イベントレポート「フランス料理と震災復興支援シンポジウム」~フランスの牡蠣が日本の牡蠣を救う~

「フランス料理の昨今」
セルリアンタワー東急ホテル総料理長・福田順彦さん

シンポジウムはまず本題のための前奏として、セルリアンタワー東急ホテル総料理長の福田順彦さんに「フランス料理の昨今」についてお話しいただきました。福田さんは、1993年に渡仏、さまざまなレストランで修業を重ね、セルリアンタワー東急ホテルオープン時より総料理長として活躍されています。

労働環境とフランス料理の意外な相関関係

司会進行を務めたのはパリクラブ副会長の高橋衛さん

司会進行を務めたのはパリクラブ副会長の高橋衛さん

「フランス料理の醍醐味は、食材のエキスが凝縮されたコクのあるソースをワインとともに味わうこと」と福田さん。この美味しいソースを生み出すのがメイラード反応と呼ばれるもので、糖とアミノ酸の加熱によって茶褐色に変色すると同時に香りや味の深みが創出されます。たとえばフレンチの代表的なソースであるガストリックソースやドミグラスソースなどもメイラード反応の賜物。長時間煮詰めることで旨みを生み出すのですが、最近、フランスではソース作りにおいてメイラード反応が減少してきているそうです。その理由は、フランスの労働環境の変化。1週間の就労時間が厳格に規制されるようになったため、ソース作りにあまり時間を割くことができないとか。その代わり、近年では真空調理や低温調理などサイエンスの力を借りた新しい調理法が編み出されるようになっています。
就労時間の規定や外国人就労規制といった労働環境の変化は、レストランのサービスにも影響を与えていると福田さんは話します。かつて修業時代には、レストランの料理はさることながらサービスの質の高さに感動する場面が多かったそうです。例えば、お客様のテーブルの着席位置。どのお客様をどこのテーブルに案内するか。お客様の着席位置によって、満席になった時のレストラン全体の雰囲気が大きく左右されるそうです。現在では、プロフェッショナルなサービスマンが不足気味とのことで、料理の質及びサービスも変化してきたといいます。

本物から本質の時代へ

参加者多数のため、会場を急遽日仏会館ホールに変更して開催

参加者多数のため、会場を急遽日仏会館ホールに変更して開催

福田さんは、尊敬する先輩が遺した「料理とは繊細な感性と慎み深い態度で臨むもの。そしてすべてを決めるのは食材である」という言葉をとても大切にしています。その食材も時代とともに変化してきており、昔の料理レシピに基づいて伝統料理を作っても食材そのものが変わっているため、美味しく作れないことが多いそうです。修行時代にはとてつもなく苦かったクレソンも、今はほとんど苦みがなくなったと話します。ちなみに福田さんは当時クレソンを知らなかったため、レストランの食材冷蔵庫で見つけられず悔しい思いをしたこともあるとか。
食材は、生育環境にも左右され、ヨーロッパの地下水はミネラル豊富な硬水なので食材にもミネラルが多く、日本でフランスと同じ調理法をしても同様な味は得られないそうです。
福田さんは食の安全についても言及。日本は輸入野菜については規制が厳しいそうですが、国内生産野菜については規制が弱いとか。だからこそ自分たちの食の安全は自分たちで守ることが重要。生産者や生産地をチェックすることで、生産者と消費者が一丸となって安全・安心を守ることが大切と話します。
さらに本物から本質の時代になったと指摘。「かつて我々や先輩たちはフランスで本物を学び日本に紹介してきましたが、今は、食材から料理、サービスに至るまで、それらの質が本当に良いのかどうかが問われています。しっかり見極めながら、本当に良い質を嗜んでいかなくてはならないと思います」と福田さん。

一人ひとり考えたい自然本来のあり方

「おいしい食材ほど手をかけないもの。牡蠣は生食にまさる調理法はないと思います。牡蠣は生でいただくのが一番」と話す福田さん。しかし、ホテルでは感染予防のため、牡蠣の使用が禁止されていて、私生活でもNGとか。
福田さんは牡蠣に関する薀蓄も少し披露。日本では縄文時代から食され始め、室町時代には広島で養殖が開始されました。ヨーロッパでは『英雄 牡蠣を好む』という諺が伝わるほど歴代の英雄に愛されたそうです。牡蠣は何と言っても鮮度が命。牡蠣を開けた時に少し泥臭く感じるものは食べないほうがベター。
「美味しい牡蠣が育つのはその海のそばに美味しい森や山があるからこそ。新鮮で美味しい牡蠣を楽しむためにも、自然本来のあり方や自然循環などを今一度考えていただき、豊かな自然を残すことの素晴らしさを感じてほしい」と話され、講演は終了しました。

セルリアンタワー東急ホテル総料理長・福田順彦さん 略歴

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1957年 名古屋生まれ
1987年 名古屋東急ホテル入社
1993年~1997年 パリのホテル、レストランで修業
2001年 セルリアンタワー東急ホテル開業時より総料理長に就任
2008年 「農事功労章 ジュヴァリエ」受賞
2009年 「シャンパーニュ シュバリエ」受賞