【レポート】第18回パリクラブ輝く会「和会席料理をいただきながら学ぶ和食の戴き方と美しい所作の実践」と「英国の上流階級のマナー講座」

「I for You 宙」がめざすもの

まずは松平先生が新たに考案されたお点前「I for You 宙(Sora)」を披露していただきました。「宙」という名称には、「茶室が空を飛ぶ」イメージが込められており、かつて祖母の俊子さんに「(人は)丹田から宇宙までつながっている」と教えられた思い出が命名の由来とのこと。お点前の過程を言葉で説明するのは難しいのですが、優雅なBGM(「わが子よ」)が流れるなか、参加者のみなさんは先生の一挙手一投足に見入っていました。

美しい立ち居振舞いでお点前を披露された松平先生

美しい立ち居振舞いでお点前を披露された松平先生

「五道」(書道、華道、茶道、香道、吟道)の一つであるお茶の世界は、「五常」(仁・義・礼・智・信)を反映しており、茶筅、お棗、扇子、茶匙、お茶椀といった道具のそれぞれが、この仁・義・礼・智・信を表しているというのは新鮮でした。しかし、完璧に道具が揃っていなければお茶は点てられない、というわけではありません。たとえば海外へ行って日本のお茶文化を知ってもらう際、ポット一つあればOKというように、現代生活に適合させたのが「I for You 宙(Sora)」。松平先生は昭和女子大学で茶道の指導をされているのですが、「生徒に『海外で淹れられますか』と聞くと、『お釜がないから無理、日本間がないから無理』とか言うのですね。こういう若い世代こそ、世界に向け文化を発信していくべきだ、と思い、手軽にできる『宙』を考案したのです」と話されていました。

「おもてなし」とは想像力、「常識」と「良識」

松平先生曰く、「おもてなし」とは想像力なのだそうです。少女時代のこんなエピソードを紹介してくださいました。松平家では、来客がある日はお手伝いさんが晴れていても傘立てと傘を用意していました。最初、その理由が分からなかったのですが、夕立ちに見舞われたとき、さりげなく傘を差し出す様子をみて「なるほど」と納得したのでした。常に相手の立場を慮って行動する――昔も今も「おもてなし」の根本は変わっていないのかもしれません。

松平先生はまた、「常識」と「良識」の違いについても明快に解説されていました。たとえば、最近は電車のなかで化粧をする若い女性が少なくありませんが、彼女たちに「常識」を説いても反発されるばかりでしょう。なぜなら、そうした行為がごくふつうになってしまったからです。ですから「常識」を教えるのではなく、教えるのは「良識」。若い世代に「良識」を伝えていくことが責務であると強調されていました。

ゲストの田鹿さんにお茶を振る舞う松平先生

ゲストの田鹿さんにお茶を振る舞う松平先生