【レポート】講演討論会「日仏イノベーション 総括と展望」

「日仏イノベーションイヤー」を継続させる意義

熱弁をふるったピエール・ムルルヴァ氏(左から3人目)

熱弁をふるったピエール・ムルルヴァ氏(左から3人目)

スタートアップに際し、一番のネックとなるのが資金の問題。フランスの場合、公的投資銀行(BPI)を通しての支援体制が整っているのが強みといえます。一方、日本はというとNEDOがあり、両者の間で協定も結ばれていたのですが、残念ながら目立った活動は行われていませんでした。そこで、フランスのBPIと日本の中小企業振興機構(SMRIJ)が協力し、BPIとNEDOの協定を活性化しようと、スタートアップ企業の公募を6月に実施したとのこと。日仏が共同プロジェクトに取り組む場合には、NEDOとBPIがそれぞれ40万ユーロを支援することが決まりました。2つの国から支援を得られるようになったのは、イノベーションイヤーがもたらした特典であり、日本側の関心も高まっているようです。
2016年に決まったことのうち、主要な事項を挙げると、2018年にトゥルースの代表団が来日します。テクニカルイノベーションというテーマで日本と協力しようとの気運が盛り上がっており、ボルドーもまた姉妹都市である福岡との提携を利用して、日本との協力関係を強化しようとしています。また、フレンチテックの企業主がリーダーシップをとり、大阪を中心にスタートアップの機会を設けたものの、十分な参加企業がありませんでした。これはPR不足が原因と考えらえますが、「イスラエルではアラブ系企業にも情報を流した結果、予想をはるかに上回る応募がありました。パブリシティは大変に重要」と指摘するムルルヴァ氏。応募数が少ない日本ではBPIのファイナンス額が減ってしまうわけで、今後はSNSを駆使した情報の発信が課題となりそうです。
最後のテーマは「日仏イノベーションイヤー」を持続的なプロジェクトにするにはどうすればいいのか。
「毎年、イノベーションイヤーを年度末に開くべきだと思います。日仏のイノベーション分野における協力を、政治が支援するという意思を明確にさせるため、ビッグフォーラムを開催することも大事。また、テクノロジーイノベーションということについて、まだ十分協議が進んでいない未来産業というテーマがあります。将来、ハイパーソニックの航空機、あるいは東京~パリを結ぶ未来世代の航空機の開発ですとか、そういった未来産業というのが、日仏双方のイノベーションプロジェクトに書き込まれるべきだと私は思います。そして、未来産業の次に大きな関心を呼んでいるのが、ソーシャルプロジェクト。労働の未来がどういうことになるのか。はたして辛い労働からロボットが人間を解放してくれるのか。さらに余暇の時間を増やすことができるのか。こういった問題への関心というのは非常に強いわけですね。ですからロボットのインテリジェンシーというのを使うことによって、労働というものが改善される。例えばタクシーの運転手と言う仕事はなくなるかもしれません。その場合にタクシーの運転手だった人が新しい仕事につけるかどうか。こういった労働の再編というもの、あるいは改善というもの、そういったテーマが新しい日仏イノベーションのテーマになりうるのではないでしょうか」
「結論として、このイノベーションイヤーを通して日仏両国がイノベーションの国であり、テクノロジーイノベーションをするなら格好の国であるというイメージができました。文化交流やツーリズムだけでなく、イノベーションというものが日仏のカギになるというイメージが生まれました。ぜひ、パリのインキュベーターに日本から半年でも1年でも研究にやって来てほしい。2016年のイノベーションイヤーにより、多くのプロジェクトが日仏の協力で生まれました。イノベーションの日仏のプロジェクトを、数年次にわたった形で作成・実行し、初年度の反省に基づいて改善したうえで、我々の協力形態というものを構築していきたいと思います」と結んだムルルヴァ氏。
氏の言葉通り、「日仏イノベーションイヤー」が恒久的なイベントに育ってほしいものです。

科学分野だけではないイノベーション

続いての登壇者は、ムルルヴァ氏とは親しい仲という中島厚志氏。日本が今、イノベーションを必要としているということと、日仏のイノベーション協力が日本にとって大いにプラスになるという点を解説されました。
成長率が1%前後と低迷している日本。その背景にあるのは、出生率の低下と少子高齢化の進行であり、そうした状況が続く以上、能力のある女性の方々、高齢者の方々にもっと活躍をして頂くことが大事になります。ところが、働く人が多様化したとしても、生産性の伸びをみると、欧米主要国のなかでも低く、過去5年間における平均の生産性の伸びは0.3%。フランスの0.8%と比べると、大きな差がみられます。では、日本がどうやって経済の活力を取り戻すかというと、企業が活性化する必要があります。これが生産性の向上につながるわけで、「日本の成功戦略2015年版」にもイノベーションの必要性がいろいろな側面から触れられています。
「大きなイノベーションは、たとえば超スマート社会。第四次産業革命、AI、ロボット、インターネット、こういうものを組み合わせて新たな技術革新に向かうというのが、世界的に話題になっており、ただそういうものが存在するというだけでは、大きなイノベーションではありません。日仏のイノベーションの取り組みですが、日本は13ヵ国と科学技術協力協定を結んでいます。特にフランスとは特別なパートナーシップとの表現になっており、実に多様な取り組みがされています。イノベーションといえば、普通は科学分野での飛躍というイメージが大きいのですが、ビジネスモデルを変えること、新たに革新して世の中が変わっていくこと、それらは全部イノベーションといえるのです」と指摘。今回の日仏の共同声明でも、科学技術のみならず、文化、芸術等の分野も含めて、「優れた知見を擁する日本とフランスが協力することで成果が生まれることに期待がある」とされています。まさに日本とフランスが協力することで、日本のイノベーションが加速するといえるでしょう。
「スタートアップ企業を組み合わせる、そういった産官学が協力するような形ができてくるというのは、日本にとってイノベーションにつながることですし、日本経済の今後の成長にもつながるはず」と中島氏は期待を寄せていました。