【レポート】第3回日仏経済フォーラム 講演討論会「日本・EU(欧州連合)経済連携協定の内容と展望~新たな世界通商体制に向けて」

「貿易不均衡を維持したいEUを動かしたTPP交渉」
慶應義塾大学総合政策学部教授 渡邊頼純氏

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日本はEPAを15か国と結んでおり、これにEUを入れると16件となります。日本の貿易の30%を占めることになり、EUのGDP23.6%、日本のGDP5.9%を占めます。これまでEPAなどの対象国は東南アジア、ラテンアメリカが中心となっていましたが、日本の対外貿易がようやくここまで来たかと感慨深いものがあります。

もともと日本は多国間の貿易交渉を進めていましたが、2008年を境に停滞してしまい、EUと自由貿易協定を直接結ぶ必要に迫られました。しかし、EU側は交渉のテーブルに近づいてくれなかった。なぜ、EU側は動きが鈍かったのか。それは、日本とEU側の関税の差があったからです。

たとえば自動車ですが、日本側は80年代前半からほぼ関税がゼロでした。電気製品やコンピュータ関連もほぼゼロで、平均すると1.9%しか関税がない。しかしEU側は、自動車関税が10%、プラズマテレビは14%の関税をかけている。当然ですが、こうした状況下ではEU側として関税交渉はしたくない。

それがどうしてEUが日本とのEPAの交渉に入ったのか。そのきっかけがTPP(環太平洋経済連携貿易協定)です。野田政権がTPPに前向きになったことで、EU側が交渉を考え始めた。

EU側は、米や麦など5つの聖域といわれる保護産品を抱えた日本が、まさかTPPに入ると思わなかったわけです。2013年3月に安倍首相がTPP入りを鮮明にし、2013年7月23日、初めてTPP交渉に入っていくなかで、EU側の態度も変化したと考えられます。

現在、EUから日本への輸出産品の26.7%が関税対象で、72.4が非関税です。一方、日本からEUの輸出の67.3%が関税対象、32.2%が非関税となっており、このねじれのような関係が交渉の難しさを示しています。

この交渉でEU側が得たもの。それは、非関税障壁、政府・公共調達や鉄道関連、農業およびその加工品などがあります。日本側が得たものとしては、たとえば自動車は発行後8年で関税がゼロになり、さらに自動車などの機械部品が発効と同時にゼロになる。これも現地生産を進めていた日本企業の生産ネットワークに大きな影響を与えるでしょう。

いずれにせよ、このEPAは、日本・EU双方の経済に与えるインパクトが大きく、注視をし続けていく必要があります。