イベントレポート「フランス料理と震災復興支援シンポジウム」~フランスの牡蠣が日本の牡蠣を救う~

唐桑牡蠣再生プロジェクトの取り組み

経済同友会震災復興委員会の活動について紹介する岡田忠夫さん

経済同友会震災復興委員会の活動について紹介する岡田忠夫さん

まず経済同友会震災復興委員会事務局の岡田忠夫さんが、今回のイベント開催の背景について簡単に説明しました。経済同友会震災復興委員会事務局では、3つの震災復興プログラムを実施しています。①企業から被災地の自治体への人的支援 ②寄付金を募り東北3県の職業高校などへ実習機材の提供を行う「IPPO IPPO NIPPON」③被災地から同友会参加企業へのインターンシップ といった支援事業を進めています。
「『唐桑牡蠣再生プロジェクト』は日本とフランスの復興の絆のシンボルともいえるプロジェクト。ぜひ多くの方に知っていただきご理解ご協力を賜りたい」と岡田さんは話し、本題がスタートしました。

日仏共同プロジェクト「海と人をつなぐ漁業体験施設」
宮城大学 竹内泰先生

学生や地元漁協などと牡蠣小屋プロジェクトを進める竹内先生

学生や地元漁協などと牡蠣小屋プロジェクトを進める竹内先生

この唐桑牡蠣再生プロジェクトは、フランスから漁具を提供された「フランスお返しプロジェクト」(後述)、宮城大学・竹内先生を中心に進められた「牡蠣小屋プロジェクト」、そして牡蠣小屋プロジェクトから進化した、フランスのNGO、市民の絆フランス(後述)との共同プロジェクト「海と人をつなぐ漁業体験施設新設」という、さまざまなプロジェクトや支援の連携によって進められてきています。
まず、宮城大学・竹内先生が牡蠣小屋プロジェクトについて話されました。
建築・設計がご専門の竹内先生は、津波によって大半の家屋や建造物が消失した三陸沿岸を初動調査した際、漁業の復興のためには漁師たちが緊急の課題や今後の方針などについて話し合いのできる集会所が不可欠と考え、番屋を建設する番屋プロジェクトを立ち上げました。「打撃を受けた三陸牡蠣の復興を目指す株式会社アイリンク・齋藤浩昭さん率いる『三陸牡蠣復興支援プロジェクト』とも協力しあい、2011年5月に南三陸町に志津川番屋を、2011年9月には東松島に浜一番屋を建設しました。2011年10月からは、唐桑町の鮪(しび)立(だち)にかき小屋唐桑番屋の建設を開始。2012年の4月にオープンし、同年12月にはウッドデッキも完成。これらの番屋建設は漁業協同組合や学生、企業などによる自力建設で、番屋の経営も漁協や地元企業が担っています」と竹内先生は話します。
唐桑番屋では、牡蠣や帆立など三陸の海の幸を楽しめるだけでなく、地域の子供たちを対象にした「一時画伯」(東北3県の子供たちにワークショップを届ける若手クリエイターたちの非営利任意団体)によるワークショップなども開催。豊かな海の自然を喜び合える場としてだけでなく、コミュニティ施設としても機能しています。さらに観光施設としての要素も大きく、新しい地域拠点となっているそうです。
さらに、現在、進められているのが、日仏共同による「海と人をつなぐ漁業体験施設」の新築計画です。フランス側のパートナーとなっているのが、フランスの国際NGO「市民の絆フランス(Secours Populaire français)」です。「この施設は、漁業体験やさまざまな海のアクティビティの体験や海カフェの併設など、本場の海と自然体験のできる場、地域との共生・地域愛の再生の場、そしてフランスとの交流や地域交流の場といった機能を持つ施設にしたい」と竹内先生。工期は2014年7月から9月を予定しています。

フランスの漁師たちによる「フランスお返しプロジェクト」
NPO法人プラネットファイナンスジャパン ロベール・ヴェルディエさん

お互い信用信頼することが大事と話すロベール・ヴェルディエさん

お互い信用信頼することが大事と話すロベール・ヴェルディエさん

「フランスでは東日本沿岸を襲った津波の情報はとても早く届きました。その衝撃的な映像を見て、フランス人、特に牡蠣に関わる人たち誰もが、三陸の人たちに何かしなくては、という気持ちになったのです」とMPO法人プラネットファイナンスジャパンのロベール・ヴェルディエさんは話します。その背景にあるのが、かつてフランスの牡蠣が窮地に陥った時に三陸の牡蠣に助けられたこと。現在、フランスで流通しているほとんどの牡蠣のルーツは三陸にあることを、フランスの牡蠣漁師や牡蠣関係者はみな知っているそうです。そんな彼らが立ち上げたのが、その名も「フランスお返しプロジェクト」。
フランスの牡蠣産地の漁師、養殖組合、商工会議所、大手漁具メーカーなどが参画し協力体制を敷き、日本側ではヴェルディエさんが支援先をリサーチ。ヴェルディエさんは、公的な機関へ働きかけると分配方法などで支援が遅くなると判断し、東北で直接牡蠣の復興策を講じているところを探していたそうです。そんな中、読売新聞の記事で知ったのが、齋藤浩昭さん率いる三陸牡蠣復興支援プロジェクト。齋藤さんとコンタクトしたヴェルディエさんは一緒にやることを即決。齋藤さんが作成した必要物資のリストに基づき、フランスで調達、日本に送る作戦がスタート。「期限は7月15日。牡蠣の生育周期から考えると、その日までに種牡蠣を仕込まないとすべての牡蠣がなくってしまう。そのためには、まず種牡蠣を仕込むロープや浮き輪などの漁具をフランスで集めることにしたのです」。しかしそこで問題が。実はフランスと日本では牡蠣の養殖の方法が異なっており、フランスではロープなどを使用しないそうです。フランスの漁師さんたちの間では、何にロープを使うのか怪訝に思った人も多かったとのことですが、それでも努力を重ねた結果、7月11日にはロープや筏、浮きなど必要な漁具が無事気仙沼の漁師さんのもとに届きました。このフランスお返しプロジェクトはその後、2011年9月からフランス財団の公式な支援として発展し、牡蠣小屋プロジェクトや三陸牡蠣復興プロジェクトにも協力しています。
「支援活動はお互いに信頼しあうことがとても大切。直接逢わなくてもお互いを信用してすれば自然と人が集まってきます。牡蠣小屋プロジェクトも、お互いの信用・信頼があるからこそ成功したと思います。今後は日仏共同で『海と人をつなぐ漁業体験施設』を新設してさらなる信頼関係を築きたい」とヴェルディエさんは話してくれました。

被災地での支援活度を経て、「海と人をつなぐ漁業体験施設」プロジェクトのパートナーに
「市民の絆フランス(Secours Populaire français)」 日本代表 牧敬子さん

市民の絆フランスの活動内容について説明をする牧敬子さん

市民の絆フランスの活動内容について説明をする牧敬子さん

「市民の絆フランス(Secours Populaire français)、略してSPF」は、1945年に戦争捕虜の家族の支援や貧困、災害などの犠牲者の人権擁護を目的としてフランスで設立されたNGOです。フランス国内では約100のさまざまな組織を中心として約8万人のボランティアが活動しています。活動資金は市民や団体、企業からの寄付に支えられており、70%をフランス国内の問題に、30%を海外支援に充当しています。海外ではアフリカ、インドネシア、ハイチなどで展開、世界各地の約160を超えるNPOとパートナーシップを結び活動しています。
「震災後は2011年4月から被災地に入り、現地のNPOやNGOとともにさまざまな支援活動を続けています。例えば、大船渡市へスクールバスの提供、石巻でコミュニティホールの建設、大槌市でのこどもセンターの設立など幅広い活動を行っています」と牧さんは話します。2012年2月からは、唐桑の牡蠣小屋プロジェクトの「海と人をつなぐ漁業体験施設」新設事業にフランス側のパートナーとして参画。「今までは一方的な支援でしたが、日仏の共同プロジェクトとして立ち上げることで、未来につながる支援になるのではないかと思います。建設資金を私どもで全額出資するのは難しい状況でもありますので、ぜひパリクラブの方々にもご協力いただければと思っております。今後もこれまで培ってきた日仏間のネットワークを生かして、さまざまな分野での交流を計れるように、コーディネーターとして活動していきますので、よろしくお願いします」と牧さんは話し、一連のシンポジウムは終了しました。