【レポート】第3回日仏経済フォーラム 講演討論会「日本・EU(欧州連合)経済連携協定の内容と展望~新たな世界通商体制に向けて」

「保護主義が台頭する中での、EU・日本のEPAの意義は大きい」
在日フランス大使館経済担当公使 ピエール・ムルルヴァ氏

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今年7月に、EUと日本政府の間でEPAに関する大枠の合意がなされました。私は、この協定を担当者として進めてきましたので、ご説明をしたいと存じます。

貿易自由化の国際的な流れとしては、現在は最悪期にあります。米国とのTPPの見通しが立たず、カナダにおいても保護主義の立場からの反対論があります。世界的に自由貿易の推進は方向性を見失いつつありますが、その中でアジアは自由貿易重視の姿勢を維持している。日中韓ASEANのRCEPはその典型例でしょう。

ただ、各国とも世論との折り合いをつけることは避けて通れない道であり、そのためには①交渉内容・過程についての透明性の確保、②社会や環境への影響についての配慮、及び③当事国間や多様なステークホルダーの間の利害のバランスが重要です。

こうしたなかにあって、日・EUのEPA協定が基本合意に達したことは歴史的意義があります。関税の引き下げやセーフガード(特定品目の輸入制限)などを主要項目に入れて、議論を重ねてきました。議論が長期に渡った経緯の要因としては、すでにEUと日本との間で工業製品などの関税が引き下げられていることが挙げられます。

たとえば、自動車の関税は、双方とも大変低い率となっております。しかも数千キロの距離があるため、輸出のコストがかからないよう、トヨタや日産自動車などを中心に欧州で現地生産が進んでおります。こうしたことから、新たな自由貿易協定を締結するメリットがわかりにくかったことがあります。

私がかつてロメ協定の交渉に携わった時代はこうした関税や輸入枠が議論の対象でしたが、近年ではサービス貿易や投資に協定の対象分野が拡がっており、規格の調和、公共調達、競争政策、地理的表示なども加わって幅広い分野をカバーしたものとなっています。追加されたものとしては、企業ガバナンス、中小企業協力等まで入っています。

EU側としては、ワインやチーズなどの農産物や靴などの皮革製品にかかっていた日本側の輸入制限枠が撤廃されるため、期待が高まるでしょうし、欧州の中小企業などに対して日本市場への信頼感が生まれるだろうと考えております。

この協定は、他国とのEPAと違う、いわば信頼の上に立つパートナーシップの構築ともいうべきものであり、日欧双方の企業、とくに中小企業間の投資や貿易に関する信頼関係、つまり一緒にビジネスをしていこうという精神を育む、他に類のない関係であることが特徴であり、双方にとって大きな「チャンス」だと思っています。