源産出国(51か国)、日本を含む15の支援国の政府だけでなく、採取企業や市民社会が多数参加しているのが特徴だ。
豊富な資源を有する産出国が、その資源によって豊かになるのではなく、逆に貧困が深刻化するといった「資源の呪い」から脱する必要がある。公正な取引が行われることが、世界全体の資源の適切な活用に繋がることは言うまでもない。資源の殆どを海外からの輸入に依存している日本にとっては死活的に重要だ。世界の「連結性」の重要性を再認識せずにはいられない。

(AU代森本)

(本エッセイは、AU代表部員個人の見解を記したものであり、必ずしも当代表部または日本政府の立場を反映したものではありません。)

(左下:シエラレオネのダイヤモンド採取業者。外務省HPより)

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(中央:金、銅が含まれた鉱石。外務省HPより) (右上:エチオピアのバラ。筆者撮影)

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