「アフリカ徒然草」( AU代表部員によるアフリカに因んだエッセイ)

第8回 AUの「アジェンダ2063」(アフリカの更なる統合に向けて)

●アフリカ人が欲するアフリカ
AUことアフリカ連合は、その前身たるOAU(アフリカ統一機構)設立から半世紀たった2013年に、その後の50年間に達成すべきアフリカの統合目標となる「アジェンダ2063」を策定した。そして、その2年後の2015年1月31日の第24回AU定期総会(AU総会は、アフリカの首脳が集まる定期首脳会議で、AUの最高意思決定機関)で採択された。この半世紀目標のアジェンダには副題が付いている。それは、「AfricaWeWant(我々が欲するアフリカ)」すなわち、アフリカ人たちが欲するアフリカの未来像への思いが込められている。2020年2月10日、コートジボワールのワタラ大統領は、アジェンダ2063の実施に関する第1回報告書を提出した。以後、2年に1度、進捗状況が報告されることになった。また、アジェンダ2063年は長期的な統合計画であるため、最初の10年間に達成すべき中期目標が定められている。

●7つの願望
アジェンダの中身は、主に、貧困撲滅をはじめとするアフリカの経済開発による統合を目指すものだが、「アフリカ合衆国」の創設を通じた政治統合や、民主主義や正義の向上、大陸全体の平和と安全といった重要な要素も含まれている。更には、「アフリカのルネサンス」と「汎アフリカ主義」の理想を通じた文化的アイデンティティの確立、ジェンダー平等、外国の権力からの政治的独立といった大目標が掲げられている。
これらを7本柱にまとめたのもを、「AUの7つの願望(aspirations)」と呼ぶ。具体的には以下のとおり。
(1)包摂的成長と持続可能な開発に基礎を置く繁栄するアフリカ。
(2)政治的に統一され、汎アフリカ主義の考えとアフリカのルネサンスのビジョンに基礎を置く統合された大陸。
(3)良い統治(グッドガバナンス)、民主主義、人権の尊重、正義及び法の支配のアフリカ。
(4)平和で安全なアフリカ。
(5)文化的アイデンティティ、共通の遺産、価値、倫理を有するアフリカ。

(6)人間中心の、及び、特に女性と若者そして子供を気遣うアフリカ人の潜在能力に依存した開発を進めるアフリカ。
(7)強力で、統一され、強靭で、影響力のあるグローバルな主体でありパートナーとしてのアフリカ。

●15の旗艦プロジェクト
こうした願望を実現するためには、具体的なプロジェクトに落とし込み、集中的に実施する必要がある。アジェンダ2063には、多数の実施計画が含まれるが、特に重要とされるものが15の「FlagshipProjects(旗艦プロジェクト)」として以下のとおり整理されている。なお、プロジェクトによっては、非常に総論的なものもあれば、ピンポイントにプロジェクトを指定するものもあり、整理の仕方にはバラツキがある。実施が既に始まったプロジェクトも一部にはある。個別のプロジェクトについては、別途説明する機会を持ちたい。
(1)統合された高速鉄道網。
(2)アフリカ一次産品戦略の策定。
(3)アフリカ大陸自由貿易圏(AfCFTA)の創設。
(4)アフリカ・パスポートと人の自由な移動。
(5)2020年までの紛争停止。
(6)大インガ・ダム計画の実施。
(7)アフリカの単一航空市場(STAAM)の創設。
(8)年間アフリカ経済フォーラムの創設。
(9)アフリカ金融機関の創設(アフリカ投資銀行、汎アフリカ証券取引所、アフリカ通貨基金、アフリカ中央銀行)。
(10)汎アフリカ・Eネットワーク。
(11)アフリカ宇宙空間戦略。
(12)アフリカ・バーチャル・E大学。
(13)サイバーセキュリティ。
(14)大アフリカ博物館。
(15)アフリカ百科事典。

●国連開発目標との関連性
ところで、開発に関心のある読者なら、国連が定めるポスト2015開発アジェンダや持続可能な開発目標(SDGs)との関連性はどうなっているのか、と疑問を持たれたことだろう。アジェンダ2063やSDGsの詳細を読めば、双方の関連性が

非常に高いものであることが理解できるだろう。開発、平和安全保障、民主主義等のグローバルな課題の多くに、アフリカが抱える課題が関わっていることに加え、SDGsやその前身のMDGs(ミレニアム開発目標)を定める際に、国連全加盟国数の4分の1以上を占めるアフリカの立場が強く反映されていることから、両者が両立することは言うまでもない。国連の関係者にこの問題について照会した際には、SDGsはアジェンダ2063の要素を含むより包括的な開発目標であると説明された。一方、AUの関係者は、国連も大事だが、アジェンダ2063の方が長期目標であり、SDGsを内包するものである、と胸を張って答えた。
2063とSDGs、どっちが偉いかという問題ではないが、AUの人の発言の中には汎アフリカ主義を彷彿とさせるプライドが感じられた。

(AU代森本)

(本エッセイは、AU代表部員個人の見解を記したものであり、必ずしも当代表部または日本政府の立場を反映したものではありません。)


(上:AUのアジェンダ2063)

(下:国連のSDGs)

 

 

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