イベントレポート 日仏会館・日独協会 共催シンポジウム 「日仏独における子育ての支援 ―それが少子化問題に与える影響」

フランスでは不況だからこそ愛する家族が必要ミュリエル・ジョリヴェ教授

日本で子育てを経験した、上智大学外国学部教授のフランス人、Muriel Jolivet(ミュリエル・ジョリヴェ)さん。1973年来日、早稲田大学修士課程修了。2003年、フランス政府より国家功労勲章を受章。主な著書に、「Homo Japonicus」(「ニッポンの男たち」)、「子供不足に悩む国、ニッポン」、「フランス新男と女ー幸福探し、これからのかたち」など。

日本で子育てを経験した、上智大学外国学部教授のフランス人、Muriel Jolivet(ミュリエル・ジョリヴェ)さん。1973年来日、早稲田大学修士課程修了。2003年、フランス政府より国家功労勲章を受章。主な著書に、「Homo Japonicus」(「ニッポンの男たち」)、「子供不足に悩む国、ニッポン」、「フランス新男と女ー幸福探し、これからのかたち」など。

EUの中でもアイルランドの次に高い出生率を示すフランス。一方、悪化した失業率がなかなか改善されないのも一つの現状です。失業率が高いのになぜ子どもを産むのだろう? と、素朴な疑問を抱く人も多いかもしれません。
その謎をひもといてくれたのが、ミュリエル・ジョリヴェ教授。「フランス人の間では、経済状況が悪く悲観的な状況の中にあっても、子どもを持つことが幸せ、という意識がとても高いのです。不況だからこそ、愛し愛される家族の存在が大切。それが高い出生率につながっている」とジョリヴェ教授は分析します。不安だからこそ、自分のために産む。守ってくれる家族をつくる。決して国の出生率をあげるためではないというのが、個人主義といわれるフランス人らしいいさぎよい選択といえるかもしれません。
出生率を高めているもう一つの大きな要素が、”婚外結婚”。60%の女性が”婚外結婚”のまま初産するというデータもあり、この数字は70年代以降徐々にあがっています。

“婚外結婚”は、「日本の”デキ婚”とは大きく違う性質をもっている」と、ジョリヴェ教授は強調します。”婚外結婚”は、お互い好きなパートナーと暮らしを共にし、ほしいから産んだ、という望んだ子どもを授かるカップルのスタイル。できてしまったから結婚して産んだ、いわゆる”デキ婚”とは確かに意義が違うようです。
さらに最近増えてきているのが、”複合家族”。再婚者同士が子連れでカップルになるという家族構成。さらにはそのカップル間で、新たに子どもを授かるというケースもあり、そうなると家族がいっきに増えることに。
『ほしいから産む』だけでなく『安心して産める』という信頼感もフランスの出生率を高めているそうです。たとえば安定した仕事に就いていなくても、国の支えがあるから大丈夫、と子どもを産む決心がつくことも多いとか。「この安心感が、女性の産む決心を大きく後押ししています」とジェリヴェ教授。

女性の社会進出が高い国が、出生率も高い

フランスの女性たちは、働く意思の有無にかかわらず、男女ともに失業問題が常に目の前にあるので働かざるをえない環境にあります。そのため国も子育て支援に力を入れていて、産休や育児休暇の制度、保育園や保育ママなどの育児施設も整備、3歳からはほぼ全ての子どもたちが無料の幼稚園に通えるようになっています。養子縁組で子どもを迎えた家族に対しても、平等に育児休暇が提供されています。長い夏休みを過ごす子どもたちのための対策も用意され、林間学校や課外授業なども充実。また両親が離婚した場合は、それぞれの親の実家で過ごすようにするなど、働く親たちもパニックにならずに乗り切れる技をもっているといいます。
「子育てと仕事が両立しやすいところは出生率が高い」と断言するジョリヴェ教授は、女性の社会進出に対する考え方の大きな違いとして、産休や有給をきちんととるか否かがあると強調します。「日本人は、迷惑かけるからといってなかなか産休などを全部とらない。しかし、そういう考え方では何も進まない。とるべきです!」と。日本人の美徳とする『迷惑をかけない』考え方が、少子化問題に荷担しているかのようにさえ思えてきます。

完璧な母親にならないススメ

「完璧な母親になる必要はない」というフランス人たちの考え方

「完璧な母親になる必要はない」というフランス人たちの考え方

「専業主婦が多い日本の女性たちは、離乳食はすべて手作り、お手製の洋服や小物、はたまた布オムツ・・と、完璧にこなそうとしているようにみえます。でもそのおかげで疲れ果てていないでしょうか」とジョリヴェ教授は心配します。子育てとは、本来楽しいものであってほしいし、子どもを授かったことで豊かな人生になるはずと。「フランスの母親たちは、決して完璧にこなそうなどとは思っていない」とジョリヴェ教授。逆に、平均以下の母親でいい、という考え方を提案する声さえあるそうです。子どもが泣いていても、しばらくほっておく(20分くらいは許容範囲)、我慢させる気持ちを持たせるなど、生活は子ども中心でなく、あくまでも大人中心。日本風の言葉でいえば、フランスの母親たちは”自己中”かもしれませんが、その感覚が女性たちの”母親たることの重責”というストレスを軽減し、子どもと一緒に育っていける余裕になっているといいます。ジョリヴェ教授は、「決して完璧な母親になろうなんて思わないで!」と、日本の母親たちにアドバイスします。