英国ダラム便り(その2)

  • Durham 2012/6/5
  • 増渕 文規

皆様

ダラム便り(その2)です。

チャールズ皇太子はなかなかの出来者ですよ。どこかの国と比べるわけではありませんがーーー。

当地は田舎で、ワインとチーズはいずれもダメ。普通の英国人はこういうものに金を使わない(というか食べることにあまり金を使わない)。

大学の学食にはさすがに飽きてきました。ほとんど毎週同じパターンが繰り返されます。英国人に言わせると「昔はもっとひどかった。最近はインド、イタリー、中華が(学食にも)でてくる」と言っています。もっともインドといってもカレー粉が入っているらしい料理という代物です。日本に帰ったら「これでもか。イギリス料理まずさの真髄」という本を出したいと思っています。

英国ダラム便り(その2)
2012年6月5日

[Diamond Jubileeとチャールズ皇太子]

Diamond Jubilee (エリザベス女王即位60周年)の模様は日本でも詳しく報道されたと思います。6月2日から4日間国を挙げての祝賀モードで、女王がどれだけ英国民に愛されているかを実感しました。26歳の若さで父国王ジョージ6世の跡を継がれて60年、1952年といえば戦禍から十分癒えているとはいえない時代で、それ以来英国の現代史を国民とともに歩んで来られたお姿に、英国民は熱い想いを抱いているのでしょう。祝賀行事3日目に御夫君のフィリップ殿下が入院されるというアクシデントがありましたが、86歳の女王は本当にお元気そうです。6月3日のテームズ川でのPageant(1,000隻の船を連ねた隊列)と6月4日のバッキンガム宮殿前コンサートが祝賀の2大イベントで、帝京大学のかなりの学生も行事を見に行ってきました。私はTV生放送に長時間釘づけになっていました。特に3時間を超えるバッキンガム・コンサートは圧巻でした。クリフ・リチャード、トム・ジョーンズ、スティービー・ワンダー、エルトン・ジョンといった懐かしい超大物が、大体70歳前後という年齢を感じさせない歌声を披露していたのが、うれしかったですね。私もそのちょっと下の世代ですから。トリは当然ポール・マッカートニー。
残念ながら声はかなり衰えていましたが、英国民にとってのビートルズは他の歌手とは全然違う存在のようです。女王様もビートルズも自分たちのアイデンティティーの一部なんじゃないでしょうか。そんな風に感じたJubileeであり、バッキンガム・コンサートでした。

さて、Jubileeのちょっと前からチャールズ皇太子がメディアに頻繁に登場されました。まずは5月の半ばだったでしょうか、スコットランドのBBCで天気予報キャスターに挑戦。私はTVニュースで見ていて、最初はそっくりさんだと思いました。しゃべり方や見ぶりがうまかったので、とても皇太子とは思えなかったからです。そのあとカナダの放送局でディスクジョッキーにチャレンジされています。6月4日にはBBCの1時間番組で、これまで未公開のアルバムや映像を交えて「母エリザベス女王」を語っておられます。バッキンガム・コンサートの最後では大変印象に残る挨拶をされました。バリトンのよく通る声で間の取り方も絶妙で、さすが英国のCrown Princeと感心し、すっかりファンになってしまいました。公式の席での女王に対する呼びかけは当然「Her Majesty」ですが、チャールズ皇太子は「Her Majesty」のあとで、実の母親に対し柔らかく「Mamie !」と呼びかけました。聴衆は大喜びですし、女王も嬉しそうに笑っておられました。側近の演出でしょうが、皇太子の態度が自然で、親子の情が良く出ていました。この人はただ物ではないと思った次第です。エリザベス女王は「女王の威厳」を保つ必要からかあまり笑顔をお見せになりませんが、チャールズ皇太子と話をされている時はとてもリラックスされているようです。

チャールズ皇太子は「Prince of Wales」です。英国はイングランド、スコットランド、ウェールズそして北アイルランドからなるUnited Kingdomです。今でもスコットランドとウェールズには「Government」があって、スコットランドでは近々独立の可否を問う国民投票があるそうです。ワールドカップで英国は、イングランド、スコットランド、ウェールズの3代表があり、英国代表というものはありません。イングランドがスコットランドとウェールズの統合を進めてきたのが英国の歴史です。1301年以降ウェールズ統合を明確に示すために英王室のCrown Princeが「Prince of Wales」と称するようになったわけです。チャールズ皇太子がお天気おじさんを「スコットランド」のBBCで演じたのも偶然では無かったと思います。皇太子の重要な役割の一つは国家統合の象徴的役割を果たすことですから。5月の国会での女王スピーチで「自分はUnited Kingdomの祝賀行事に参加します」、「皇太子と他の王家のメンバーはコモンウェルスでの行事に参加します」と発言されました。チャールズ皇太子がカナダでディスクジョッキーに挑戦されたのは、このコモンウェルスでの行事参加の折だったのだと思います。カナダやオーストラリアは世界の一流国ですが、今でもコモンウェルスの一員として英国女王をHeadとしています。コモンウェルス間の親睦も皇太子の重要な勤めでしょうから、チャールズ皇太子はとても忙しい。

「お天気おじさん」直後に英国人のご婦人に印象をたずねたところ「チャールズ皇太子は不人気だから人気回復策じゃないのかしら」と返ってきました。

あのダイアナ妃と離婚したことが不人気の最大の理由です。最近のご様子をTVで見る限り、気さくでウィットに富み、何といっても話がお上手で、ダイアナ妃の一件が無かったら素晴らしいCrown Princeだと思うのですが。
これからの英王室はどうでしょうか。戦後の激動の時代に60年も国民とともに歩んできたエイザベス女王のように深く国民に敬愛される方は、今後なかなか出てこないでしょう。時代も変わりました。王室は必要かとのTVの質問に対し、町のおばさまが答えに詰まりながら「 I think it’s better than having president」と言っていたのが印象的でした。

pdfのダウンロードはこちらから