英国ダラム便り(その24)

  • Durham 2014/4/6

皆さま

ダラム便り(その24)をお届けします。

パリは変わりそうだではなく、もうずいぶんと変わったと思います。私に言わせると劣化ですね。若いころへのノスタルジーで、昔が美しく思えると言う点を差し引いても完全な劣化です。ルーブル他の観光名所は中国人だらけで、この団体と一緒になったらえらいことになります。

肝心のフレンチも観光客に合わせているせいか、よほどのところに行かないとどこも個性が乏しいですね。¥に換算するとものすごく高いし。費用対効果トータルでは、東京のフレンチの方が上でしょう。

日本メシやアジア・途上国メシは、昔は本国フレンチに遠慮して目立たないたたずまいでしたが、今や目抜きで堂々と客寄せ看板。その日本メシ屋も安いすしが中心で焼き鳥やとんかつもありよという大衆すし屋ばかりで、どこも同じようです。個性がない。(社用高級日本メシ屋は別でしょうが、その数は激減しているようです)

それからこれは良くなったと言わねばなりませんが、一部の人には寂しいのは卑猥な街並みがぐんと減ってしまったこと。サンドニの立ちんぼお姐さんなんていなくなってしまいました。怪しい店もなく、ただの出稼ぎ貧乏通りです。残っているのは今やピガール周辺くらいでしょうか。

空港からパリへの電車の乗客の半分は黒人。飛行場利用客を除けば、大半が黒人と言うことです。パリ周辺ドーナツ圏のこの辺は住民の半数以上が黒人なのでしょう。生粋のフランス人は このあたりには住みたくないだろうし、区内には高くて住めないしと言うことです。

それから暮れのシャンゼリゼのイリュミネーション、青いLEDに代えちゃってそれは風情がない。パリはさらに劣化するかと思うと、寂しいです。

増渕

英国ダラム便り(その24)

[パリ/ロンドンは不動産バブル]

パリの家賃にはずっと興味を持っていました。90年代以降毎年凄い勢いで上昇していて、どうなっているのかと不思議に思っていました。3月3日付のLe Mondeによると、パリの不動産価格(マンション)は1996年からの17年間で約4倍になったとのことです。ロンドンについても、不動産投資情報によると1980年以降10年ごとに2倍に上昇しているそうです。要はパリもロンドンも似たような価格上昇カーブです。ロンドンの住宅価格はこの1年で18%も上昇しており、完全にバブルです。両国とも田舎は別で、首都圏との価格差がドンドン拡大しています。パリ13区(南)は高級住宅地ではありませんが、1平米当たりの相場が8,000ユーロですから112万円。70平米のマンションで7,840万円。かなりお高いです。ロンドンの相場はパリ以上です。バブルは必ず弾けるというのが我々の得た教訓ですが、英仏共にそれほどの警戒感はありません。このLe Mondeの記事もバブルへの警鐘ではなく、マンション投資は得かどうかという観点です。10年で2倍ということは、年率7%以上の上昇ですから、投資熱がヒートするのは当然です。長期にわたって給与や物価が年率7%以上の上昇を続けることは常識的にあり得ないので、首都圏不動産投資は絶対的に割が良いわけです。日本と違って中古も新築と同様に価格上昇します。フランス人の知人がパリで17年ほど前に買ったマンションが今は3倍程度で売れると言っていました。日本では考えられないことですね。17年落ちの中古マンションなら購入価格の7割くらいでもおんの字でしょう。パリジャンやロンドン紳士の持てる層は笑いが止まらないかもしれませんが、持たざる層や若い人たちにはパリやロンドンに住むことはだんだん非現実的になってきています。家賃も売買価格とリンクして上昇するでしょうから大変です。上述のフランス人知人の二人の息子さんたちは共に医師で給料も良いはずですが、それでもパリのマンションは手が出ず、長期の地方住まいを決めているようです。
不動産バブルがはじけない理由の一つは、海外からの投資が多いせいだと考えられます。特にロンドンの不動産は昔から世界の金持ちの投資対象でした。アラブ資金を先頭に最近では中国の成金と共産党指導部関係者の積極投資が話題になっています。ロンドン・パリの不動産は投資のSafe Haven(安全投資対象)なのだそうです。まず価格下落しない(と誰もが信じている)し、相当のキャピタルゲインを狙える。高値で貸せるし、万が一、借り手がつかない場合は自分の知人・親戚を住まわせればよいということらしいです。社会党のオランド政権下で最高累進税率や贅沢税率がアップされた時、ロンドンの不動産価格が急上昇しました。パリからの移動です。特殊な市場ですね。不動産が産業金融の手段として使われているわけではない点も、日本と違ってバブルがはじけない理由でしょう。居住がベースで、実需が相場を押し上げています。それに田舎はバブルとはいえない。

それでもバブルが続くのがどうにも理解できません。給与や物価がせいぜい年率3/4%アップの時に、不動産だけ7%です。若者にとってロンドン、パリのような都市に住むには、不動産が高すぎる。田舎には職がない。仕方がないから親元でパラサイトというのが、急増中だそうです。20歳過ぎたら子供の面倒は見ないというのは「今は昔」の話になりつつあります。若者に不利な世代格差は英仏でも深刻で、ロンドン、パリでの若者暴動の根っこの不満の一つです。高い失業率、持ち家率の低下、居住空間の縮小、通勤距離の拡大、(住宅)ローン比率の上昇等です。日本で言えば団塊の世代くらいまでは、高福祉を享受していましたが、毎年そのベネフィットも薄くなっています。投資マネーに引きずられて不動産バブルが続くことは、バブル崩壊リスクだけでなく、若者のためにならない事を両国の為政者はなぜ問題視しないのだろうかと、偉そうに考えてしまいます。ドイツと違って、パリもロンドンも中央集権色の強い国の首都です。あらゆる機能が何でもかんでも首都に集中、外資も集中するから国の他の地域とは全然違う発展をしてしまうのでしょう。英国の田舎に住んでみて、ロンドンは普通の英国とは別の国だとまで感じます。パリも「もうひとつのフランス」でしょう。両都市とも不動産の高騰が止まらず、普通の国民にとって、そこで働き、居住することがドンドン難しくなってきています。この両巨大都市はますます国の中で浮いた特殊宇宙のような存在になっていくような気がします。若者は仕方なく地方へ行き、地方が活性化するという皮肉な好結果が生まれるのかもしれません。首都の不動産バブルが地方分権を余儀なくするという怪しい「増渕」説であります。いずれにせよ普通のフランス人にとってパリ中心部のアパートは高値の花でだれも住めないとなったら、パリの香りが変わってしまいます。それはフランスびいきにとってとても残念なことです。不動産バブルよ止まれ。

[英国は食料輸出国]

英国の輸出品は工業製品ではなく食料品。TVでそういうニュースが流れていました。実際には数字的に小さいのですが、伸びが大きい。サケ、ジュース、チョコレートなどです。
英国の食料自給率は75%もあるんですね(日本は40%)。昔から第一次産業比率の最も低い工業国で1970年当時の自給率は46%。2000年には75%になっていますから、30年で自給率を30%も上げたわけです。小麦の増産が効いているようです。英国だけでなく、1970⇒2000年ベースで、ドイツが68⇒91%、フランスが104⇒130%と軒並み上昇。どう考えても悪名高きEUの農業補助金のなせる技としか思えません。植民地から安く輸入できなくなって、農業に力を入れたのでしょう。一方日本だけ60⇒40%に落ちています。何故でしょうか。ちなみに最近の英国農業は(特に旧東欧系の)外国人労働に支えられています。

2014年4月6日
増渕 文規

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