【レポート】講演討論会「アベノミクスと日本経済〜フランス日刊紙特派員の診断」開催

イベントレポート

日本のメディアが語らない、アベノミクスのメリット、デメリット

「まず、1本目の矢が目的通りに機能したのは議論の余地はない」とルソーさんは評価しています。2013年から2014年の第二四半期まで、これまで低かった日本のGDPを上昇させました。一方で、日本の財政状態を見てみますと、支出の57%程度しか税収でカバーできていません。毎年、40%以上もの予算を借り続けるしかありません。これにより、政府の債務はGDP比で230%という規模にまで膨れ上がりました。フランスも今年GDP比100%もの債務となりルソーさんは驚いたと語っています。つまり日本の債務はそれだけ大きいということでしょう。

「本来、景気刺激策としてしっかりと予算の使い道に目標を立てなければならないが、日本は公共事業に予算を投じており、経済効果の見えない橋や道路に大量の予算が使われている。しかし、本来は、長期的に高い経済効果が期待できるハイテク分野での調査・研究や人材開発などの分野へ予算が投じられるべき」と語り、効果の見えない公共事業に疑問を呈しています。

「二本目の矢である金融政策、つまり量的緩和として日銀はやるべきことはやった。紙幣を大量に発行し、市中に大量の紙幣を流通させた。しかし、当初の目的を得られることはできなかった」とルソーさんは評価しています。金融緩和政策により、円は一時1ドル110円を超えるレベルにまで下落、2012年のレベルから30%程度下落しました。円安による輸入価格の上昇により、ガソリンをはじめとした物価上昇が起こり始めています。「円安により、企業輸出が増えたか、それはノーです。2年前から続く円安によって、たとえば自動車の輸出が増加したかといえば、全く増えていない」と語り、その背景として、トヨタやホンダなどの高級ブランド車の価格を安くしたくないブランド戦略上の理由、そして輸出企業がすでに北米などの大量消費地のそばに工場を作り、現地生産していることで、円安による輸出増が限定的だと語りました。

金融政策のもうひとつの目的である、デフレからの脱却ですが、政府は円安や財政出動により企業活動が活発化し、自然な形でインフレ率を2%に向けていくことを目標にしていました。「しかし今のインフレは、良いインフレではない」とルソーさんは見ています。本来、インフレは、経済が成長し、消費が進んでいくなかで起こるものです。『しかし現在のインフレは「円安による輸入原材料の価格上昇による物価上昇」「消費税増税による物価上昇」が原因であり、経済成長によるものではない』。

ガソリン価格をはじめ、カップラーメン、ビール、またIPHONEの価格も上昇する一方、4300万世帯の可処分所得は前年同月比でマイナス6%にもなり、日本人の購買力はどんどん落ちている、そうルソーさんは日本経済への危機感を語ります。

「3本目の矢となる構造改革ですが、発足当初の安倍政権は支持率も高く、野党はないに等しいため、総理の望む大胆な改革を全部できたはず。しかしなぜかできていない」とルソーさん。小泉元首相の例を挙げ、郵政改革に反対なら公認しないとして、反対派をすべて追い出し郵政改革を成し遂げた。自民党の議員やロビイストを説得してこうした改革を断行できるか、ルソーさんは大変疑問を持っています。内閣官房の官僚の方々と面談する機会を得た際にもこうした疑問をぶつけたそうですが、「彼らは、改革は開始しており、関連法案も30本通し、法人税改革も行う。安倍政権が発足してわずか2年なのでもう少し様子を見て欲しい」と語られたエピソードを披露しました。

「農業改革は、残念ながら進んでいない。安倍総理のさらなる決断が求められる」とルソー氏

「農業改革は、残念ながら進んでいない。安倍総理のさらなる決断が求められる」とルソー氏

なかでもルソー氏が強調していたのは、法人税改革や農業改革についてです。「日本の企業の70%は赤字企業で法人税を払っていない。本当に利益の出ている30%の企業しか払わない法人税を改革しても効果は少ない」と語り、企業が赤字を数年間持ち越せる制度などで、利益を上げても納税しないという日本の税制上の問題を指摘。「政府の試算によると、企業が銀行に預けている内部留保は230兆円、GDPの44%にあたる金が積み上がっている。しかし、企業は、非正規雇用を重んじ、正規雇用者をできるだけ雇わず、しかも賃上げをしない。これでは将来安心して暮らせないし、正規雇用の3割程度しか結婚もできないため人口も増えないから、消費も伸びない」と語り、大企業の姿勢に疑問を呈していました。

また、農業分野の改革に対しても「フランスで100円を払うと、1Kgのりんごが買える。しかし日本では1個だけ。農業分野の生産性が低く、しかも関税が高いため、食品全体が海外の倍以上の価格となっている」と現状を批判。「しかし、JA全中がTPPに反対し、政府の交渉が空回りしている。政府はJA全中を解体すると言っているが、実際は不可能」と語り、JA全中に関連する人約600万人がいることによる選挙への影響や、日本の全耕地面積の約75%が65歳以上の人によって耕作され、しかも改革が進まない現状を見ると、日本の農業の将来は厳しいという見方を示していました。