英国ダラム便り(その27)

皆さま

ダラム便り(その27)をお届けします。

当地で3回目の夏ですが、まだ最高で20度を超える日はめったにありません。6月から7月にかけて、英国民はスポーツで盛り上がっています。紳士然としたイメージとは離れ、本当に大騒ぎで興奮するんですね。昨日、今日はダラムの近くのヨークシャーでTOUR DE FRANCEが開催されていて、TVで見ていると行程の山道まで両サイドにびっしりと見物人の群れ。

自転車レースが好きかどうかは関係ないですね。お祭り騒ぎがとにかく好きです。大学の卒業式シーズンは毎晩のようにドンチャカ音楽と花火。「君らはスペイン人かよ」と言いたくなるほど、バカ騒ぎが好き。フランス人だと格好つけて「お祭り騒ぎはきらいだよ」などと言うところ。

ヘンリーレガッタやアスコット競馬は行きたかったのですが、かないませんでした。当地滞在も残すところ2カ月となり、そろそろカウントダウン開始です。

増渕 文規

英国ダラム便り(その27)

[ある日のBBCニュース]

6月末の朝、いつものように朝食をとって出かける準備をしながらBBCの朝のモーニングショーをチラチラと見ていました。BBCは日本のNHKのようなものです。特集的に長くやっていたのがアフガニスタンからの英軍の撤退です。今年中の完全撤退が決定されていますが、BastionキャンプにBBCの人気キャスターが出向き、現地からの放送でした。英国は米国に次ぎ、ピークには1万人近い部隊を駐留させてアフガニスタンでの平和維持に当たってきました。英国らしいと思ったのは、撤退費用にいくらかかるかということに報道のかなりの部分が費やされていたことです。「官が使うカネのチェック」に本当にうるさい民族です。使用されたトラックやコンピューターなどの設備がどれだけ再利用可能かの試算も英国人の面目躍如でしょう。次に多かったのはアフガン軍に対する訓練の場面です。米国も去り、アフガニスタンは自分で平和を維持しなければならないわけで、(頼りない)アフガン正規軍をなんとかしなければならないのですが、大丈夫かいなというトーンでした。教室で軍事教練中の軍服女子たち(高校生?)が「国と自分たちを守るために」とけなげに話している表情を見ていると、難しいでしょうが、1日も早い平和が望まれます。報道の最後に、施設・備品のほとんどはきれいに清掃されて英国に戻るが、453人の命は戻らないと締めくくっていました。13年間で失われた英国人若者の命です。世界の平和を守る安全保障にプレイヤーとして参加するということは、少なからぬ痛みを伴うことだということは理解はしていますが、(良いか悪いか)プレイヤーでは無い日本人にはピンとこないのではないでしょうか。

この朝も含め、最近のニュースでアラブ系英国人が中東のイスラム原理主義過激派(テロリスト)からのメッセージフィルムの中で発信している様子が何度も映されます。「優しい子でテロなんかする子じゃない」という親の嘆きの様子や、英国の地元イスラム・モスクの指導者の話などが伝えられます。今朝はモスクでのインタビュー中に(やらせでは無いと思いますが)突然中年アラブ人が飛び込み、「最近の英国モスクは過激派若者に支配されていて危険だよ」と喚いていました。
イングランドは日本と同様に、サッカーワールドカップ一次リーグ敗退ですが、毎朝のニュースでのサッカー(英国ではフットボールでサッカーとは言わない)関連ニュースの多いこと。この日のスポーツニュースではワールドカップは勿論、テニス全英オープンのウィンブルドン現地からの報道、7月5日にヨークシャーにやってくる自転車のトゥール・ド・フランス関連と盛りだくさんでした。フランス人と比べて、英国人は本当にスポーツ好きだと感じます。毎週日曜の朝はモーニングニュースに代えて2時間以上もサッカーダイジェストです。天気予報を見られず、大変に不便します。
それからこちらのTVモーニングショーでは15分おきに天気予報です。とにかく英国人の話の始まりは天気です。天気が悪いことが多いせいでしょうか。天気の話だけで3分くらいは間を持たせるのが、英国流社交会話の秘訣でもあります。この日も含め全英オープン中は天気予報士が毎日ウィンブルドンから中継します。
英国では民間系TVの発展は最近の話で(フランスも同様)、そのせいかどれを見ても面白くないです。日本のような低俗なバラエティーショーがないのは救いですが。日本以上にTV通販が多く、中味もほとんど同じです。宝石と部屋や庭の整備関連グッズが多いです。放映技術やソフトは、素人目でみると日本の方が数段工夫しているように見えます。こちらは災害ニュースなどでもカメラが現地に入るのが遅いです。また現地放送中にしょっちゅう画面が乱れます。北東イングランドのローカル放送では、天気予報コーナーが無人の時が良くあります。朝寝坊をしたか、「道路が混んでいて遅れた」と言うような類でしょう。
すぐに代役を出すような気の使い方はしませんから、メインキャスターが原稿を読み上げておしまい。それから日本と全然違うのが、キャスターたちのリラックス度。ソファにそっくりかえるほどリラックスしての報道です。女性キャスターは必ず足を組んでいる。フランスでは足の方は余り映さないし、女性メインキャスターが足を組んでいるのを見た記憶はありません。ドイツでは立っていることが多かったですね。お国柄でしょうか。

[Ravennaの栄華]

イタリーのアドリア海に面するRavennaは、紀元395年にローマ帝国が東西に分離後西ローマ帝国の首都となっていたこともある古都です。その後東ローマ帝国の総督府も置かれ、ビザンチン文化の影響を強く受けました。世界でも最も古く、華麗なビザンチン様式のモザイク画が残されています。古いものは6世紀のものが残っています。港湾都市として水上交通の要衝でもありましたが、河川の運ぶ土砂堆積により、海と結ぶ交易が不可能になりさびれていったそうです、最初に訪れたのは20年前。灰色で活気のない眠ったような街でした。薄汚れた小さな教会に入り、祭壇の上を見上げると燦然と輝くビザンチン世界です。建物がさえない分(古いことは非常に古く、5/6世紀の初期キリスト教建築物として世界遺産)、色彩豊かなモザイクとのコントラストが強烈・新鮮で圧倒されます。サン・ヴィターレ聖堂祭壇の左右の壁には、ビザンチンのユスティニアヌス1世(6世紀)と妃のテオドラが向き合っているモザイク画があります。テオドラはサーカスの熊使い(あるいはその娘)だったところ、ユスティニアヌスに見染められてお妃に。国内クーデターで危機一髪の時に、テオドラが一命を賭して帝を助けたそうです。そう思ってテオドラの顔を眺めてみると、帝と向き合って、とても良い顔をしています。

2014年7月6日
増渕 文規

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