英国ダラム便り(その22)

  • Durham 2014/2/6

皆さま

ダラム便り(その22)をお届けします。

こちらは暖冬ですが、相変わらず風雨が強くイヤな天気です。昔の英国は天然災害が余りなかったと思いますが、私が当国へ来て以来洪水、家屋浸水や線路土台のくずれといった日本のような災害ニュースが相次ぎます。地球規模の気候変動の影響でしょう。

今週末後期の学生を帰国させて一息つきます。

パリのTernesにあるBrasserie  Lorraineを御存じの方も多いと思います。私の会社は近くでしたので、良く行きました。魚レストランで気楽に入れる店でしたが、すっかり観光客向けのちょっと高めのレストランに変身。久しぶりの生ガキは美味でしたが、パリのレストランも中味が変わってきたのでしょうか。少なくとも日本食に関しては、すっかりカジュアル化し、日本人ターゲットではなくなりました。

3つ星は中国人であふれ始めているのでしょうか?知りませんが、それは無いと思います。観光と買い物には血眼になっても、おいしいフレンチに高いカネを出すような楽しみ方はしないでしょうね。

増渕 文規

英国ダラム便り(その22)

[第3の移民]

安くて汚くてつらい仕事を外国人にさせたがるのは英国もフランスも同じです。両国とも旧植民地系の出稼ぎ労働者が大量に流入し、戦後経済を担ってきました。ドイツの場合はどういうわけかこの役はトルコ人ですね。英国への第一段階移民はアイルランドや南欧からで、第2段階が旧植民地系、そして最近の第3の波が旧東欧諸国です。2004年にポーランドやチェコその他の旧東欧諸国がEUに加盟して、第3の波が始まりました。EUの売り物は「物」「カネ」「人」の移動の自由で、人の移動自由は労働理由の移動を含みます。旧東欧については加盟後7年間は流入制限措置を取れますが、英国は比較的寛容でした。気がついてみたらポーランド人が急増して50万人になり、いまや在英外国人のトップ争いの雄です。2007年に加盟したルーマニアとブルガリアの労働移民自由化が今年から始まります。そのせいか英国では昨年末から旧東欧移民のニュースが盛んに取り上げられています。現キャメロン政権は外国人労働者の流入削減を大公約にしていて、EU外からの流入は着実に減っていますが、EU内からは阻止の方法がないわけです。英国はルーマニア・ブルガリアからの就労自由化を期に、何らかの制限的特別措置を設けるようにEUに働きかけていますが、「また英国は勝手な動きをしている」との扱いです。旧東欧諸国労働者の最大受け入れ先ドイツも本音は流入制限を設けたいところ。労働移動の自由はEUの目玉だけにこれを根幹から変えるわけにはいかず、欧州大国にとって悩ましい問題でしょう。第2の移民増大の時に問題視されたのは、治安の悪化や宗教や生活風習の違いに起因する社会摩擦でした。第3の移民では問題の所在が少々異なるようです。ポーランドは私もなじみの国ですが、彼らは平均的英国人労働者より勤勉で優秀かもしれない。一般にモラルも高く犯罪者になるとも思えない。社会不安の種にはなりそうにない。アフリカからの出稼ぎ労働者とは質的に異なります。最近キャメロン首相が「よく働くポーランド人労働者は大歓迎だが、ポーランド在住の彼らの子弟が英国の児童手当を受け取っているというのはいかがなものか」と発言して、ポーランドで大批判を浴びています。「英国人が払う」税金で出稼ぎが福祉国家の便益を「不当に」享受し、安い公営住宅を占拠するという類の被害者意識が英国人のなかにあるようです。福祉国家の社会保障の悪取りであると超保守や右翼が煽るし、キャメロンさんの発言も少し配慮に欠けていました。

この批判はどうでしょうか。ポーランド人もきちんと税金を払い、英国人が嫌がる仕事を安い賃金で引き受けているわけで、「不当に」享受していることは無いわけです。ポーランド人だけなら良かったのでしょうが、ここにルーマニアが出てきて、英国人の嫌悪感が強まったのではないでしょうか。英国人から見て、ポーランドとルーマニアでは質的に大きな差があるし、ルーマニアには「ジプシーの供出国」という悪いイメージもあり、ルーマニア人の急増は「何となく」嫌なのでしょう。実のところ英国経済はルーマニア人労働者に大変お世話になっています。農作物収集のための季節労働と食品加工労働者の1/3は就労完全自由化前からルーマニア人とブルガリア人によって支えられています。英国政府はこの分野については、特別に自由化して両国の労働者を呼んでいたわけです。どうせ安い賃金でしょう。「怠けものの英国人若者(大半の英国人経営者がそう思っている)」が就労したがらない分野で、特に農業は彼らがいなくなったら大変なことになります。福祉のメリットを享受している以上に、彼らは英国経済に貢献していると思います。英国は、安くて汚くてつらい業界では間違いなく労働者不足なのです。

キャメロンさんまでが旧東欧労働者について英国人労働者とは(社会保障上)違う取り扱いを言いだしているのは、大いに政治的なポーズでしょう。国民の不満のはけ口としての矛先が外国人に向けられているのでしょう。第3の移民に対する人種的な蔑視はあまり感じられません。第2の移民と違って白人・クリスチャンですし、蔑視しようにも、下手をすると彼らの方が優秀ですしね。第3の移民に対する反発のもう一つの理由はロンドンを中心とする大都市でのコロニー形成でしょう。ポーランド人街ができようが社会的に不安要素にはならないはずですが、愉快ではないのでしょう。移民労働者はダラムのような田舎には来ません。圧倒的にロンドン集中です。ロンドンの学校は大変かもしれません。必ずしも英語を話しませんから。また安い公営住宅に移民が増えると目立つのでしょう。国内では適当な職が乏しく、ポーランド人若者の半分くらいは国外移住を考えているそうです。もっとポーランド人労働者を入れた方が、英国の労働の質がぐんと上がって、英国経済の弱みの「生産性の低さ」が改善されると思うのですが。どうでしょうか。

[ワインの選び方]

英国のちょっと気取ったディナーで出てくるのはワインです。ビールは食前、ウィスキーは寝る前です。ある意味で、英国人の消費と資本がボルドーワインを支えてきたと言えるでしょう。英国人にとりワインと言えばボルドーで、ブルゴーニュは余りお呼びでない。英語では「バーガンディ―」などと響きの悪い呼び方になります。ボルドー周辺のアキテーヌ地方は、長いことフランス出身の英国プランタジネット王朝の大所領地でしたから、その愛着は当然のことでしょう。英国人のワイン消費量は日本人平均の何十倍にもなると思いますが、よほどのワイン通以外、銘柄・Vintageへのこだわりはありません。選択の基準はソービニョンとかメルローとかいうブドウの種類です。田舎ダラムの最高級レストランでは1万円以上のワインなどお目にかかれません。メルローでいいかなどと聞かれると答えに窮します。とても質素なワインドリンカーです。

2014年2月6日
増渕 文規

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