【レポート】講演討論会「日仏イノベーション 総括と展望」

創業の地が日本であったことが成功の要因

日本の素晴らしさを強調した二コラ・ロエイロ氏

日本の素晴らしさを強調した二コラ・ロエイロ氏

ここからは第二部。スタートアップに成功した企業3社の代表者が登壇され、それぞれの体験談やノウハウをお話しされました。まずはLM3LAB株式会社の代表取締役である二コラ・ロエイロ氏。翌朝、ニューヨークに旅立つというハードスケジュールのなか、本セミナーでの講演を引き受けてくださいました。ちなみに、社名に入っている「3」は、フランスでは縁起のいい数字なのだとか。
2003年に東京・神楽坂に拠点を置き、日本で仕事をして14年になる同社に関しては、すでにスタートアップは終了しており、予算の70%をイノベーションのために割いているそうです。
「私たちの仕事はテクノロジー・オブ・ビジョン・オブ・コンピューターが出発点。日本へ来た当時は、新しい技術を持っていながら、大企業を訪問しても理解してもらえませんでした。成功をみないままフランスへ帰るのか、と思いかけていたところ、NTTドコモさんが技術に関心を持ってくれ、最初のお客様となってくださいました。それ以降、大企業の顧客が増えていったのです。いろいろなイベントをオーガナイズするなかで、フランスと関係が深いDNP(大日本印刷)さんからは多くの支援を賜りました」とスタートアップ時の苦労を振り返りましたが、スタート時を乗り切ったことで、その後は順調な成長を続けています。
人間とデジタルをつなぐ技術を開発すること――が同社の目指すところ。10年の間に10以上の革新的製品を創出してきましたが、まずはフィンガートラッキング製品からスタートし、それからボディトラッキング、フェイストラッキング、そしてイメージトラッキングと進化を遂げてきました。たとえばフェイストラッキングは、お客様の視線の動きをとらえるシステム。店舗にとってはメリットの大きいテクノロジーですが、さらに技術の進歩は日進月歩で、いまや7歳くらいの子どものインテリジェンステクノロジーがあり、AIで処理することができるように。たとえば、ルーブル美術館の展示作品を日テレスタジオで見せることも可能になり、ビジターはスクリーン上で自在に操作し、その技術力の高さをアピールしました。
「創業の地が日本であったとことが、非常に重要なポイントでした」と断言した二コラ氏。「日本での経験は貴重で、スタートアップにしても、ほかの国では成功したかは疑問です。日本のクオリティ、資質の高さ、文化のインパクトが大きかったと思います」と日本という国が持つポテンシャルの重要性を強調されていました。

遮熱塗料で世界の環境改善を

製品について説明する長田さん(右)

製品について説明する長田さん(右)

続いての登壇者は、太陽エネルギーをどのように遮断して冷房に転化するかという、世界でも稀な技術を有するサイペイント株式会社社長室の長田千恵美さん。エコロジーは世界的に注目されるテクノロジーといえますが、同社はまさにその分野で確かな実績を残しています。
「エネルギー削減というと、おそらくソーラーパネルやLEDなどを思い浮かべる方が多くいらっしゃると思います」と切り出した長田さん。同社の看板製品は「プラネットスープラ」と呼ばれる遮熱塗料で、初期投資の回収の年数がとても短く、簡単に塗れるうえ、コスト削減、電力削減効果をすぐに実感できるのが特徴です。
同社は電力削減のひとつのソリューションとして、アセアン諸国を中心に遮熱塗料を供給。また、現在お付き合いがあるフランスの代理店を介して、カメルーンでの営業活動も始めています。
遮熱塗料プラネットスープラの仕組みを簡単に説明すると、太陽光の中に含まれる近赤外線は物に当たると熱に代わる性質があり、そのためビルに当たると建物の中が熱くなってしまいます。仮にプラネットスープラをビルの表面に塗った場合、近赤外線が建物に当たって熱に代わる前に反射するので、熱が建物の中に侵入していきません。熱が侵入しないということは、室温の上昇を抑えるということです。プラネットスープラ効果によって、近赤外線は約95%反射します。この数字は世界一の反射率であり、タイの大手スーパーマーケットチェーンの8店舗に協力頂き、スチールの屋根だけに塗った結果、3日間の温度計測で、エアコン電力が約26%削減できたというデータを得られました。ペンキ代と施工代がイニシャルコストに含まれますが、コストの回収年数は2年弱。10年間の費用対効果率は、100万円初期投資したとして、565万円の削減という予想値が出てきたそうです。
そして、遮熱塗料のもう一つの大きな特徴は、カーボンオフセット付きの製品であるということ。カーボンオフセットとは、原材料の調達から出荷までに排出してしまったCo2を出荷の時には相殺するというシステムです。
また、世界一の反射を何かほかのことに使えないか、との発想から開発したのが、輝度増加塗料「プラネットスープラアイブライト」という製品です。こちらは室内に塗る塗料で、日本ではあまり室内にペイントを塗るといった習慣はありませんが、アフリカ諸国、ヨーロッパ、アセアン地域などでは室内塗料の使用は一般的なことなのだとか。何も塗っていない部屋に10本の照明が必要だったとして、プラネットスープラアイブライトを壁や天井に塗ると7本で同じ明るさになります。インフラが整っていない国ですと、照明がない教室などは珍しくありません。自然光を利用して部屋を明るくすることができる同製品は、安全かつ環境に優しく、学校以外にも病院や食品工場などに適しているといえるでしょう。
プラネットスープラは「リーチ」を取得した製品でもあります。リーチというのはヨーロッパで化学品に関わる規定であるため、ヨーロッパでの流通拡大に期待が膨らみます。
「プラネットスープラとともに、世界全体の環境改善に貢献しませんか?フランスよりアフリカ諸国へ。そして世界中へ」と力強く結んだ長田さん。見事にスタートアップを成功させ、いまやその視線は世界に向けられています。