【レポート】講演討論会 日仏イノベーションの年~日仏経済関係の課題と展望

フランスが取り組んでいるイノベーション政策を語る

講演は、ピエール・ムルルヴァ公使がフランス産業界のイノベーションを促進させるためにどのような政策を取っているかをテーマにスタート。歴史を振り返ってもイノベーティブな産業育成はフランスのお家芸とも言えるもの。多くのノーベル賞を受賞し数学の研究でも世界2位、特許取得数も世界3位にランキングされている科学技術立国という点では、日本と同じだと言える。本講演では具体的なイノベーション促進政策について説明がなされた。

フランス経済に深い見識を持つピエール・ムルルヴァ公使の講演だけに多くの参加者が集まりました。

フランス経済に深い見識を持つピエール・ムルルヴァ公使の講演だけに多くの参加者が集まりました。

フランスのイノベーション促進政策は4つの柱がある。研究開発費用を減税する税制優遇政策。産業分野別に国内に71のクラスターを設置し産学連携を強化する。そして、フランスの経済産業省は、医療や航空産業などフランスが強みを持つ9つの分野にテクノロジーを集約化させ未来の産業を創り出すという政策を打ち出し、大企業から中小企業までを巻き込んだ大がかりな新しい産業育成プロジェクトを進行させている。それがフレンチテックというイニシアチブだ。これは、大学の研究室とスタートアップ企業をエコシステムとして成り立たせるというもの。2億ユーロの資金を元にファンドを作り、フレンチテックを加速させようとしているという。さらに世界的に展開するために東京を含めた世界都市にフレンチテックハブを設置してグローバルにフランスのイノベーションを促進しようとしている。また、フランスのラ・アル・フレシネというインキュベーション施設には1000社ものスタートアップ企業が活動しているという。

このような現在の試みから、明治時代からのフランスと日本との技術的な関わりの歴史を振り返った内容となった。最初は教える立場でもあったフランスの技術者は日本のものづくり、カイゼン、バリューチェーンの構築など日本の技術力に興味を持っていたことが分かる。
そして、現在ではミシュランなどフランスの企業が日本に研究開発拠点を持ち世界に向けた製品を開発している。逆に堀場製作所や曙ブレーキのような日本企業がフランスに開発拠点を持つケースも多い。また、民間企業だけではなく国の研究機関でも技術交流が活発に行われているという。
このように歴史的にも深い交流を持つフランスと日本がお互いに協力関係を深め、イノベーションを促進させるアクションが現在進行中で、その一つが日仏イノベーションデイだという。この試みによってフランスと日本のコミュニケーションが深まり、スタートアップ企業の日本進出をサポートする役割を果たすことが期待されている。今後は、フランス企業を招聘しての講演会やシンポジウム、あるいは展示会を企画して一般公開し、フランスの技術力をアピールするイベントも計画中だという。

さらに、科学技術振興機構にフランスの研究者を在籍させて日本の技術者との交流を促す仕組み。日仏政府が両国のスタートアップ企業に資金を共同出資する仕組みや学生の交換留学プログラムなど、フランスと日本が共同で実施しているイノベーション促進制度について説明した。

講演の最後は、古代ギリシャの詩人、パンタールの歌、ハイデッカーやポールバレリーの言葉、宮崎駿の風立ちぬの映画などの文学的表現を引用しながらイノベーションの概念について語った。そして、「イノベーションの風こそが人類を進化させる。だからこそ、日本とフランスが共にこの風を吹かせたい」と締めくくった。