【レポート】剣持マスターソムリエセレクションによるワインとフレンチのマリアージュ

3月27日、東京日本橋のフレンチ・レストラン「にほんばし 檀」にて、「第2回 ワインと料理のマリアージュ」が開催されました。選りすぐりのフレンチ・ワインと料理を愉しみながら、日本ソムリエ協会最高技術顧問・剣持春夫マスター・ソムリエによるワインにまつわるお話を聞くという、ちょっと贅沢なひとときに、誰もが浸りました。今回は特別に、剣持ソムリエのトークと、当日食卓に出たワインの解説を全文掲載。熟練の話術をお楽しみ下さい。

ソムリエ・コンクールに日本勢が弱い理由

私は1969年からソムリエをやっておりますが、私が始めた最初の頃はソムリエという言葉はなかったんですね。ワイン・スチュワードと言ったんですが、これは英国系の呼び名で、飛行機の男性乗務員スチュワードと同じですよね。日本ソムリエ協会が発足した当時は会員はわずか100人にも満たなかったのですが、今や1万5千名もいます。会員が1万人以上もいるソムリエの会は、世界でも他にないですよ。日本はそういう大変希な国なんですね。4年に1度世界のソムリエ・コンクールが開かれていまして、日本もこれに参加していますが、今年は残念ながら14位と17位でした。やっぱり言葉がネックになるんです。この大会は、よく私も見学に行きますけど、とにかく日本人が一言言う前に、あちらの方は5つぐらいの単語を並べるんですよ。それと、日本人の性格は控え目でしょ?そういうことが色々邪魔してるんですね。日本人って筆記試験は得意なんですよ。ところが、舞台に上って言葉で表現しなきゃならないとなると、これがダメなんですね。将来的には、やはりワインの好きな方をちっちゃいときからセレクトしてフランスに残って貰って……というぐらいのことをしないとダメですよ。総合的に評価されるので、言葉の力がかなりものを言うわけです。今回の優勝者は、今までコンクールに一度も出たことのない方でとても若く、テイスティングでも、ワインの原産地が分かると点数が上がるんですが、彼は5つぐらいの原産地のうち、1つしか当たっていなかったんです。

フランスの土壌が、欧州一ワイン造りに適している理由

地図をみますとフランスは6角形の形をしていまして、ワインが造られるために出来たような土壌なんですよ。土壌は石灰岩で出来ておりまして、大陸が海の底に潜って、もう1回揚がってきているんですよね。海の牡蠣とか海星とかそういったものが、土壌と一緒に揚がってきている。それをブドウの根っこが吸い取るわけです。そして、水質も日本の水と違って硬水なわけです。色んな意味でワインに非常に向いているわけですよね。たとえばシャブリという土地が、フランスの地図の真ん中にあります。地理的にはブルゴーニュの北に当たるわけですが、このシャブリ地区では、土を掘ると貝殻が一杯出てきます。この地層のことをキンメリジャンといいまして、1億5千万年前の化石が反映して土の中に出て来るわけです。それを根っこが吸い取るので、ミネラル分が多いワインが出来るんですよ。さらにフランスは、ヨーロッパでは石灰質が一番多いんです。ですからワインを造るには最高の場所なんです。フランスの一番北のワイン産地はシャンパーニュですね。南はコルシカ島です。各地の気候、土壌成分によってワインの産地がアペラシオンとして成り立っているわけです。それでは、本日のワインを御紹介いたしましょう。

ワイン・リスト

Crémant d’Bourgogne en Pays Chatillonnaise
(クレマン・ド・ブルゴーニュ・アン・ペイ・シャティヨネ)

一番最初のワインは、シャティヨネという土地で造ったものです。ブルゴーニュの一番北の産地ですね。これはシャンパンの産地であるシャンパーニュの一番南です。一歩足をまたぐともうシャンパンが出来る土地なんですよ。人間が勝手に線を引いてブルゴーニュにしちゃったというところなんです。ですから、味はほとんどシャンパンに近いんですね。ブラインド・テイスティングをしたら、シャンパンと間違えるくらいです。シャンパンというと熟成はだいたい通常15ヶ月なんですが、こちらは最低20ヶ月瓶内二次発酵で熟成させて造るんです。熟成が長ければ長いほど、澱が死んで、アミノ酸に変わるわけですよ。アミノ酸がいっぱい含まれていると熟成の味わいがしっかりと出ます。クレマンというのはクリームのようなという意味ですけど、これは気圧の違いなんです。シャンパンは最低6気圧。こちらは2.5から3気圧なんです。ですから、泡立ちがシャンパンよりもちょっとまろやかなんですよね。シャンパンのほうがちょっと強いんです。泡立ちが苦手という方には丁度いいんです。こちらは100%自社畑で他のものが入っていない。ですから非常に評価も高いんです。ところで、クレマンはコスパが凄く良くて、シャンパンの半分ぐらいの値段なんです。フランスの人たちは、シャンパンがなかなか高くて飲めないものですから、こうしたクレマンでシャンパンの味を楽しんでいるんです。クレマンの中で、フランス人が一番楽しんでいるのはアルザスのものです。ドンペリニョンとかサロンといった高級シャンパンは、日本人は特に好きですね。年間1人あたりの消費量が3リットル弱もある。ちなみに、ワイン輸入量のうちのベスト5に入っているのは、シャンパーニュ、ボルドー、ブルゴーニュです。

Vin d’Alsace Cristian Binner Ammerswilhr Riesling Magnum
(ヴァンダルザス・クリスチャン・ビネール・アムルシュビール・リースリング・マグナム)

こちらは白ワインですね。アルザスのワインは、品種の書かれたワインが80%あります。アルザスは非常に気候が良くて、年間を通して雨が降りません。雨の降らない土地は、ブドウの生育に非常に適しているんです。しかもアルザスは斜面が多いですよね。ジュラ山脈は皆さんも御存知かと思いますが、北部で高地なので、とても寒いのですが、斜面のため日照度をブドウがしっかり捉えて化熟するわけです。糖分が上がって、いいワインが出来やすいんですよ。アルザス地方はよくドイツと比較されますが、歴史的にみてもドイツの領土になったりフランスの領土になったりと戦火の絶えない場所ですよね。ところで、ドイツとフランスのワインの違いは何か御存知でしょうか。フランスの場合は、辛口にするというのがスタイルです。ところが、ドイツは辛口をあまり評価しません。ドイツのワインは、リンゴ酸がしっかり乗っていて酸味が非常に強いんです。こうしたワインは、フランス人の口には合いません。ドイツの場合は、ブドウの糖分によって格付けをするというスタイルを採っているんです。通常ワインを造るときは、ブドウを9月下旬頃収穫するのですが、ドイツではそれを少し遅摘みにして、甘みを出す。さらにこれをアウスレーゼといいまして、いい房だけを選りすぐる。貴腐の少し出たものですとべーレン・アウスレーゼとかがありますね。貴腐100%ですとトロッケン・べーレン・アウスレーゼとかね。そういった造り方そのものが、ドイツでは格付けになっているんです。土地の格付けは、昔からないのですが、最近はフランスの影響を受けまして、土地を格付けしようという動きが始まっています。
去年私はアルザスに行ったのですが、フランスも現在はEUのひとつですから、地図がEU全体のマップになっていて、ワイン産地を国によって意識させないようにしている印象を受けました。そんなわけで、かなり昔とは考え方が変わってきていることを感じます。

ところで、本日は特別に2012年のマグナムが入りましたので、そちらの説明に移りたいと思います。輸入業者からの依頼がない限り、通常あまりワイン・セラーもマグナムは造らないんです。このクリスチャン・ビネールは有機栽培(ビオ)なんですね。ワインの栽培家も、究極になると有機で造りたくなるんです。有機で造るのは大変なんです。ブドウの畑に玉虫などの昆虫がやってくる環境を作って、害虫を駆除するんです。殺虫剤はほとんど使わないわけですよ。お金もかかる。20世紀の初期にはフランスでも、簡単に雑草を刈ったり出来るということで化学肥料を導入したのですが、このワインの造り手のビネールという人は頑なに昔ながらの造り方を守ったわけです。こうした有機栽培のブドウ作りが、最近では体に良いということで高く評価されています。しかしながら名前だけでビオと称している造り手もいるわけです。そういうワインはダメですね。それと、ちゃんと自然のままの製法で造られたビオでも、地元で飲む場合は良いですが、輸出する場合にはごく微量の亜硫酸SO2を入れないと、雑菌が繁殖してワインが悪くなるんです。SO2を入れることで、はじめてワインが美味しく飲めるんです。昔の日本の業者はそういったことを知らずにビオを日本に輸入していましたから、フランスでテイスティングしたのに、日本に着いたら酸化していたということがよく起こりました。

Sanit Bris Cuvèe Marianne
(サン・ブリ・キュヴェ・マリアンヌ)

こちらは、ドメーヌ・ベルサンという造り手が造ったワインでして、これもビオなんです。サン・ブリは、アペラシオンとしてはそんなに古くなくて10数年前に昇格したんです。ここはキンメリジャンという土壌帯ですからソーヴィニヨンにも合うし、シャルドネにも合うわけですよ。ブルゴーニュの北では、従来ソーヴィニヨンを造っていなかったんです。ですからこのサン・ブリは、ブルゴーニュのソーヴィニヨン・ブランを味わえるという意味で、ちょっとレアなワインなんです。非常に爽やかなワインでして、ステンレスタンクで発酵させています。ワインの造り方を大きく二つに分けますと、ステンレスタンクで発酵させたものと、樽で発酵させて熟成させたものとに分けられるんですが、樽を使うことによって熟成が長くなります。そして、そこから得られるバニラなどのエッセンスが作用します。ところが、ステンレスタンクの場合はバニラ成分とかタンニンとかは得られません。しかし、ブドウそのものが持っている個性を出せるんです。さらに雑菌が付かないので非常に清潔なんです。そんなわけで現在の良い造り手はステンレスタンクで発酵させて、その後熟成させるときに、1樽228リットルの樽を使います。そうするとロバート・パーカー好みのワインに近いものが出来上がるんですよ。そうして造ったワインは値段がとても高いです。1樽15万円以上しますからね。私がソムリエになった頃も8万円ぐらいしました。ワインの銘柄に必ずサンという言葉が付いていますが、これは何を意味するか分かりますか?そう、セイントです。サン・ブリとか、サン・クリスチャンとかサンが付くのは修道院と関係が深いんですね。たとえばスペインの巡礼地に行く場合、途中に、サンという街が一杯あるわけですよ。ヨーロッパ各地には、かつて巡礼者を迎えて宿泊はタダ、食事もタダという修道院が一杯あるわけですよ。

Château Lanessan
(シャトー・ラネッサ)

シャトー・ラトゥールの近くにある村で造られた赤ワインです。2002年もので、17年経っていますから非常に熟成されています。1700年代からこのワイナリーは、一切他の所有者に渡っていないんです。一般に経営母体が危なくなってくると、誰かに任せたり、経営者が変わったりするものですが、このワインの造造り手は、一族でずっと頑なにワイナリーを経営しているんです。皆さんも御存知のメドックの格付がありますね。パリで万国博覧会が開催されたとき、ナポレオン3世が何か面白いことをやれと言ったんです。それでメドック周辺のワインの格付けをしろということになったんです。これは大変なことだったんです。約7千あるシャトーの中から僅か61シャトーを選ぶわけですから。そのとき、このワインは選に漏れたのですが、何故漏れたのか?ここが重要なんです。造造り手は非常に正直な人だったということですが、要するに申告しなかったらしい。しかし、もし申告していたらおそらく5級程度にはなっていたといわれる程評価の高いワインです。かのロバート・パーカーもハウス・ワインにしているほど、評価されています。カベルネ・ソーヴィニヨンが主体になっていますが。最近は地球温暖化の影響で非常にブドウの出来がいいわけですよ。2002年って実はそんなに良いわけではないですが、非常にブドウが熟したいいワインになっています。パワーもありますしね。五大シャトーには追いつきませんが、非常に充実感のある余韻のあるワインとなっています。

Hèita Moelleux
(デザートワイン ヘイタ・モワロー)

最後のデザートワインですが、こちらは2014年もので、元グルメ雑誌で記事を書いていた女性ジャーナリストが立ち上げたワイナリーで造られたワインです。やっぱりグルメ雑誌を書いていると、ワイナリーを立ち上げたくなるわけですよね。このワインはSud Ouest(南西地方)といいまして、ピレネー山脈に近いところで造られたもので、やや甘口のワインです。モワローというのは、ひとつの味わいのタイプなんです。柔らかな味わいといいますかね。地ブドウであるプティ・マンサン100%で造られています。ブドウを放っておくと干しブドウまではいきませんが果熟――フランス語でパスリヤージュしていく。それを搾って出来たワインなんです。

福士さん

福士さん

食事の後、参加者の皆さんに感想を伺いました。
社長秘書の福士さんは、仕事でもワインを嗜む機会が多く、この集いに興味を持ったといいます。
「私自身ワインが好きということもあって参加したのですが、今後仕事で取引先の社長さんたちをはじめ、エグゼクティブの方を接待するのに役立つヒントを、剣持さんのお話から沢山頂いたような気がします」
と話してくれました。

森山さん

森山さん

IT企業に勤める森山さんは、元々剣持さんのイベントに何度か参加しているといいます。「1年ほどイタリアで料理修行をしていたことがあるんです。そのときワインの知識があまりなかったものですから、4年ほど前から勉強を始めたんです。今、あるワインサロンに通って、料理を中心にしたワイン選びを理論的に学んでいることもあって、剣持さんのお話は、色々と興味深いですね」
と話してくれました。

最後に、剣持ソムリエに、この日の集いに対する感想を聞きました。
「ワインと料理のマリアージュを愉しんで頂くというのが我々の趣旨ですが、それ以上にワインは、誰と飲んでいるかが大事だと思っています。ただ家庭で1人で飲んでも楽しくない。年を重ねれば重ねるほど人と出会う機会は少なくなるじゃないですか。しかし、誰かと飲むことによって輪が生まれます。交流が出来ます。そうした意味で、非常に手応えを感じました。この集いは今後も続けていきますので、是非ワインを通して人間としてグレード・アップしてほしいですね」
仕事も学びも、誰かと楽しさを分かち合ってこそ深まるもの――。そんなことを感じた得がたいひとときでした。

当日振舞われたお料理の数々

牛胃の肉の煮込みポルチニ茸を添えて

牛胃の肉の煮込みポルチニ茸を添えて

真鯛のマリネとスモークサーモンとの春のマリアージュ

真鯛のマリネとスモークサーモンとの春のマリアージュ

平目の煮込み 白ワインソースと果実味のあるワインと共に

平目の煮込み 白ワインソースと果実味のあるワインと共に

牛のヒレ肉ポアレ マスタードソースでのお楽しみ

牛のヒレ肉ポアレ マスタードソースでのお楽しみ

チョコレートムース「檀」風

チョコレートムース「檀」風