【レポート】講演討論会「日仏イノベーション 総括と展望」

実スペースのウェブサイト化で実績

リテール市場の可能性に言及したセバスチャン・ペアル氏

リテール市場の可能性に言及したセバスチャン・ペアル氏

3社目に登壇されたのは、LOCARISE株式会社代表取締役のセバスチャン・ペアル氏。社名には「ローカル」であり、「上昇(ライズ)」するとの思いが込められているそうです。
2003年に東京・新宿で創設した同社は、実スペースにおける情報分析結果を商業ベースで応用することを主業としており、17名の高いスキルを持つサイエンティストによるチームです。アメリカで始まったインキュベーターに参加したことが、日本でのスタートアップとなりました。これまで数々の受賞歴を誇り、その実績が事業の推進をさらに後押ししているようです。
「フレンチテックの枠組みのなかで仕事をしてきました。政治家の方々との出会いやマガジンのプロモーションへの参加などを通して、新しいウェブサイトを作り、それをイーコマースなどに利用することで、いまや実スペースはウェブサイトの新しい形になりつつあります」と話されていましたが、実スペースのウェブサイト化とはどういうことかというと、多くの顧客が実際の空間でどのような動きをしているかを建物の外からモニタリングするシステムです。ビジターの数をチェックするだけではなく、たとえば店内に5分しかいない人、逆に長くいて買い物に時間を費やす人など、顧客の細かな流れをスピーディーにキャッチし、それぞれのロイヤリティーまで把握できるため、店舗の配置など重要な情報を提供することができるのです。こうした情報分析の反映が、売り上げの改善に資することは言うまでもありません。
日本のリテール市場は、アメリカに次ぐ世界2位。ですから、日本でのリサーチ結果をヨーロッパが参考にする動きも生まれているそうです。
「ファーストムーブで確かなアドバンテージを得ています」と自信をみせるセバスチャン氏。同社もまた、日本をスタートアップの地に選び、成功した例のひとつといえるでしょう。

民間依存型の日本の問題点とは

今回のセミナー全体を総括したパリクラブの瀬藤澄彦会長

今回のセミナー全体を総括したパリクラブの瀬藤澄彦会長

最後はパリクラブの瀬藤澄彦会長が、今回のセミナー全体を総括してくださいました。スタートアップの手法としては、ベンチャーキャピタルと産業クラスターの2つが挙げられます。いずれにせよ、非上場企業にとって、スタート時は資金の調達が最大の困難であり、国家の支援が欠かせないといえますが、フランスの場合は、オゼオと呼ばれる元の中小企業投資銀行がイニシアティブをとり、手厚い資金的援助が受けられるそうです。このように国家主導型のフランスに対し、日本は依然として民間の力に頼る傾向が強く、産業クラスターについていえば、大企業がそこに加わってこないという課題もみえてきます。また、「たくさんの企業が集まると、情報も集まるわけで、1+1が3になります。これをスティルオーバー効果といいますが、フランスではこれを大変な熱意で進めています。プロセスのイノベーションには強いが、プロダクトのイノベーションに弱いのが日本。モジュール化により競争有利が失われ、グローバル化も遅れています。これからはもっとオープンなイノベーションを目指さなければ」との問題点を指摘されました。
「スタートアップに成功したとしても、企業は不断に新しい破壊を繰り返さなければ、競争から取り残されてしまいます。『死の谷』『ダーウィンの老い』といった厳しい停滞期の局面を経ることで成功を得られることを忘れずに」とエールを贈った瀬藤氏。このように甘い世界ではないものの、スタートアップによって世界に羽ばたく日本企業が次々と誕生するよう期待したいと思います。