イベントレポート“海苔の美学(おいしさ)とワインとの体験”開催

海苔の美学(おいしさ)久保井海苔店会長 久保井宏さん

湿気させないことが海苔の美味しさを保つ秘訣

海苔の美学を追い求めて190年余。海苔問屋の老舗、久保井海苔店の久保井宏会長

海苔の美学を追い求めて190年余。海苔問屋の老舗、久保井海苔店の久保井宏会長

久保井海苔店は今を去ること190余年前、大森で創業されて以来、本物の海苔のおいしさ、海苔の美学を追及し続けている老舗です。久保井会長は、最初に「これからお話しすることは、父、祖父、曾祖父などから伝わる言い伝えですが」と前置きして話し始められましたが、その長い歴史と経験から編み出される言葉一つ一つに重みが感じられます。

久保井会長のもとには、さまざまなメディアの取材が多く、記者は必ず、湿気た海苔の利用法を尋ねるそうです。記者は暗黙の了解で『佃煮にする』という返答を期待しているのですが、久保井会長の回答は『湿気た海苔は捨ててください』。「こう言うと記者さんはみなさん怒って帰っちゃうんですけどね」とユーモアたっぷりに久保井会長。海苔は絶対に湿気させないことが大切。その理由は海苔の細胞構造にあります。

一枚シートになる前の「バラ干し」と呼ばれる海苔試食したり、さまざまな海苔の実物を見ながら聞くお話はとても説得力があります。

一枚シートになる前の「バラ干し」と呼ばれる海苔試食したり、さまざまな海苔の実物を見ながら聞くお話はとても説得力があります。

もともと海苔は25~35ミクロンの透けるほど薄いもので、それを5層から10層程度重ねて乾かすと、私たちが普段食べている海苔になります。焼くことによって細胞壁が壊れるのですが、水分が加わると細胞内にあるうまみ成分が揮発することに。「湿気た海苔はうまみ成分が抜けた抜け殻。海苔の品質を確かめようと香りをかぐ人も多いですが、香りを感じる場合は湿気ている証拠。香りとうまみは、口の中ではじめて感じられるものなのです」と久保井会長。

湿気を防ぐためには、横型ではなく縦型の密閉容器に入れて保存すること。半年以上開けない場合は冷蔵庫や冷凍庫でも保存可能です。ただし冷凍庫から出したら5~6時間常温になるまでそのまま開けずにおきます。お酒の肴として海苔をつまむ場合は、食べるたびに容器に軽く蓋をして外気に触れさせないようにすることも重要。「このあとの懇親会の準備についてお話しした際、海苔はお皿に並べましょう、という声があったのですが、それはNG。2分でまずくなります」と久保井会長は話します。