【レポート】第13回パリクラブ輝く会コンサート「花咲く文化の交差点」中世フランスの音楽

 

6月17日、恵比寿の東京日仏会館にて、中世・ルネサンス音楽ユニット・トルブールによる、中世フランス音楽の演奏会(主宰・パリクラブ)が開かれました。十字軍遠征が始まる少し前の11世紀頃より、西ヨーロッパ全域に広がった吟遊詩人トルバドゥールによる中世音楽。彼らの音楽は、“騎士が貴婦人に恋を囁く”という主題が好まれたことからも分かるとおり、その旋律には、ロマネスクの香りが濃密に漂います。来場した誰もがこの日、陶然と聴き入りました。

フィドルやハープの甘い旋律に乗って、心は中世フランスへ

この日はまず、求愛する男性への貴婦人による歌をハープ担当の小坂理江さんが古フランス語で歌いました。続いて、南フランスの吟遊詩人たちの曲が披露。その後、十字軍に赴いている恋人を慕う女性の想いを歌った古フランス語の歌。続いて、十字軍遠征の帰途オーストリアで捕囚となった獅子心王リチャードⅠ世(1157~1159)の、身代金の到着を待ちわびるぼやきを曲にした歌。さらに、舞曲も披露されました。

小坂さんの解説によると、この頃のダンスの構成図が現存せず、テンポや雰囲気は当時の音楽観や楽器の特性などを踏まえて再現したとのことです。「中世ヨーロッパでは歌の伴奏楽器は主にフィドルでハープも使ったのに対し、アラブでは太鼓との組み合わせもみられた。アラブの影響も受けていたセファルディ音楽などの当時のユダヤ人音楽は、その置かれた状況ゆえに歌と打楽器の組み合わせもあっただろう。」とのことで、太鼓のリズムに伴せて結婚式を祝うセファルディ歌曲の熱唱となりました。その後、逢い引きの見張り役を務めた騎士の友が歌う歌、後年ドイツに伝わり「菩提樹の下で」という題名で今も親しまれる歌の原曲が続きました。最後に、羊飼いの少女と彼女を口説く騎士とのやりとりをユーモラスに描いた歌が歌われ、コンサートは幕を閉じました。

それにしても、11世紀からルネサンス期というと、まず「暗黒の中世」という言葉を思い浮かべる私たちですが、戦争による虐殺、疫病、魔女狩りが猖獗を極めたこの時代、これほどまでに典雅でユーモラスで官能的な音楽が貴族やあるいは庶民の間で聴かれ、歌われたことに驚きを禁じ得ません。この日の見事な歌と演奏で鮮やかに甦った中世韻文物語(ルビ・ロマン「中世韻文物語に」)の楽しさもさることながら、8世紀のイベリア半島、およびフランス南部におけるムスリムの侵攻・統治等を発端として14世紀初頭には、ヨーロッパ社会で爆発的流行をみたとされるイスラム文化の木霊を感じ、軽い眩暈を覚えたひとときでした。

終演後もメンバーは、気さくに来場者と歓談

終演後もメンバーは、気さくに来場者と歓談