モンレアル便り

第1号

知っているようで知らないカナダ

2023年1月に、カナダのモントリオールの地を踏みました。カナダは、随分前に、国際会議に出席するために首都のオタワに出張したことがあるだけで、モントリオールに来たのは初めてです。冬の気温は摂氏マイナス20度から時にはマイナス30度にまで下がり、町は雪ですっぽり覆われます。夏は、都市部も郊外も風光明媚な風景に一変し、開放的な気分が味わえます。国際的に有名なジャズ・フェスティバルを始め、様々な芸術祭が各地で開催され、F1レースも大人気です。

カナダという国名は殆どの日本人が知っているでしょう。しかし、カナダについてどんなことを知っていますか、と聞かれたら、答えるのは意外と難しいかもしれません。雄大な大自然、優しくおおらかな国民性、メープルシロップ、といった回答はすぐに得られるかもしれません。そこから先はどうでしょうか? 赤毛のアンの舞台となったプリンスエドワード島を挙げる人もいるかもしれません。日本人にとって、知っているようで知らないカナダ、そしてケベック。少しずつ、ご紹介できればと思います。

なお、日本では英語の「モントリオール」が使われていますので、本文ではそう表記しますが、本来、ケベック州の公用語であるフランス語では「モンレアル(Montréal)」と発音することから、このシリーズは「モンレアル便り」と呼ぶことにします。また、例えば「サン・ローラン(Saint-Laurent)河」も、日本の表記に合わせて「セントローレンス」と表記します。

セントローレンス河からモントリオールを一望

セントローレンス河からモントリオールを一望

真冬のモントリオール

真冬のモントリオール

世界第2位の広大な国土

地図で見ると、カナダは北米大陸の約半分を占める、広大な国土を有していることが分かります。カナダの国土面積は約1千万(998.5万)平方キロメートルで、世界でロシアに次ぐ第2位の広さです。日本とは比べるまでもないですが、約27倍です。

北米大陸の半分を占めるカナダ(黄色い部分)

北米大陸の半分を占めるカナダ(黄色い部分)

少子高齢化対策は日本をモデルに

一方、人口は約4200万人と、日本の約3分の1です。2021年の国勢調査の結果は3699万1981人。その前回の国勢調査が行われた2016年の3515万1728人から5.2%増加しています。2022年には3890万人を超え、世界で37位です。そして、2023年には約4000万人になりました。1960年のカナダの人口は約1790万人で世界第30位でした。そこから現在までなだらかな右肩上がりでカナダの人口は増加してきました。モントリオールがあるケベック州の人口も増加傾向にあります。最近の調べでは、州内では1日あたり800人の人口増で、州人口は900万人を超えたとか。

人口が増加する一方で、出生率は1.57%で、世界第192位とかなり低いです。ちなみに日本は1.39%で第215位(2023年、CIA統計)。長寿番付ではどうでしょうか。世界保健機関(WHO)が2023年に発表した報告によれば、カナダは男性が81歳で世界第14位、女性は85歳で第16位と長寿大国であることが分かります。日本は男性が82歳で第4位、女性が88歳で第2位です(男女いずれも第1位は香港)。少子高齢化はカナダにとっても重要な課題です。ケベック州の高齢化担当大臣は、高齢化社会への対策について、この分野での先進国である日本に学びたい、と述べていました。

多様性と移民の受入れ

カナダはしばしば、移民国家、と言われます。多様性を重視するこの国には、世界中から人々が集まってきます。少子高齢化という課題を抱えつつも、日本とは異なり、人口は増加傾向にあります。その背景には移民政策があると言われています。カナダ全体で、毎年数十万人単位で移民が受け入れられています。元々、カナダはヨーロッパからの移民によって作られた国家です。勿論、そこには以前から様々なグループの先住民たちがいたのですが。

セントローレンス湾に突き出たケベック州の半島(ガスペ半島)の東端にガスペという町があります。ガスペとは、先住民ミクマクの言葉で「地の果て」を意味するそうです。ガスペには大きな十字架が立っています。ジャック・カルティエの十字架と呼ばれるそれは、16世紀にフランス王から派遣されたフランス人の探検家がこの地に辿り着き、ここを「ヌーベル・フランス」つまり新しいフランスと名付け、フランスの領有地と定めた記念に設置されたものです。その後、フランスのみならず、ヨーロッパ諸国から多くの移民がケベック州に移住し、やがてカナダが形成されていきます。

ケベック州。○がガスペ

ケベック州。がガスペ

1960年代に、1人の男がイスラエルから移民としてモントリオールに到着しました。その時、彼のポケットにあったのは僅か5ドル。しかし、彼の頭の中は夢と野心で溢れていました。到着後すぐに彼はめでたく結婚しました。婚礼の午餐会の会場は、ホテル・シャトー・シャンプラン(Montréal Marriott Château Champlain)。17世紀に現在のケベック市を築き、ヌーベル・フランスの植民地化を進めたフランス人サミュエル・ド・シャンプランにちなんで名付けられたこのホテルは、当時のモントリオールのシンボル的な存在でした。午餐の最中に、彼は、妻のモニカに、「いずれ自分はこのホテルを買い取るつもりだ」とささやきました。

その約束から50年後の2018年。当時若者だった新郎が興した会社が大企業に成長し、シャトー・シャンプランを買い取りました。その彼とは、不動産グループTIDAN社の創設者兼共同経営者のマイク・ユヴァル(Mike Yuval)氏です。

カナダは1867年の建国(英連邦の自治領となった)から今日まで、約1500万人の移民を受入れています。公用語は英語とフランス語ですが、それ以外に200もの異なる言語を話す国民がいると言われています。なお、カナダは10の州と3つの準州から成る連邦国家ですが、10州のうち、ケベック州と隣接するニューブランズウィック州を除く8州全ての公用語は英語のみです。ニューブランズウィック州の公用語は英語とフランス語の2か国語で、ケベック州の公用語はフランス語のみです。カナダ人は英仏が公用語だから2か国語ともペラペラ、と思われがちですが、8州に住むカナダ人の多くは英語のみで生活しています。逆に、ケベック州の人たちの共通言語はフランス語のみです。実際、それぞれの州の公用語が州民にとっては国語なので、連邦の8割のカナダ人の公用語は英語になります。逆に、フランス語が唯一の公用語であるケベック人にとって、英語は外国語のようなものです。それだけに、フランス語を話すことは、ケベック人のアイデンティティを維持するために非常に重要なことです。勿論、英仏ともに流暢に話すカナダ人は沢山います。

ケベック州(赤)の公用語はフランス語のみ

ケベック州(赤)の公用語はフランス語のみ

(了)

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